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第3話(the heads)後編

07


 12時半。地下鉄の終電が無くなったころだ。市内でもはずれの方には深夜バスなんかないし、今日はタクシーでここに来てるから、他に交通手段はない。歩いて帰れない距離じゃないけど、こんな寒い日に、外に出すような女じゃない……はず。

 そんな理由を付けなくても、彼女は自分からオレに「ここに泊まればいい」と言ってくれた。それだけで、充分すぎるくらいオレに期待を持たせた。

 持たせたのに、もう1時間以上、さっきと同じようにソファに並んで座り、微妙な距離を保ったまま、たわいのない話を続けていた。

 オレだけが、過ぎ去っていく時間と、この微妙な距離を必死で気にしてた。

 

「どうしたの?」


 彼女は、妙なところで鋭い。


「何か、さっきから変だよ?」


 変だよ、と言うくせに、それを聞くことを躊躇う。オレのことを上目遣いで見つめ、一瞬目をそらした後、申し訳なさそうな顔で再びオレを見上げ


「……帰りたくないみたいだし。今日、お昼も何だかおかしかったし。何かあった?」

「何で?何もないし?」

「そう?ちゃんと会って話すの、久しぶりだからかな?電話ではよく話してるけど」


 久しぶりってほど、久しぶりでもないと思うけど。彼女の感覚では、久しぶりってことか?それくらいオレに会いたかったってコトかな?ここまで言ったらやっぱり、自惚れか?


「そういや、オヤジと連絡とったんだ?言われたとおり伝えただけだけど、音無さんになんか用があったのか?」

「うん」


 うん。と言ったきり彼女は何も言わない。それ以上突っ込むなってことか?

 余計なこと聞いたかな。会話がとぎれてしまった。違う話を振るのもおかしいし……。


「寝るとき、奥の寝室使って。私、ソファで寝るから」

「え?いいって。オレがこっちで寝るから。さすがにそこまでは……」


 沈黙に耐えられなかったのは、彼女も一緒だったようだ。急にそわそわした様子で立ち上がり、説明を始め、寝室に向かった。


「何だよ?」

「布団、持ってくるから、待ってて」

「いいって。それくらい、オレがするって。泊めてもらうのに」


 何だろう。彼女も「泊まればいい」と言ったくせに、妙に意識してないか?それとも、今はオレが意識してるから?

 逃げるように寝室に向かって廊下を歩く彼女を、焦る心を隠しながら追いかける。


「……そもそも、客用の布団なんかあるのか?隠れ家のくせに」

「予備の毛布があるから、私がそれをソファで使うわよ」

「暖房つけてても、寒いだろうが」

「一晩くらい、大丈夫よ」

「別に良いじゃん、ベッドで一緒に寝れば」


 軽いジャブのつもりだったんだけど、予想以上の反応だった。寝室の扉の前で急に彼女は立ち止まり、振り返ると、睨み付けるような、でも誘うような、そんな目つきでオレを見つめる。びっくりするくらい顔を真っ赤にして。


「すげえね。顔、真っ赤。むっちゃ熱いし」


 彼女の頬に触れたオレの手を、彼女は真っ赤な顔のまま、振り払った。ちょっと、ショックだろ、それは。


「……冗談だろ?」

「そう言うの、冗談って言わないの!」

「言うって」

「今までそんなこと言わなかったし!」


 あれ?ホントに怒った?オレのこと、好きなんじゃないのかな。


「ホント、ただの冗談だって!」


 逃げるように寝室に入るティアスを追いかける。自分でもかっこ悪いって判るくらい、必死で彼女を追いかけていた。だけど、寝室に入れてもらえず、無情にも中から扉を閉められた。

 しばらく待っていたら、むっとした顔で(でも赤いままで)、毛布を抱えて寝室から出てきた。


「怒ってる?」

「怒ってないよ、別に。……冗談だって判ってるから、むかついただけ」


 何だそれ、どういう意味だよ。本気だったら良かったってこと?

