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 壱話 俺達は用心棒だ

さて、始まってしまいました。


 月が昇る深夜、ある住宅街にて。人の気配も感じられない夜道の中を、一人の女性が何かから逃げるように走っている。

 いや、実際に何かから逃げている。その表情は今にも破裂しそうなくらい緊張にあふれている。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、」


 しかし女性は行き止まりにぶつかってしまった。

 袋小路だ。何処にも逃げられない恐怖が女性の表情をなによりも暗く歪ませる。


「へっへっへっへっへっ、そんなに逃げないでよ~」


 女性を追いかけていたのは男だ。フードつきの服装で顔があまり見えず、しかしそれ以外の部分から男が何者なのかが深く感じられた。

 暗い表情で女性を見る。何をしだすのか考えられない。


「別に君に危害は加えないさ。僕は君の事が好きなんだからよぉ。だからさ、こっちにおいで」


 この男はいわばストーカーであり、今まさに犯罪を犯そうとしている。

 手紙に電話に脅迫と、ここ何日もずっと女性にしつこく付きまとっていた男は痺れを切らしたかのように女性を追いまわし、今の状況に至ることになったのだ。


「ほら……ほら……!」


 そんな男の眼はとても昏くどんよりしている。何処からどう見て正気じゃない。

 話し合いで何とかなることなど、とうの前に終わっていた。


「……………!」


 女性は男の眼を見るたびに後ずさる。

 恐怖、困惑、理不尽、表情一つに様々な感情が浮かび上がる。その怯えたような表情に男は激情してきた。


「なんだよ。逃げないでよ。こっちに来いって言ってるんだああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 すると男が我慢できないように女性の方へ襲い掛かって来ようとした。

 容赦のない直情的な一直線の走りに女性は絶望へと差しかかろうとしたのだが……

 その時、


「……………まちな」

「なにっ!? ぐへぇ!」


 ストーカーと女性の一方的な理不尽は、第三者の介入によってあっさりと打ち砕かれた。

 つまりは、何者かが男と女性の間に割り込み、男の方を殴ったということだ。

 殴られた男は勢いよく女性から離れるように吹き飛ぶ。


「な、なにをする!」


 暗闇の中、突如割り込み男を殴った者。

 それはまだ高校生ぐらいの少年だ。


「なにをする、はこの人の台詞だがな」


 それも少年は客観的には美形と形容される存在であった。


 それはとてもきれいなセミロングの白い髪をカチューシャで後ろに流し、中性的で整った顔を澄ました顔ですごす、とても美しげな少年だった。

 ……ただし、なぜかジャージ姿であることを除いてだが。


 少年は男に対して鋭い目を向けて言う。


「さて、お前がストーカーだな」

「ストーカーだと……! お前も、お前も僕の事をストーカーと呼ぶのかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ひっ!?」


 少年の言葉に激昂した男はナイフを取り出すと少年に襲い掛かった。

 女性が短い悲鳴を上げる中、男は危険な目をしたまま少年に襲い掛かる。


「僕の愛を、邪魔するなあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「知るか」


 刃物が相手だろうと怖気づかない。

 少年はスゥと一息吸って突き出したナイフをひらりと躱すと、


 ドッ!!


