第3話(the heads)エピローグ
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ティアスの願いで、新島はオレと彼女を部屋に置いて芹孝多という男を迎えに駅に向かった。オレ達は昨夜と同様、リビングのソファに横に並び身を寄せ合った。
こうしてるとつき合ってるような気もするんだが、言えないし、言える状況じゃない自分がもどかしかった。
彼女の腰に手をまわし、もう一方の手で頭を撫でる。
「孝多の話がリョウのことだったら、沢田先生や賢木先生にも伝えて欲しいの」
「オヤジに?」
いま、あんまり会いたくないんですけど。つーか、何か外に出るといろいろめんどくさそうだから、ティアスの隣にだけいたいんですけど。
さすがに、そう言うわけには行かないけれど。
「うん。沢田先生達と随分仲が良かったって言ってたんだけど、病気のことが判ってから、わざと距離をとってたみたいなのね。音無だけは時々会いに来てたみたいだけど」
音無さんは呼び捨てか。結局、コイツは何しに来たんだろうな、こっちに。オヤジの話しぶりからすると、音無さんに関係してるっぽいけど。連絡があった、なんて伝えるくらいだし。
今はそんな話を聞ける状況ではないけれど。
「ふうん。その仲のよい友人とも距離をとるような男と、お前は近かったわけだ」
「だから、何でそう言うこと……」
「どんな男なの、そいつは」
「いいじゃない、別に」
ふてくされてみせるくせに、彼女はオレに体を預けたままだった。何か、関係がはっきりしてないけど、これはこれで良いような気もしている。それじゃ納得いかないような、責任が無くて楽なような。逃げ道が用意されてるその感覚が、気楽でもあり、不安でもあった。
「聞きたい」
「……御浜……」
聞きたくなかったかも。何でそこで、その名前が出てくるかな。
「御浜みたいな男ってこと?ご近所の王子様か。30近いくせに」
「まあ、病院内ではそんな感じだったかしら。優しくて、綺麗で、穏やかで、真っ直ぐで」
「表向き、御浜っぽいな」
気にしてない口振りをして見せたけど、思わず彼女の腰に回した手に力が入る。
「でも、ちょっと内に籠もるというか……暗い部分もあって」
「ああ、そう。そこが嫌いじゃなかったと」
彼女は黙ってしまった。せめて何か言ってくれ。肯定のサイン以外の何モノでもないじゃないか。
「要は、元彼ってこと?」
「だから、つき合ってもないって。そう言うのじゃなくて」
そう言うのじゃないと言うくせに、どうしてそんな含んだ言い方なのか。
「違うよ。テツが気にするようなことじゃない」
「ああ、そう」
「だって、ホントは何も見たくないんでしょ?」
「そうだな」
見透かされてる。少しだけ、ぞっとする感覚を覚えた。オレがいろんなモノから逃げてることを、確かに少しずつ伝えはしたけれど、そう言う言い方をされると少しだけ怖い。
「私も、見たくないものはもう見ずにいたいんだ」
「え?」
呼び鈴の音が鳴り響いたので、急いでオレ達は距離をとる。彼女は立ち上がり、玄関に向かった。
彼女の言葉の意味を、どうとっていいか迷っていたから、無粋だとは思ったけれど、少しだけ安心もした。
「沢田。紹介するよ。コイツがさっき言ってた芹孝多。2個上であっちの大学に通ってる」
……年上なんだ。
ソファから立ち上がり、紹介された、どう見ても自分と同じかそれより下にしか見えない男に会釈をした。穏やかそうな、悪く言えばちょっとぼんやりしてそうな、天然ボケっぽい男だった。よく言えば無邪気な笑顔が印象的だった。ただ、新島と並んでいても、明らかに新島の方が年上に見えてしまう。
