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第2話 論より少女

「あれ?」

 猫は小首を傾げました。

「ボク、何か間違えた?」

 い、いろいろ間違ってますが。

「おかしいな。これが今のトレンドだって聞いたのに」

 トレンドはトレンドですけどね。


 ていうか、トレンドという言葉自体はすでにトレンドではないのでは。(混乱)


「キミ、真秀子まほこだろ? 立花たちばな真秀子」

 確かにその名前は24年間慣れ親しんだ私のものに相違ありませんが、うなずいちゃっていいものか。


 ――はっ! まさか!!


「マホ子って名前のせいでマホウ少女に選ばれたとか!?」

「そこはせめて地の文で書いてよ」

 猫はため息をつきました。

 肩をすくめたようにすら見えます。


「いくら何でもそれはありえない。一応こちらにも基準てものがあるからね」

 基準……何でしょうそれは。

「ひとつ。乙女であること」

 ぐ。

 いきなり微妙です。

 確かに最近の思考回路はすっかりオトメモードの私ですが、しかし日本語の慣例的に乙女というのはもうちょっと年若い少女について使うべき表現ではないでしょうか。

 一応文学部国文学科出身、その辺は看過出来ません。


「あー、ごめーん」

 猫はのんきに言いました。

「この場合、未通女おとめとか処女おとめで変換して考えてね」


 !!!


 に。

 に。

 に。


「にゃあああああああっ!!!!」


 いきなり何言い出しやがりますかこの猫は!!

 ひ、人の、人の、あんまり触れてほしくないところにずかずかと!!


「別にいいじゃない。彼氏いない歴=年齢なんでしょ? これで性体験だけあったら逆にボク何も言えてないよ。どんな地雷踏むかわからないし」


 そういう問題じゃないのーっ!!


 しょ、処女っていう、処女っていう、その字面が、字面が……。


 あれ? 字面?


「うわ、ようやく気がついた」

 猫は確かに笑いました。


「その通り、ボクの声はキミにしか聞こえてない。しかも鼓膜を震わせてる訳ではない。いわゆる精神感応テレパシーだよ」


 え、えすえふ、です。

 あれですか、最近は魔法少女ものってSFのくくりですか。


「ボクは宇宙生物じゃないけどね」


 ――どうだか。


 ……あれ?


「うん、そう。こちらは送信だけじゃなく、受信もしてる。だからキミは猫相手にぶつぶつ呟く人にならずに済んでいる」

 そうだ、私、さっきから声を発していない。

 なのに会話は成立してる。

「もっとも、叫び声二つと、マホ子発言はばっちり音波だけどね」

 よ、よりによってそこが!!

 だから「地の文で」って言ったのか。


「……で、話を続けてもいいかな」

 猫はため息をつきました。

「魔法少女の条件というか基準は、他にいくつかある。でも、もう面倒だから言わない。キミには関係ない話だし」



「か、関係ないわけないでしょう」


 やっと、声、出た。


 猫がぴくりと眉を上げた。――あ、いや、無いけど、眉。

 そんな表情をした。

「け、契約条件、ちゃんと確認しないと、痛い目にあうもん」

「ふむ。確かにね」

 猫はくるりとオッドアイを動かした。

「じゃあさらりと触れるから騒がずに聞いてね。ひとつはさっきも言った通り、処女性。ひとつはそれなりの知性。それからそれなりの魔力。あと、年齢」

「そ、そこ、一番引っかかるんですけど」

「キミ、まだ6歳だろう?」


 私の誕生日、2月29日。

 確かに、四年に一度しか年を取らないとからかわれる。

 ――故に、ちゃんと返し技も知っている。


「に、日本の法律では、前日の2月28日に年を取るんです!」

「知ってるよ。でもボクがキミを6歳と見なしてる。これ重要」

 未就学児童扱いか!