 回し蹴りを思いっきり男の頭に当てた。


「がぁ!」


 鋭い一撃にそのまま男は蹴り飛ばされた。

 よほど効いたのか男はそのまま地面に倒れ、そのまま意識を失っていく。

 だが、気絶間際に男は一言。


「お前は、いったいなんなんだよぉ……」


 それに対し少年は、


「用心棒だ」


 そう答えた。

 ……聞こえたのか聞こえないのか、男はそのまま気絶した。

 少年は男が気絶したかどうか確認すると、女性の方へと向き合う。


「ふう、これでストーカーを撃退しました」

「ありがとうございます。でも、もう少し早く出てほしかったけど…」

「すみません。ストーカーを逃がさないためでしたので。もっとも逃げずに襲い掛かってきたけど」

「とにかくこれで一安心です。お礼にこれを…」

「お、依頼金か。確かに受け取りました」


 少年は封筒を受け取ると確認し、ジャージのポケットにしまった。


「また何かお困りのようでしたら依頼してください。用心棒はいつでも依頼主を護りますので」

「はい。ありがとうございました」


 少年はそう言って立ち去った。

 恐怖からの解放に、女性は心の中でも何度も少年に感謝の言葉を向けたのであった。



          2



 少し離れた所で……


千代ちよ。依頼は終わった。戻るぞ」


 そう言われ、出てきたのは少年と歳が同じくらいの小柄な和服の少女だ。

 少女は不思議そうな顔で少年を見て言う。


「あれ? れいちゃん、もう終わったの?」

「ああ終わった。ストーカーは逃げずに立ち向かったからそっちには来なかったがな」

「私の出番はなし?」

「むしろない方がいいけどね」

「え? それはどういう意味?」

「なに、そのまんまだ」


 二人は楽しそうに会話して行ったのであった。








 用心棒


 それは


 護衛のために身辺につけておく者。


 閉めた戸を内側から押さえておく棒。しんばりぼう。


 万一のときに身を守るために、手もとに用意しておく棒。


 さまざまな意味があるがつまり持ち主や雇い主を守るためのものである。


 この物語は主人公である二人の用心棒、ジャージ剣士白零はくれいと和服銃士黒千代くろちよの強きをくじき弱きを守る異世界用心棒譚である。


「もしこっちにすとーかーさんが来たらこれで撃退するのに……」

「ん? おい! 千代! 何でお前そんな危ない物持っているんだよ!」

「それはね零ちゃん。危ない男から守るためにお母様が護身用にと……」

「千代……危ないのはお前だ」


 ……………はずである。

 