「芹です。よろしく。さっき少し、灯路から話を聞いたので。沢田先生の息子さんだって。こんな大きな息子さんがいるなんて驚いたけど、沢田先生の話は蓮野さんからよく聞いてたので」
オヤジの話に、オレはどうしても、うまく笑顔が作れなかった。そんな、オレの知らないこと言われても、正直困る。
彼らの後ろから戻ってきたティアスは、再びオレの隣に立った。何故かその行為に、オレは妙な緊張感が緩んだような感覚を覚えていた。
「テツは、あんまりそう言う話は聞いてないと思うよ?沢田先生って、そう言う話はしなさそうだったもの。元々、リョウのお兄さんと仲良かったんでしょ?賢木先生とか」
ちらっと、オレの様子を伺いながら、彼女は説明をしてくれた。その話の方が、納得できる。オヤジより賢木先生や音無さんの方が年上だけど、大学の友達と言われたら何とか関わっていてもおかしくない年齢だ。だけど、ハスヤリョウヘイという男は、ティアスと何かあったってことが生々しすぎるくらい、簡単に想像できる程度に若い。
「……灯路」
「何だよ。何でそんなちょっとおどおどした顔なんだよ。気持ち悪い」
この芹って人は、ホントに新島と仲が良いんだろうな。新島は元々、丁寧な男ではないけれど、ここまで他人に対して突っ込んでいくような男でもないから。距離感を適切にとれる男が、久しぶりの男にここまで近付いているのは、何だかほほえましかった。
「沢田くんとティアスって、つき合ってる?もしかして」
「……そこ、突っ込んじゃダメなとこだから、多分。黙ってろ。つーか、口にするな、思ったとしても」
本当だよ。そこで全否定することも肯定することも出来ねえぞ、いまのオレには。ティアスに全否定されても、いやだけど。
「孝多は黙っててよ」
「でも、蓮野さんは……」
「関係ないでしょうが。もう、孝多はリョウの肩を持ち過ぎよ!一体何しに来たのよ!」
否定も肯定もしなかったが、彼女が芹さんから余計な言葉を出させないようにしていることは手に取るように判った。彼女が、わざと彼を怒鳴ったことで。
「まあまあ……孝多のことだし、許してやれば?落ち着けって、座れよ。立ってるからヒステリックになるんだ。孝多も、何か喋る前にオレに言え」
芹さんもティアスも、新島にかかったら酷い扱いだな。ホントに年上か?と言うか、この3人の中で、新島が一番年下だって言うのが信じられん。
「沢田くん、苦笑いしてるよ」
「するしかねえだろ、そりゃ!オレだってするわ!」
頭痛いなあ、もう……。うっかり笑うことも出来ん。
まるでオレがするように、隣に立つ彼女がオレの背中に触れる。その行動に促され、彼女と一緒にソファに座った。芹さんは、半ば強制的に新島に命じられるようにして床のクッションに座る。その様子を確認してから、新島が革張りのソファのアームに腰掛けた。
言い出しにくそうに、ティアスを見つめる芹さんの様子に、彼女は大きく溜息をついた。
「リョウが、死んだんでしょ?」
彼は黙って頷く。彼女のことを思いやって、と言うよりは、芹さん自身が彼の死に対して酷くショックを受けているように見えた。実際、さっきの彼女の話からすると、そうなのかも知れない。
『でも、蓮野さんは……』
だとすると、彼のあの台詞はどういう意味だったんだろう。オレとティアスがつき合ってたとしたら、ハスヤリョウヘイがどうだと言うんだ。蓮野がティアスの彼氏って言う情報が新島の所に届いたのは、確実に芹さん経由だ。だけど、ティアスはあの調子だし、蓮野はもう死んでいる。
死んだ男のことを気にする必要なんか無いはずなのに、いろんな人の思いが絡みついて、唯一確認したいはずのティアスの本音が見えにくい。