 

「持つって」


 彼女から毛布を奪い、抱えてリビングに向かう。膨らみすぎた期待を、必死にうち消すように。

 あんまり良いことじゃないのは判ってるはずなのに。もう、どうしようもないのはオレだけで、状況は何も変わってないのに。

 変わってないけど、彼女の行動が、言葉が、オレの期待をますます膨らませる。ダメだと判っていても、受け入れられたい欲求の方がずっと大きい。


「まあ、一緒に寝るのは冗談にしても。寝るまでは同じ部屋にいても良いんじゃない?」


 愛里に軽口を叩くように。愛里にばれないように、自身の心を誤魔化すように。彼女への好意を示す言葉、それが本音だと判らないように。


「……簡単にそう言うこと出来ちゃうんだね。彼女いるくせに」

「彼女?」

「佐藤さん」


 その名前に、一瞬身震いをした。その様子を彼女はおそらく冷静に見ていたのだろう。冷ややかな眼差しで一瞥した後、オレから毛布を奪い、1人でリビングに向かった。オレは気を取り直し、急いで追いかける。


「愛里は、ピアノを教えてくれてるだけだって。言わなかったっけ?従姉妹だからさ……」

「でも、好きでしょ?彼女のこと。知ってるよ。彼女の名前が出ると、顔色変わるし、電話で喋ってても止まっちゃうの。佐藤さんの話を出すと、絶対に誤魔化すし」


 ……やっぱオレって、そんなに判りやすいのかな?ティアスまで、そんなこと言うか?


 オレがむっとしたまま黙っているのを知ってか知らずか、黙って背を向けたまま、ソファに毛布をおいていた。

 その微妙に重い空気を、彼女の携帯の着信音が壊した。


「出れば、電話。誰?」

「……御浜」


 あからさまにむっとした声で電話に出るよう促したオレに、彼女もまたむっとした顔で電話の主の名を明かした。またしても、オレの反応が判りやすかったからか、彼女はオレから少しだけ距離をとった。

 だって、この状況はまずいだろう!御浜はティアスのことが好きで……。つーか、もしかして毎日電話してる?あいつ。オレも似たようなもんだから、何も言えないけど。


「いま?ごめんね。友達きてるから。うん。そうなんだ。うん、連絡あったら知らせるよ。またね」


 友達だって。誤魔化したよ、この女。いや、オレに気を使ってくれたのか?判らないけど、でも、助かった。

 それにしても結局、誰に気を使ったんだ?御浜?オレ?それとも、自分の保身のため?


「沢田くんと連絡とれないって、心配してた。昼も、様子がおかしいから気になるけどね、なんて言ってたけど。おうちに連絡した?柚乃も同じこと言ってたみたいだし」

「そういや、してない。つーか、あいつはオレの保護者かっつーの」


 溜息をついて見せたら、彼女はやっと笑顔を見せた。でも、オレは別のことが気になってた。


「そうやってしょっちゅう、連絡とってるんだな。会ってすぐのときから、かなりメールしてたみたいだし」


 さすがに、会ってすぐ次の日に、情報交換もして、名前で呼び捨て合ってたのにはびっくりしたけど。


「うん。御浜は良い子だし。仲良くなれてると思うよ。沢田くんみたいに意地悪じゃないし」


『意外と、距離あるね、テッちゃんとティアちゃん。あの子、テッちゃんの顔みないし、沢田くん、なんて呼んで、よそよそしい感じ』


 あれ?やっぱり、オレの自惚れなのか?ずっと、こんな距離感だったのに、そう言われると気になってくる。御浜も、真ですら、いつの間にかこの女と仲良くなってたのに、オレは1人、近づき過ぎちゃいけないって勝手に思いこみながら、彼女から一番遠くないか?

 今のオレと彼女の物理的な距離はこんなに近いのに。精神的にも近い気がしていたけど、もしかしたら、こんなコトは彼女にとって当たり前なのかも知れない。


 そんなこと、今さら言われても困る。


 決して、彼女だけを見ているわけではないにしても、オレは、強く彼女に惹かれてる。まずいって判ってるのに、(もしかしたら判ってるからこそ)自覚したが最後、歯止めが利かない。


「……座れば?まだ、眠くないだろ?」

「そんな不機嫌な顔で言われても」


 むっとしてるのか、照れてるのか、わからないな。それでも彼女は、オレの様子を伺いながら、ソファに座ったオレの隣に並んで座る。


「あと、御浜とか真みたいに、オレのことも名前で呼んでみれば?」

「え?」


 また、真っ赤になってオレを見つめていた。何だよ、何でそんな可愛い態度なんだよ。もしかして恥ずかしくて、そう言うよそよそしい呼び方ってことか?


