壱参話 何事も順序は大切に
「ハクレイ、ねえ起きて、ハクレイ」
ん、う、うん?
「目を覚ました? ハクレイ」
あ……ああ、おはよう。ラネ……
……あれ? なんだよラネット。なんでお前俺の上に跨ってるの?
「ハクレイ。私、不思議なの」
何が不思議なんだよ。
ってか無視するな。どいてくれ。なんか重たいんだよ。
「ハクレイ。だからレディに重たいって言わない!」
おぉう! すまん!
……まったく、だから女は…
「何か言った?」
なんでもねーよ。
それより何が不思議って?
「実はね、なんだかあんたの顔がいつも浮かんできていてね」
なんでだよ。
「それで、そのたびにどうも動機や息切れが激しくなってね」
そうか、そういう時はきゅうし……
ってちょっと待て。それって……
「私はこれはもしかしたらって思っててね……」
おい、なんか嫌な予感がするんだが……
「だからそれを確かめるために、あんたと……」
俺と?
「■■■■してみるわ」
……………………はぁ!?
今、お前なんて言った!?
「だ……だから■■■■よ! こんな恥ずかしいこと……二度も言わせないで!」
いやいやいや待て待て待て! 早い! いくらなんでも早すぎるだろ!
なに、かなり順序すっ飛ばしてんの!?
「だ、大丈夫。安全策はとるから!」
いや駄目だって! そんなことしたらこの作品、夜想曲の方へ移されるわ!
「……あんた、なに言ってるの?」
……突然すぎるお前が何言ってんだ!?
「まあいいわ、じゃあまずは口づけね」
っておい! 顔を近づけんな! 俺はそんな気がないから離れろ!
「な、なによ! 私だって恥ずかしいんだからね!」
いや、恥ずかしいじゃなくて純粋に嫌……
「動かないで!」
なに!? 金縛りか!? う、動けー!!
「ん~~~~~」
待て、早まるなあああぁぁぁぁぁ…………
「うおおおおおおおおおお!?!?」
「きゃ!?」
俺はすごい勢いで上半身を起こした。
そして、注意して前を見ると……
「夢か……」
まさかの夢落ちだった。あ、危なかった……
……ってか、ふざけるんじゃねーぞおい!! 今時夢落ちだなんて禁じ手使ってんじゃねーぞ!!
と、そんな怒りをどこかにぶつけつつ、俺は自分のすぐ左隣に人影がいることに気が付いた。
「ラネット……?」
「お、おはよう…ハクレイ……」
なんかさっき顔が近かったようだが……
あれ、なんだこの既視感。
「ラネット。ひとつ聞いていいか?」
「な、なに。ハクレイ」
「おまえ、何しようとしたの」
ずいぶん俺に近づいていたようだが……
「え!? そ、それは……」
「うん、なんだ?」
「なんだかハクレイがすごくうなされていたから……」
「え?」
そう言われてみると大量に寝汗を掻いてることに気がつく俺。
相当な夢を見てたな……
「……………」
「な、なによハクレイ! なんでそんなにじっと見てるの!?」
「いや、なんでもない……」
どうか正夢であらんでくれ。
そう心の中で強く願っていると……
「う……うん……」
別のベッドで千代は目を覚ました。
そして、俺やラネットを交互に見て……
「……おはよう。零ちゃん。ラネットさん」
「おはよう。千代」
「おはよう。クロチヨ」
朝の挨拶をした。
そして千代は開口一番に……
「……ねえ零ちゃん。聞きたいことがあるんだけど……」
「……なんだ?」
嫌な予感がする。
「どうして男の子は朝から女の子におはようの接吻されると喜ぶの?」
「ゴホッ!?」
「ぶっ!?」
あまりにも予想外で、ある意味予想内の質問にむせた。
ラネットも吹いているし。
「ちょ、ちょっとクロチヨ!?」
「お前その言葉どこで覚えた!?」
俺は教えてないぞそんなこと!
千代の母様もそんなこと教えるとは思えないし。
「えっとね、昨日湯浴みを終わった後にね、受付さんに会ったんだけど……」
「受付さんに?」
たしかここの宿の受付は若い女性だったな。
火蛇族が攻めてくるってのにぎりぎりまで退かないってずいぶんな根性だな。
「それでね、受付さんが『同室の白髪の子は彼氏なの?』って」
「おい……」
「『もしかして三角関係!? きゃ!』って」
「な、なに言ってるのよ!?」
そう言えば受付の時に俺と千代とラネットが同じ部屋を選ぶのを見てたな。
あの受付嬢、俺と千代とラネットの事を面倒くさい関係に思っているな。
そんなに俺達がそう見えるのか?
「私が『彼氏は解りませんが大事な人です』って言って……」
「なんて曖昧なことを……」
いったいどう受け止めたんだろうか受付嬢。
「そしたら受付さんが『片想いなんだね。あの栗色の髪の子に寝取られないようあの男の子があなたにキュンと来ちゃう方法を教えてあげるわ』って」
「おい!」
変なことを吹き込むなよ受付嬢!