彼女の心に、彼の存在がこびりついていなければ、彼の死が彼女の心に余計な影響を与えなければ。オレの知らない男なんてどうだっていいのに。
「いつ?」
「昨日、葬儀が終わった」
終わってすぐに、こっちに来たってことか。もっと落ち着いてからでもいいだろうに。
こんな冷たいことを考えてるのはオレだけかも知れない。新島もティアスも、彼の言葉を静かに、真剣な面持ちで聞いていた。怖いくらいに。
「お兄さんは……ティアスには知らせなくていいって。蓮野さんも望んでないしって」
新島が俯いた。彼の元には、何度かティアスの兄から連絡があったはずだ。オレも聞いてるし。そのことを思っているんだろう。
「それで、これ。あの、預かってて。蓮野さんから。……ごめん、オレ、どうしていいか判らなくて」
芹さんが体を浮かせ、ティアスに手紙を差し出した。彼女はそれを受け取ると、少しだけオレの方に体を近付けた。
「あとで読むよ。孝多にはちゃんと教えるから」
芹さんはゆっくりと首を横に振った。
「いいんだ。オレももらったし。オレはちゃんと看取ったから。だけど」
ちらっと、オレを見つめた。その視線が少しだけ怖かった。悪意は感じられなかったけれど、彼の何か秘めた思いのようなモノを感じて。
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あの後、芹さんは随分疲れていたらしく、新島と話をしたあと眠ってしまった。仕方ないといった顔で新島が彼をベッドに運んだ。「時差もあるしな」と苦笑い混じりに言って。
オレもティアスも、黙っていた。新島のフォローにも、芹さんの無言の圧力にも。
新島はその後、キッチンで電話を掛けていた。最初はどうやら母親に。2回目は話し方から察するに佐伯さんだった。
込み入った内容になってきたのか、彼は携帯を片手にキッチンから客間へと移動していった。おそらく、リビングにいるオレ達に聞かれたくなかったのだろう。
「責められるの、判ってたんだ」
新島が立ち去った後、彼女はゆっくりと口を開いた。また少しだけオレに近付き、彼女の右手とオレの左手を重ね合わせた。
「孝多は、リョウに心酔してたの。すごく憧れていたの。だから、孝多の世界は、リョウを中心にまわってるの」
「だから、責められる?」
彼女は黙って頷いた。明確に言葉にしてはいけないような気がしていた。
要するに蓮野がいながら、オレとつき合ってるようなティアスを、死の淵にいた蓮野からティアスを奪ったオレを、彼は責めていた。事実はそうではないにしても。いろんなことが、少しずつずれて、誤解が絡み合っているけれど、それを説明も出来なかったし、したくなかった。はっきりさせたら、多分オレは彼女の隣にいられない。自身の心と、周囲が許さない。いろんなことをずるいまま、隠しながら、だけど彼女が欲しいのだと。こうして身を寄せ合っていられるこの状況を逃したくない。
「心酔って、すごいな。体育会系だな。でも、まあ、御浜みたいだって言ってた理由、少しだけ判った」
御浜にもそう言う、何か人を惹き付けるモノがある。判らないんだけど、大きな力みたいなモノを持ってる。全ての人に伝わらなくても、数少なくても、人を心から動かす何かを。
「責められても仕方ないんだ。だって、応えられないのはどうしようもないし。私が中途半端だから」
応えられないって言うのは……。やっぱ、そう言う話にはなってたわけね。彼女は否定したくせに。だけど、応えてはいないってことか?なのに、応えられないと言いながら、どうして芹さんはあの態度で、ティアスもこの態度なんだ?