「なんか、ティアスにそうやって呼ばれるの、不自然だし」


 悔しいし。


「……テツ?」


 おそるおそるオレの名を呼んだ彼女との間は、さっきと同じように1人分空いていた。その距離を詰めることなく、オレは彼女の頬に手を伸ばし、顔を引き寄せ軽いキスをする。

 少しだけじゃ足らない。ここまで来たら、オレはもっと、彼女との距離を縮めたい。そう思っていただけなのに。

 彼女はオレの頬を思いっきりひっぱたいた。




08



「いてえな……ちょっとキスしただけだろ?」

「ちょっとぉ?!何よそれ。ちょっとでそんな真似できるわけ?」


 立ち上がり、オレのことを真正面から睨み付け、頭ごなしに怒鳴りつけた。


「なに怒ってんだよ……」


 理由なんて、一つか。彼女は単純に嫌だったんだ。そう、あっさりと認められるほど、オレは冷静だった。座ったまま、彼女を眺める。

 違うな。冷静っていうか……体が震えて、鼓動が治まらなくて、立ち上がれなかった。追い込まれすぎて、腹をくくった。そんな精神状態だ。


「沢田くんなんか、佐藤さんのことばっかのくせに!何よ!」

「だから、名前で呼べって」


 きょとんとした顔で、彼女はオレを見つめる。一瞬、照れたように顔を伏せる彼女に、オレは必死で冷静なフリをして畳み掛ける。


「愛里のことなんか関係ないし」

「ウソばっかり。ホントは、今日だって佐藤さんに会いに行ってたんでしょ?真が言ってたもの」

「それはホントだけど、端に出汁に使われただけだ。大体、今日だってオヤジが迎えに来てたんだから。オレはその代わり。愛里はずっと、うちの親父しか見てねえよ」


 そう言うと、彼女は黙ってしまった。申し訳なさそうに、オレを見ながら。


「大体、お前なんかに覚悟もなしで手を出したら、いろいろ面倒じゃねえか。仮に、オレが愛里と何かあったとしても面倒だし、何もないけど、やっぱ面倒だと思ってるし。オヤジとか、賢木先生とか、新島とか」


 そうやってあげてはみたけれど、一番「面倒なもの」の名前を口にすることは出来なかった。

 面倒だし、未だに、どうしようか考えてる自分がいるけど、どうしようもないのも知ってる。


「だから、お前が嫌がってんのは判ったけど。そんな風に怒られるいわれはない」

「でも……」

「だから、その辺は察しろって。あと、喧嘩腰になるなっつーの。嫌ならもうしない。オレの勘違いだし」


 勘違いだったんだって判っても、もう遅い。なんか、勢いに任せて、襲うような真似するんじゃなかった。いろんな意味で取り返しがつかない。

 彼女との間の距離も、御浜との関係も。そして何より、自分の心が。

 こんなにはっきりと、御浜と彼女が仲良さそうにしてることを嫌な自分を、自覚するとは思わなかったぞ。


「顔、赤い。熱いし。お互い様だわ」

「お前がオレに触るのはイイのかよ」


 彼女の右手が、オレの頬に触れる。オレは座ったまま、顔を伏せた。彼女の顔が見られなくなってた。自分の顔が熱くなってくのがみっともなくて。


「沢田くんみたいに、下心がないから良いのよ」

「だから、名前で呼べって」


 オレの頬に触れたまま、屈んでオレを見つめるティアスを、意を決して真正面から捉えた。伏せていたオレと目が合ったのに驚いたのか、今度は彼女がオレから目をそらした。逃げる彼女の右手を、掴む。


「……テツヒトくん。離して」

「さっきみたいに、呼べばいいのに?」

「……テツ?」


 今度は彼女の体を引き寄せ、腰を撫でながら何度もキスをする。抵抗しないのを良いことに、そのままラグの上に、優しく彼女を押し倒す。


「別に、嫌だったわけじゃなくて……。でも、これは……」


 嫌だったわけじゃない。彼女がそう言ったのを聞いて、少しだけオレは安心する。今さら勘違いって言われても、やっぱり困る。


「まだってこと?」

「何でそんなに偉そうなの?テツって」


 真っ赤な顔してるくせに、憎まれ口はたたけるんだな、この女。必死な感じが、今は可愛く見えてしまうけど。


「この状況でそんなこと言える、お前もね」


 もう一度キスをして、彼女の首筋に顔を埋める。オレの行為に、彼女は抵抗しなかった。

 この先に行くかどうか迷っていたとき、玄関が開く音が聞こえた。


「ティアス?まだ起きてるのか?」


 新島の声!佐伯さん送ってったんじゃねえのか!てか、送ったついでに外でヤッてんじゃねえのか!