「それがさっきの質問か」
「うん。そういう事だけど……」
まったくなに教えてんだよ……
……ってか寝取られないようにだとおやすみのでは?
おはようのチューじゃ手遅れだろ。
「ちょ、私が……ハクレイを…………!」
ラネットが滅茶苦茶慌ててるし……
「千代。寝込みにやるのはなし! わかったか」
「うん。わかった」
はあ……大丈夫かこれ。
「ちょっと! 寝込みじゃなきゃやっていいってことなの!?」
間違えた。
「起きてもやるなよ、お前等!!」
「わかった。零ちゃん」
「なんで私にまで言うの!?」
ラネット。お前もだぞ。
「ところで零ちゃん」
「なんだ?」
「そもそもなんで接吻をすると喜ぶの?」
「ごほっ!?」
「ちょ……!」
二度もむせた。
こんな感じで一日は始まったのだった。
「やればわかるかな?」
「やらんでいい!」
はあ……この後用心しなきゃいけないってのに……
全く以って緊張感のない朝だった。
2
さて、ここはオーリエ村から離れた所である。
村の異変が見えて、なおかつぎりぎりまで離れられるところである。
しかし、丘とかあるが基本平原ばっかだな。
向こうに森はあるけど、村の近くにはないためこっそり近づかれるわけじゃない。
「さて、攻めてくるであろう火蛇族だが……ラネット」
「なに?」
「今日攻めるようだが、夜に奇襲するのと今すぐにでも攻めるのと、どっちだと思う?」
「そうね……」
まあ昨日蜥蜴男たちをやっちまったし答えは……
「すぐにの方だね。もともとの目的は気づかれないうちに奇襲よ。けど、昨日、あいつらが戻ってこないことから気づかれたと思っている。なら、向こうの準備が整う前に村を襲うってことね」
「ふんふん」
「それに、同盟の水妖族は準備にもっと時間がかかる。ならば、せめて水妖族が来ないうちにってとこね」
なるほどね。
二対一よりはましってことね。
と、ここで千代が、
「あの、諦めてはくれないのですか?」
「まさか。もう国境警備隊は壊滅させたのよ。後戻りできないわ」
「そうですか……」
そう言われ、しょんぼりする千代。
本当にこいつは争い事は起きてほしくないと思っているんだな。
「……まあそのために昨日、奇襲するには的確な場所を調べ、こうして早めにここに来たのだが……」
「え、あんた昨日の見回りってそういう意味!?」
「そりゃそうだ。護衛対象の周辺はよく見ておかなくてはな。しかし、千代」
「え、なに?」
「俺はあまりこういうのに詳しくはないが、この後攻めてくるであろう大軍に対し、有効な手といえば大抵、指揮官……つまり大将を倒すことだ」
「うん」
「でもな、『この隊の大将は誰だ!』と言って『は、はい! 私です』って素直に出るとは限らない」
「うん」
「仮に出たとしてもすぐに大将のもとにたどり着く前に面倒くさい兵士達と戦わなければいけない」
「いくら零ちゃんでも無理なの?」
「無理だ。一人には一人の限度がある。だからこそ、こちらも準備したものを使う」
「準備したものって昨日買ったあれの事? でも、戦いには役に立たないんじゃ……」
「なに、物は使いようだ。いいか……」
ん?
なんか向こうに影が……
「……千代。双眼鏡はあるか」
「え? もちろんあるけど……」
「貸してくれ」
千代は銃と同じく、いつも双眼鏡を持ち歩いている。
俺は千代から双眼鏡を借りて、気になった方を見た。
すると……
「おいおい、もう来たのかよ!」
「え!?」
「え?」
はるか向こうには蜥蜴男どもが大勢でこちらへ向かっていた。
しかも何やらすごい勢いで走っている巨大な鰐に跨っていた。
思ったよりは少ないが大勢に違いがなかった。
「準備する手間もくれないってか……ん?」
先頭には何やらごつい装備の蜥蜴男がいるが……
明らかに隊を仕切っている。
「あれが大将か……」
先頭切っているのならわかりやすい。探す手間が省けた。
「ちょっと何!? 奴らが来たって本当なの!? それにその目に当ててるのはなんなの!?」
「ちょ、待て。落ち着けって!」
何やらラネットはうるさいので、双眼鏡を説明し、貸してみると……
「嘘…………!?」
どうやらラネットも気が付………
「あれは火蛇族の将軍の一人、カルリトロス将軍! なんでここに……!?」
………はい?
「ラネット、誰それ?」
「カルリトロス将軍は他の種族でも有名な将軍で卑劣で残忍な奴よ! まさかたった一つの小さい村のこんな奇襲作戦に出るなんて……!」
「じ、実力の方は?」
「そんなの……」
ラネットは一瞬口ごもったが、やがて口を開いて言った。
「強いに決まってるわ!」
「…………まじ?」
なんか俺達、本当に運が悪いと思った瞬間だった。
さて、どうしていくのでしょうか。