「テツ、ピアノ弾いて?歌うから」
肩越しに、上目遣いでオレを見つめる。
「え?……いや、その……」
人前で今弾くのは……。だって、弾けなかったら困ると言うに。指が動かないかも知れないのに。確かに、こいつの前では動いたけど。正直、自信がない。
「こないだの。子守歌」
「弾くって言ってないだろうが!」
「良いじゃない。誰も聞いてないよ。私だけ」
「は?」
「私だけのために、弾いて?」
もしかして、甘えてる?そんなに可愛い顔されても困るんですけど。
ただ、甘えてはいたけれど、彼女が泣きそうな顔をしているのも判った。真っ直ぐ顔を見たことで。
甘える程度に、彼女は辛いってことくらい、知ってる。気付きたくはなかったけど。
今この状況で、不謹慎かも知れないとは思ったけれど。けど、オレは彼女に軽くキスをしてから立ち上がり、彼女の手を引いて、リビングの隅に置いてあるアップライトピアノに向かった。
「ちょっと待て、指ならししてから」
横に立つ彼女にそう告げると、素直に頷いた。
多分、大丈夫。弾けるはず。
ゆっくりと練習曲を奏でる。思っていたよりすんなり指は動いた。いつも通りだった。
逆に、何で1人になると弾けなくなるんだろう。
「テツ、何か必死だね」
この女は……またずけずけとそう言うことを。
ちくしょう、判ってるよ。図星刺されてるから、腹が立つってことくらい。
「別に?」
「あんまり、楽しそうじゃない。せっかく、綺麗なのに」
「……綺麗?」
「うん、テツのピアノ、綺麗よ。もったいない」
誉めといて、けなすか?でも、佐伯さんとの話から、コイツがオレのピアノを誉めてたのはホントっぽいしな。
「好きよ」
「は?」
突然、何を言うかこの女は!オレが言えないで黙ってたことを簡単に!てか、告られてるし、これって。
思わず、指も止まるって。
「テツのピアノ」
「……ああ、そう」
うん。いや、そう言うオチ?判ってたけど。1人でおたおたしてみっともない。まあ、実際好きとか嫌いとか言われても、それはそれで困るけど。嬉しいって言うのとは別にして。
「だから、もったいないよ。そんなにつまらなさそうに弾くの。つまらなく聞こえるから」
「お前が、楽しくしてくれるんだろ?その実力、今こそ見せてもらおうじゃないの?」
彼女はやっと笑った。オレのピアノに合わせて、歌い始める。
オレは勝手に弾いているだけだけど、彼女は合わせてくれていた。合わせてくれていたはずの彼女の音に、今度はオレも引き上げられる。
音の重なりが、体の芯に響く。その感覚が異常なほど気持ちよかった。
オレだけかも知れないと、ちらっと彼女を見たら、彼女は泣いていた。歌いながら。
夕方ごろ、仕方なく家に戻ったら御浜と秀二がキッチンに居座っていた。この家の人間は一体何をしてるんだと突っ込みたかったが、それに加担してるのはオレなのでやめておいた。
「オヤジと柚乃は?お前ら、いつから居座ってる?しかも秀二がいるのに、飯もねえのか」
「冷蔵庫に入ってますよ。先輩はさっきちらっと顔を出して、私に留守を任していきました。あそこの研究室、今は相当忙しいらしいですからね。その後、御浜が来たんですよ。柚乃はさっき出かけました。友達と約束があるとかで」
家にはいなかったんだ。どうしても秀二の言葉に返事が出来ず、黙って椅子に座ると、見かねて補足してくれた。
「心配はしてましたけど、何も言ってませんでしたよ?ただ、誰の家に泊まるかくらいは言った方がいいかも知れませんね」
「新島の家だよ」
「オレ、結構連絡したのにな」
責めるわけでもなく、ぼやくようにそう言う御浜。
「お前はオレの保護者か。たまたま出られなかっただけだよ。オヤジよりお前が心配してどうする。別に、電話に出ないのなんかいつものことじゃねえか」
「そうだね。たまたま、ちょっと心配だっただけで」
「なんだそれ」
「何となくだよ。理由とか、よく判んないし」