 オレが彼女からどこうと動くより先に、彼女は急いでオレの腕から逃げ、起きあがった。


「なんだよ沢田。まだいたのかよ。何してんだ。もしかして、取り込み中だった?」


 リビングに入ってきた新島は、微妙な距離を保ちながら、床に座るオレ達2人を見て、当然のようにそう突っ込んだ。彼の見解としては、そう言う展開になってしかるべき、と思ってるかも知れないけど。


「そう言う冗談、やめてよ」

「今夜、泊まるとこがないからソファと毛布を借りたんだよ」

「そうそう。それより、灯路はカナを送りに行ったんじゃないの?」


 さすがに、二人して必死に否定してんのは怪しかったかな……。ソファがあるのに二人して床に座ってるんじゃ、何かあったようにしか見えないだろう。もちろん新島は、不審そうにオレ達を見ていた。


「忙しいのに、最後までついてってどうすんだよ。途中、タクシーで追い返された。泊まるって言って家を出てきてるから、帰るわけにも行かなくて戻ってきたんだよ。ここに泊まってこうと思って」

「泊まってく?!何だそれ。いつもそんなコトしてるのか?」


 だって、普段はここにティアスしかいねえのに。しかも、今日だって、ティアスだけしかいないつもりで帰ってきたんだろ、コイツは。危険、危険!!


「……そんな食いつかれても。ティアスとなんか、何もないし。大体コイツ、オレとカナさんが2人でいる時は気を使って2人きりにしようとするくせに、オレ1人だと女王様なみに偉そうなんだもん」

「だって、あんまり会えなくて寂しそうだし」

「寂しそうとか言うな!」


 照れてるし。

  しかし、オレにあれだけのことを言った新島とその彼女の様子を見てたけど、意外と普通だったな。もっとドラマチックなのを期待してたのに。


「それより、沢田がここで寝るなら、オレはどこで寝たら良いんだ。つーか、放浪癖でもあんのか?お前」


 照れ隠しのように、オレに悪態をつく。オレの目が見られないほど照れてるくせに、なんてヤツだ。


「放浪癖とか言うな!」

「何で帰らねえの?」

「たまには家に帰りたくない日もあるだろうが」

「わりと頻繁な気もするけど」


 そう小声で言う、新島の意図は判らないでもなかったけど。オレが逃げていることを、その相手を彼が明確に理解していなくても、その行為自体を、彼はよしとしていない。


「ま、いいや。なんかオレ、タイミングの悪いときに戻ってきたみたいだし。邪魔しないで引っ込んでるわ。おやすみ」

「え?ちょっと、灯路!?」


 彼はオレ達の顔を見ずに、ティアスの叫びも無視して寝室に向かった。しかし、彼女もまた、それを強く引き留めはしなかった。

  いや、2人でこんなとこに残されましても。すぐそこに新島がいるって判った状態で、これ以上、何も出来ないだろうよ……。


「なんか……ものすっごく誤解してない?灯路ってば……」

「……当たらずとも、遠からず」


 彼が寝室に入って、扉を閉める音が聞こえたと同時に、彼女を抱き寄せ、キスをする。何度もキスしながら、抱き寄せる手に力を込める。彼女は赤くなって下を向いていたけれど、今度は頑なに押し倒されることに抵抗していた。


「この状況で、なに考えてんのよ」

「いや、まあ、そうだけど。ここに一緒にいるなら、してもしなくても、同じように思われる気がす……」


 彼女は床に転がるクッションでオレを思いっきり殴った。何だろう、ものすごく、へこむ……。


「ケータイ、鳴ってる」

「何だよ……」


 突然、彼女がきょろきょろとしだす。オレと距離をとるためか、急いで立ち上がり、辺りをうろつく。


「これ、テツの?」

「あ。あれ?いつの間に落とした?」


 ポケットを探りながら、彼女に近付く。彼女は真っ直ぐに手を伸ばし、出来る限りオレと距離をとるようにして、携帯を手渡してくれた。へこむだろうが、その態度……。

「あ……」


 はっきりと、着信者の名前が出ていた。御浜だった。彼女も確実に見てるはずだ。

「出ないの?」


 どうしよう。どうしたら……

「テツ、最近よくふらふらしてるから、御浜が様子がおかしいって、心配してたよ。出れば?」


 心配してたとか、してないとか、なに話してんだお前らは。オレの知らない話を、どっちの口から聞くのもホントはいやなんだってば、オレは!そんなこと、自覚させんな。考えないようにしてたのに!