         3





 さて、今日も一日頑張りますか、と俺、金斬かなぎり白零はくれいは今日も仕事場へと向かったのであったが……


「「大仕事?」」

「うむ、そうじゃ。君たち二人には長期の護衛に出てもらうことになる」


 ここは青江用心棒派遣事務所。

 簡単に言うと依頼して用心棒を派遣するところである。

 ちなみに人数は所長や俺を含めて五人である。


「いったいどこでだれを護るのですか?」

「それが、言ってこないのじゃ」

「それでは、どのくらい長いのですか?」


 今、質問しているのは共に仕事をしてきた相棒、三咲さんざき黒千代くろちよである。

 雪駄に和服、さらに長い黒髪と、大和撫子のような美少女だ。

 その上、小柄で愛くるしい顔をしているのだが……

 なんと言うか、見た目に合わずかなり難儀な所が多いが……


「白零! ボーっとするな!」

「あ、はい!」


 この目の前にいる厳ついおっさんが所長の青江堅一郎あおえけんいちろうである。

 元傭兵だとか元SP(セキュリティポリスの事だ。つまり要人警護警官の事)とかいろいろあるが、とにかくすごかったらしい。


「それでな、どれくらいの期間と言うと、はっきりしないようだ」

「それはまた、面倒ですね」


 主に依頼内容を決定づけるのは、


 1、護衛対象や人数

 2、護衛期間

 3、場所


 この三つである。

 依頼金はあらかじめ払うので、期間が不定となると後払いという事になる。


「いや、それが依頼主が前払いをしたようでな。しかもこんなにもだ」


 所長が依頼金を見せる。

 それは……


「うわぁ……」

「おいおい」


 それは現金ではなく小切手だった。

 しかも0がたくさんある。

 前払いされたんじゃ断れないな。


「この後、依頼主が指定した場所に派遣するのだが…」

「うわ、海外じゃん!」

「これは、何かありそうですね」


 所長が申し訳なさそうに言う。


「すまない。君たちはまだ若いのに、こんな正体不明な依頼を任せてしまうなんて…」


 しかし、ほかのメンバーは別の依頼でおらず、頼むのは俺達しかいない。


「大丈夫ですよ青江さん。こういうのは信用第一ですから」


 そう、こういう仕事は信用が大事である。

 どんな依頼であろうとやり遂げてみせる。


「わかった。くれぐれも気を付けるのじゃぞ」

「「はい!」」


 俺達は身支度をして依頼人のもとへと行った。

 ちなみに武器に関しては本来は銃刀法違反であるが、この青江用心棒派遣事務所は裏で特許をもらってるので問題を起こさない限り大丈夫だ。

 こうして俺達は用心に用心を重ねた装備で準備を終えた。


「行こう。相棒(零ちゃん)

「ああ、行くぞ。相棒(千代)


 後に俺は思った。

 この時点で止めればよかったのに、と。






  中略





「おいちょっと待てぇ! 今なんかすごい手抜きをしたぞ!」

「零ちゃん。何を言っているかわからないけど、注目されているよ?」


 う、しまった。

 こんな街中で突然大声あげたら変な人じゃん。


「えっと、ジャージでうろついている時点で十分注目だと思うんだけど……」

「んだよ。そういう千代だってここイギリス(・・・・)で和服は十分目立つぞ」


 そう、俺達はいまイギリスのロンドンにいるのである。

 なにやら肝心の過程が省かれた気がするが気のせいだろうか?


「それに背中のそれは隠した方がいいんじゃないの?」

「大丈夫だ。袋に入れているから武器には見えないだろ」


 街中で武器をむき出しで持ち歩いたら問題だし、


「けど、青江さんが危惧してた割には妙にあっさりしてたね」

「ああ、そうだな」


 ちなみに今、仕事が終わったところで明日日本に戻るためにも今、宿泊ホテルへと行くところである。

 なにやら肝心の(略)


「それにしてもお月様が綺麗ね」

「あ? ああ、そうだな」


 今宵は綺麗な満月だ。

 日本にいたときはあまり見ないが……

 

「はら。あそこの川なんて月がきれいに映っているし」

「本当だ。月が綺麗に……」


 あれ?

 何だか妙に輝きが強いんだが……

 気のせいか?


「ん?」

「どうした? 千代」

「うん、あそこに人が……」

「え?」


 千代が指差した方に視線を向ける。

 そこには川に架かっている橋の欄干に何やら若い女性が身を乗り出して……

 ……って!


「自殺じゃねぇか!?」

「まあ大変!?」

「お、おい! ちょっと待てよあんた!」


 俺は橋の欄干に身を乗り出している女の身体にしがみつく。


「ちょっと!? 何してんのあんた!」

「待てよ! 自殺なんてしてんじゃねーよ!」

「何言ってんの!? とにかく離して!」

「だったら自殺なんてやめろ!」

「だから違うって! ええい離せ!」


 ヒュ!


「え?」


 突然の浮遊感。

 あれ、なんで俺、空飛んでんだ?

 ああ、あの女性が俺を投げ飛ばしたのか…

 それで俺は今、もしかしたら……

 ……川へ落っこちているってこと?


「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」


 ザッバ―――――ン!!


 なんで俺が川に――――――――――――――!?



          4



 あっ! 零ちゃんが川に落ちちゃった。

 どうしよう……


「い、いけ……この世……間を……に……なんて」


 自殺しようとした女性が何か言ってます。

 そうだね、こういう時は。


「零ちゃん! 今助けに行くよ!」


 ザッバ――――――――ン!


 私が助けに行けばいいんだね。

 待っててね零ちゃん今どこに……






 この瞬間

 金斬白零と三咲黒千代。

 この二人の用心棒はこの世界からいなくなってしまったのであった。

なぜ、わざわざイギリスでって?訳はあります

また、準備万端な状態で行かせたいからです。

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