「ぶっちゃけ、キミの素質は、そんな些末事を理由に無視するのは勿体ないレベルなんだ。条件のところで『それなりの魔力』って言ったけど、キミの場合はそうじゃないからね。ずば抜けた魔力だから」

 いきなり言われたって、全然、そんなの、自覚がない。


「セイフティがちゃんと自動発動してるんだ。そこも含めて凄い話だよ。――まあその隠蔽のおかげで、ボクはキミを見つけ損なっていた訳だけど」


 ――あ、しまった。

 また脳内会話になってしまった。

 ちゃんと声に出して話そうってさっき決めたのに。

 たとえ周りに変な人と思われても。

 声を言葉を発することが意志決定の力になるはず。


「そうそう」

 猫はにやりとした。

「やっぱりキミはあなどれないか。基本をちゃんとわかってる」

「基本……?」

「まあそれはおいおい」

 猫は居住まいを正した。

 猫背じゃない猫。


「そんなこんなで、ボクはキミを認めた。素質はある。十分すぎるほどある」

「……契約して、魔法少女とやらになって、いったい何をするの?」

 させられるの?

「とりあえず、ご近所の平和を守る」

「何から?」

「うーん……悪いモノから。……ええとね、いわゆる負のエネルギーみたいなものが干渉してきて、人の心や体、現象に悪影響を及ぼしてる。これを何とかするのが仕事」

「ず、ずいぶん、ざっくりした……」

「大丈夫、キミなら出来る」

 猫はびしっと私を指さした。

 いや、見た目は猫パンチですが。


「……私が断ったら……どうなるの?」

「ああ、それはね、そんなに大したことでもないけど」

 猫は首を振った。メトロノームみたいに。

「この街が、『交通事故の多い街ランキング』とか、『治安の悪い街ランキング』とか、その辺に軒並みランクインするだけの話」

「じゅ、十分大したことじゃないの!!」

 この辺、そりゃあ東京のベッドタウンではあるけれど、そんなに大きい都市ではない。

 あちこちに自然も残る、のどかなところだ。

 それがいきなり、そんな魔界都市になってたまるもんですか。


 ……しかし。

 魔法少女。っていうより、魔法戦士、だよね、それ。

 故郷が魔界都市になっちゃうのはやだけど、やだけど……。

 私、やっぱり、そんな大それたものにはなれないと思う。


 答えに詰まって黙り込む私に、猫はとっときの笑いを見せた。


「いやいやいや、この際そういうリスクやデメリットは脇に置いておこうよ。目が前についているのは未来を見るためなんだ」

 またいきなり空々しいこと言い始めた。


「あのね、魔法少女になるとね、変身が出来るよ」

「……まあ、定番、ですね」

「女性の場合ね、生体エネルギーが一番活性化してるのって、第二次性徴が始まった頃、初潮を迎える前辺りの年齢なんだ。現代日本の平均で言うと、11歳から12歳くらいかな?」

 それは、何となくわかる気がする。

 私、生理が始まってからどんどん体が重くなっていったもの。

 体重だけじゃなくて。何ていうか重力に負けてる感じで。

「変身して、あの頃に戻れる」

 猫はふんぞり返った。

「何しろ魔法『少女』だからね。看板に偽りなく、ぴっちぴちの女の子になれるよ」

「え、えと」

 想像してみる。

 ……いや、だめだ。私、昔からイケてなかったし。

 あの頃に戻りたいかって言うと、それがメリットになるかって言うと、肯定しかねる。

「大丈夫。補正もつく。美人度三割増し、性格も積極性アップ」

 猫が、おまけをばんばんつける通販番組みたいに畳みかけてきた。

「さてここで問題です。24歳・十人並み・引っ込み思案の書店員と、12歳・補正コミ美少女・明るくお茶目な魔法少女を比較して」


 猫はにやりと笑った。

 口が耳まで裂ける、ってこんな感じ?


「17歳爽やか高校生男子に近づきやすいのって、どっちだと思う?」

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