「睨まないでよ……怖いなあ」


 ぎりぎり手を伸ばせば届く所に立っていた彼女の腕を掴み、力任せに引っ張り、引き寄せた。


「……痛いって!」


 ケータイは、まだ鳴り続けていた。


「ぎゃあぎゃあ騒ぐな!五月蠅い!新島が出てくるだろ!」

「痛いって言っただけじゃない!さっさと出なさいよ、電話!」

「五月蠅い、五月蠅い!お前だって、御浜とこそこそ話してるくせに!」

「何それ、今は関係ないじゃない!何でそこで御浜が出てくるのよ!電話かかってきたのはテツでしょ!」

「お前の所にもさっきかかってきただろうが!」


 自分でも、何でこんなこと言ってるのか。冷めてる自分と、頭に血が上ってどうしようもない自分が、心の中で同居してるようで気持ち悪かった。吐き気すら催しかねないくらい。だけど、とめられない。一体オレはどうしたいんだ?


「なんで……」


 真っ赤な顔して、上目遣いでオレを睨み付ける。


「もう、意味判んない。ああいうこと出来るくせに。何で怒られなくちゃいけないの?」


 ……やべ、コイツ、泣きそうだ。ど……どうしたら!?つーか、何で?ティアスだって、オレに怒鳴りつけてきたくせに!

 彼女は顔を伏せ、オレから目を逸らし、体を震わせていた。この状態で、沈黙が続くのは、正直きつい。彼女はオレの顔すら見ないのに。オレも、彼女の表情を見せてもらえないのに。



09


 息が詰まるような沈黙に耐えられるはずもなかった。身を震わせる彼女を気に掛けないわけもなかった。

 握っていた携帯の音もやみ、ますます沈黙は重くなる。

 マナーモードにしてガラスのテーブルの上に置いた。その音に、彼女が一瞬反応したが、やはりこちらは見ずに顔を伏せていた。


「……もしかして、泣いてる?」


 彼女の肩を掴み、揺さぶるが、頑なに顔を見せようとしない。声も出さず、ただ首を横に振る。


「ティアス?」

「……てない」

「泣いてるし。何でだよ」

「怒るから。……こんな、ケンカみたいなこととかしたくないのに」

「オレもだ」

「テツはいつも喧嘩腰のくせに」


 失礼な。誰が喧嘩腰だ。真っ赤になって俯いてるから、可愛いとこもあるかと思えば、言いたい放題言いやがって。

 両肩を掴んだまま、無理矢理下から覗き込むようにしてキスをする。

 泣いていたからか、あきらめたからか、彼女はその行為にも、その後の行為にも抵抗しなかった。

 彼女をソファに座らせ、抱きしめたままセーターをめくりあげ、背中に直に触れた。


「……ケータイ」


 再び、携帯が鳴り響く。とは言っても今度は振動でガラスがカタカタと鳴っていたのだが。思った以上に五月蠅かったが、相手を確認するのも、止めに行くのもやめた。

 御浜のこと、忘れたわけでも気にしてないわけでもないけれど。でも、目の前の彼女に手が届くのに、我慢できなかった。

 必死でうち消そうとして、考えないようにしていたこともあった。

 御浜のことを口に出すことで、否定していた。

 愛里のこと、頭から離れないけれど、目の前の女のこととはやっぱり別だ。

 自分でも、ずるくて臆病で、どうしようもないと思う。そのくせ、こうやって、美味しいところだけ掠め取るような真似をするんだ。


 オレはいつもそうだ。

 

 判ってるけど、ずるいとは思うけど、申し訳ないとは思うけど。

 一度認めてしまったら自分でも驚くほど、何者もオレを押さえられなかった。

 彼女以外は。


「テツ!」


 また殴った!この女!何でこう暴力的なんだ!しかもひねってるよ!パンチいてえって!


「嫌なら口で言え!ぽんぽん殴るな!」

「嫌とか、嫌じゃないとか、そうじゃないでしょうが!なんでそう、順序を守らないのよ!」

「順序なんか知るか!!嫌なのか、嫌じゃないのか!?」


 何でそこで黙るんだ。

 そう思うけどやっぱり、涙を浮かべたまま、真正面からオレを睨み付ける彼女の目を、オレは見ることが出来ない。


「……テツこそ、どういうつもりで」


 判りきったことを聞くか?この女は!この状況で、このめんどくさい女相手に、いいかげんなこと出来るかっつーの!リスクが大きすぎるって!何度言わせんだ!