どこまでオレのことを疑ってるのか、感づいているのか。どう思ってるのか、掴みきれなかった。ただ、妙な威圧感は持ってるんだ、コイツは。
ただそれ以上に、彼に対して後ろ暗い気持ちでいたくないんだけれど。
『孝多は、リョウに心酔してたの。すごく憧れていたの。だから、孝多の世界は、リョウを中心にまわってるの』
そこまでじゃなくても、オレの世界の中心には御浜がいるような気がしてならない。憧れてるわけでも、心酔してるわけでもないけど。だけど、芹さんがオレを見たあの目で、オレはオレ自身を見ている。御浜から彼女を奪おうとしている自分自身を。奪うわけでも、奪いたいわけでもないけれど。
「ティアスからも、連絡無かった?」
「……御浜が心配してるって言ってた」
どうやってかわして良いか判らなかったけど、何もなかったというのは無理がある気がした。彼女とは、そう言う意味での御浜の話は出来なかった。
だけど、御浜とティアスって一体どこまで、どんな話をしてるんだろう。
勝手にしろって思いながら、裏切りたくないと願いながら、だけど彼女が欲しいと自覚してしまった今、彼らの間の出来事が気になる理由も明確になって、肥大化して、オレを押しつぶしていた。
『刺されてはいないみたいだけど……刺したつもりだよ』
本当は、全て知ってるのかも知れない、御浜は。だとしても、多分オレは驚かない。心は重くなるだろうけど。
「お前、ハスヤリョウヘイって、知ってる?」
怖かったけれど、いま立っている場所を、オレは確認しておきたかった。彼女と、オレと、御浜。それからこの死んだ男。距離感を。
秀二がいるから、御浜と二人だけじゃなかったから、少し安心していたのもある。これが真だったら、とてもじゃないけどこんな大胆な台詞は出てこない。
「?ティアスから聞いたことある」
やっぱ、そうなんだ。予想はしてたけど、辛かった。彼女がどういうつもりか、掴みきれない。もしかしたら、愛里に振り回されているときより酷いかも知れない。何でオレってこういう女ばかり選んでしまうんだろう。やっぱ真の言う通りドMなのか?
「どんな人か聞いたことある?」
秀二は黙って煙草を噴かしながら、オレと御浜を交互に眺めていた。御浜は真正面に座るオレを、ただ真っ直ぐに見ていたけど。
「うん。賢木先生と知り合ったのは、その人の仲介らしいよ?いま、日本で佐伯さんがバックアップしてくれてるように、向こうでは彼がしてくれてたって」
やっぱりな。
そう思うしかなかった。オレが彼女のことを話題に出さないから。聞きたくなかったから。聞こうとしても止めてたから、御浜は言わなかっただけで。予想以上に彼は彼女からいろんな話を聞いていた。予想はしてたけど。その内容は鋭い針のようにオレを突き刺した。
いや、知ってるものだとして、口にしなかっただけかも知れないけど。
彼女とオレは連絡を取っていても、オレが怖がって踏み込んでなかった。それを思い知らされる。
「御浜のこと、ちょっと似てるって言ってた」
「この子に似てるんじゃ、相当天然ですね」
「何だよ、秀二は人のこと言えないし。でも、言われたよ?オレを見てると、ちょっと思い出すって。今は入院してるって聞いた」
オレが初めて知ったことを、彼はよく知っていた。オレには誤魔化しながら話したくせに。
「今朝、芹孝多って人が来た……らしいんだけど」
一緒にいたとは言えない。それは、言っちゃダメだ。
「うん?その人も聞いたことある。向こうにいたんじゃ?」
「蓮野って人が死んだのを、伝えに来たって」
「そうなんだ……。泣いてた?ティアス?」
「いや」
泣いてたけど。
「きっと泣いてるよ。大事な人だったみたいだから。……そっか。大変なときに連絡しちゃったな」
申し訳なさそうな顔をする御浜は、泣いているであろう彼女を思う。
なんだかやりきれなかった。
御浜と彼女の距離も、蓮野と彼女の距離も、オレと彼女の距離なんかよりずっとずっと近くて。それを、今、御浜に思い知らされて。
オレにだけ誤魔化す彼女に、怒りをぶつけてる自分が惨めだった。