 って、言えてないけど。言えってか?!オレの口から?オレから!

 もう、彼女とこうして怒鳴り合いを始めてから何度目だろう。再び、携帯の振動がテーブルをがたがたと揺らす。でも、ここで出るのは、いくら何でも無いだろう。

 これ以上、彼女を怒らせるのも、泣かせるのもオレは嫌だ。どうしていいか判らないけど、言葉は出てこないけど。

 黙ったまま、オレは彼女に手を伸ばした。彼女はやっぱり逆らわなかった。簡単にオレの手の中に収まり、オレはこの手に力を込める。


 しばらくの間……どれくらいかは判らなかったけれど、抱き合ったままその場に二人で立っていた。彼女から手を離し、再び彼女の肩を抱き寄せ、ソファに座った。一度だけキスをして、身を寄せ合ったまま、毛布にくるまって目を閉じた。

 多分、オレは逃げた。彼女に、自分のことを口にすることから。

 だからこれ以上何もしない。その代わり、口にしない。

 もう戻れないのは判ってたつもりだったけど、まだ何とかなるんじゃないかって思ってた。淡い期待ってヤツだ。

 ずるいかも知れないけど、彼女だって何も言わないくせに、暗がりの中、こうしてオレの隣で目を閉じてる。お互い様だと思いたい。


 彼女はどうか知らないけれど、オレは結局一睡も出来ないまま、朝を迎えた。オレが毛布を抜け出し、顔を洗いに立ち上がると、彼女も毛布から出て、台所に向かった。お互いにずっと黙っていたから判らないけれど、彼女も寝ていなかったのかも知れない。


「朝ご飯、シリアルしかないけど」


 台所に戻ると、彼女は棚を漁りながら、やっと口を開いた。色気のあるような無いような、微妙な台詞だ。


「お前がまともな食生活を送ってないのはよく判ってる。期待はしてない」

「何それ。よくそう言うことが言えるわね」


 怒るかと思ってたけど、顔が笑ってた。昨夜のことなど無かったかのように彼女は振る舞う。だから、オレはどうしていいか判らない。これ以上手を伸ばしていいのか悪いのか。


『嫌とか、嫌じゃないとか、そうじゃないでしょうが!なんでそう、順序を守らないのよ!』


 順序を守ればいいって風に聞こえるな。拡大解釈すると。難しいところだ。

 欲張りなのか?オレは。あんなことを言ったくせに、オレの隣で、オレの手の中でおとなしくしてるくせに、こうやって彼女が何もなかった振りをしていることが、オレにさらなる期待をさせる。

 もしかして、彼女に手を伸ばしても、何もなくさなくていいんじゃないかって。何もかもうまく行くんじゃないかって。御浜のことも、愛里のことも、彼女やオレに絡む全てのこと。

 強くいれば、強い振りをしていれば、強く居続けられる。


「ティアス」

「何?」


 食器棚らしき場所から(そもそも食器自体、コップ以外ほとんど無かったのだが)シリアルボウルを探していた彼女は振り返り、驚いた顔をオレの目の前で見せた。


「……びっくりした」


 後ろに立っていたオレに向かって、彼女はそう呟くけれど、微笑んでいた。オレは黙って彼女にキスをする。


「びっくりした」


 今度は照れくさそうに笑っていた。


「何だよ、早くない?お前ら」


 新島の声に、思わず彼女と離れるが、もしかしたらしっかり見られていたかも知れない。コイツなら、何食わぬ顔していそうで怖い。


「いつも通りよ」

「ウソつけ。何で見栄を張るかな?」


 彼は苦笑いしながらキッチンを伺うが、何故か一向に廊下からこちらに入って来ようとしない。


「……何だよ?」

「まあまあ、沢田」


 オレを小さく手招きする。思わずティアスと顔を見合わせてしまうが、とりあえず彼の元へ向かうと、寝室に誘導される。

 入った途端、黙って寝室の扉を閉められた。何だ、この展開は。気持ちが悪い。


「だから、何だよ?」


 もしかして、昨夜何があったかとか聞こうとしてる?どんな過保護だ。


「あのさ、ティアスとのことなら、別に……」

「悪い!オレの勘違い!それ!」


 いきなり、目の前で手を合わせ、謝られてしまった。


「……は?いや、勘違いっつーか、だから、別に何も無かったというか、その……」


 無かったと言ったら、ウソになるけど。


「いや、無いなら、良かった。いや、オレ昨夜、お前に電話したけど出なかったからさ。てっきり行くとこまで行っちゃってんのかと。ティアスもうっかり流されたりしてんのかと思って」

「……流される?あの女が?」


 あれは、場の雰囲気に流されてただけってこと?


「まあ、そう言うところもあるだろ。誰にだって。あいつ、気は強いけど、そう言うとこは確かにある」

「ああ、そう」


 としか言えないだろうが、そんなこと言われても。


「何が勘違いなのか、話が見えないんですけど?」

「いや、だから、ホント悪い。何か、ティアスの彼氏がこっち来てるらしいって、連絡あってさ。面倒なことになる前に教えておこうと思っただけで」

「ちょっと待て、聞いてない!」


 思わず、新島の胸ぐらを掴み怒鳴ってしまった。けれど、思い直して彼から手を離し、謝った。



10


 彼氏?この女に。あの態度で。いくらなんだってずるくないか?


「何で、ちょっと怖い顔なのよ」


 オレの考えてることが伝わったのか、不満そうな顔で文句を付けてきた。ティアスの隣で珈琲を飲む新島は、苦笑いをするばかりだ。コイツこそ、どういうつもりであんなことを告げたのか。タイミングが悪すぎる。

 まあ、今さらって気もしないでもないけど。


「元々こういう顔だよ。うるせえな」


 腹立たしいことこの上ないが、ここで罵るような仲じゃ無いっつーのが一番痛いな。

 ちくしょう。男がいるくせに、あの態度か。期待したじゃねえか。どんな男だ。彼女がこっちに来たから追っかけてきたのか?逃げられてんじゃねえのか、その男は。


「そういやさ、ティアス。昨夜、孝多から連絡あったんだけど。お前、連絡先教えてないの?携帯渡してから随分経ってるだろうが。何かいろいろ困ってるみたいだったぞ」


 そいつか?コウタってヤツが男か?

 睨み付けてしまったオレの視線に気付いたのか、ティアスも新島も、ちょっと引いた表情を見せた。いいからお前らは反省しろ。オレを振り回しやがって。


「いやよ。孝多に連絡したら、兄さんにも伝わるじゃない。意味がないわよ。あの人、真面目すぎて間抜けなとこがあるから、絶対何かしでかすと思うのよね」

「その件に関しては、全く否定しないけどよ。大体、時差も考えずに真夜中に電話してきて、それを突っ込んだら平謝りするような男だからな」

「うわ……孝多っぽい」


 目の前で知らない、しかもティアスの彼氏っぽい男の話をされるのは相当不愉快なんですけど。新島のヤツ、謝ったから良いと思ってるな。もう遅い、とっくにフラグ立ってるんだよ。

 それを、新島に言うのはいやだけど。でも言わなくても、とっくにバレてるモンだと思ってたけど。


「……あ、ごめん。孝多ってね、灯路の昔からの友達でね……」


 ティアスがオレの不愉快な表情に気付いたというか、どうすればいいか気付いたらしく、説明を始めた。それに乗っかるというか、フォローするように新島が続けて説明を始める。


「オレの幼馴染みってヤツ。お前と白神みたいな感じでお隣さんだったんだけど、親が転勤族で中学上がる前に引っ越しちまったんだな。で、たまたま転勤先がコイツのいたベルギーの学校の側で……みたいな、なあ?」

「ご丁寧な説明ありがとよ」

「……ティアスじゃなくても怖いぞ、お前」


 誰のせいだ。


 あれ?しかし、話のつじつまが合わないな。新島と共通の知り合いなら、しかも出会いのきっかけがコイツなら、つき合ってたことを知らないわけがないだろうよ。別れたと思ってて、あんな思わせぶりなことをいろいろ言ってたのか?


「孝多のヤツは、相変わらず何を言ってるんだか、いまいちよく判らなかったんだが」

「頭はいいんだけど、バカよね」

「身も蓋もないな。で、その何を言ってるか判らん孝多の言葉を拾い上げた情報によるとだな、なにやら重要な話があるからティアスに連絡とってくれって」

「ふうん」


 何でもない顔をしとるな、この女は。もしかして、こういう話をするつもりだったから、新島は先にオレに情報を教えてくれたのか?男が来て重要な話っつったら。


「重要?」

「うん。だから一回こっちに来るって。いつかは知らんけど。何かのついでだからとか言ってたな」

「灯路の理解力がないんじゃないの?何、その適当な話の拾い方」


 全くだな。とりあえず、しばらく黙って様子を伺っていよう。珈琲でも飲みながら。

 新島がちらっと、オレに視線をくれる。それって、どんな気遣い?


「で、なんだったかな。蓮野……何つったかな」


 多分、そのハスヤってヤツなんだ。新島が言っていたのは。ティアスの表情が、「コウタ」って奴の話の時とはまるで違っていた。新島も、ちらちらとオレの方ばかり見ているし。


「蓮野遼平でしょ?」

「そうそう。そいつ。そいつのことでどうとか」

「死んだんじゃない?だから孝多のヤツ、知らせに来たのよ」

「……は?」


 言葉が出なかった。新島も知らなかったんだろう。固まった表情のまま、オレと彼女を交互に見つめた。


 何だ、状況が判らん。

 おそらく察するに、新島の言う「ティアスの彼氏」って言うのは、その「ハスヤリョウヘイ」って男なんだろう。それは彼女のあからさまな態度の変化でも明らかだ。だけど、「彼氏」という割には、彼の死を告げに来たであろう男が来るのにあっさりしているし、そもそもそんな状況の男がいながら、置いてきたってことだろうか。


「ティアス……お前、案外冷たいな」


 オレも思ったことを、新島は簡単に口にした。そう言いたかったけれど、オレの立場でそれを彼女に言うのは憚られたし、何より、言いたくなかった。


「え?」

「だって、孝多の話じゃ、その蓮野って男と……」


 「雨に唄えば」の着信音が鳴り響く。ティアスが無言で新島のポケットを指さし、彼は渋々携帯をとった。


「もしもし?孝多かよ。時差考えろっつーの!って、朝だからいいけど」

「『彼氏』って聞いた」

「うわ、待て沢田……いやいや、こっちのこと」


 あっさり、オレがそう口にしたことで慌てたのは他でもない電話中の新島だった。オレは無視して、真正面から彼女を見つめた。

 よく考えたら、別に他意のない話じゃないか。彼女を責める資格はないけど、聞くくらいならいいんじゃねえの?と思っただけだ。


「彼氏じゃないよ?別に」

「わざわざ死んだことを知らせるために来るような相手なのに?」

「端から見たら、そう見えてたのかも知れないけど」


 そう言うの、つき合ってるって言うと思うけど。ああでも、言いたくないそんなこと。

 彼女は少しだけ怒ってるような顔を見せた。その様子が、余計にオレを苛立たせているとも知らずに。


「何で、『死んだ』って判るのに?」

「あの人、病気だったの。まだ29で若かったんだけど、ずっと療養してたのよ。長くないって言われてたから」

「何でそんなにあっさり言えるんだ?そう言うこと」

「だって、そう約束したの、リョウと」


 なんじゃそりゃ!約束したからってこと?いろんな意味にとれるぞ?それ!

 ホントはすごく悲しいけど、彼と約束したからそう振る舞ってるのか。

 口約束程度で簡単に彼の死を突き放せるほど、どうでも良いってことなのか。


 どっちでもいやだ。


「……わかった。ティアス、喧嘩腰の所、悪いけど」

「喧嘩腰じゃないわよ。テツが、私のこと責めるんだもん」

「別に責めてないだろうが。ちょっと冷たくないか?って思っただけだ」


 違う。冷たいとか冷たくないとか、本当は多分どうでもいいんだ。少しだけショックではあったけど。そんなことより、その「リョウ」なんて呼ぶ仲の男と、今でも続いているのかどうかって話だ。死んだのかも知れないけど。それはそれで、彼女の心にいるのかどうかって方が大事なんだ。

 そう考えるオレは、どうしようもなく冷たかった。彼女を冷たいとか冷たくないとか、言う資格なんてホントはなかった。同じように、彼女を挟めば嫉妬の対象として見てしまう御浜には、そんなことは絶対思わないはずなのに、自分と関わっていない人間に対しては何でこんなに残酷な気持ちでいられるのか。


 御浜との関係も、ティアスとの関係も、どっちも手に入れたいと願うくせに。どっちともうまくやっていきたいと願うくせに。そのために、ずるく天秤のバランスをとろうと、昨夜決めてしまったくせに。見ず知らずの蓮野って男には、彼女の心から消え去って欲しいと願っている。


「待て待て。お前ら、普通に痴話喧嘩してるじゃねえか。なんなんだ一体」

「痴話喧嘩って!そんなんじゃないわよ」


 オレに同意を求めるな、へこむわ!

 思わず彼女から目を逸らしたら、彼女は怪訝そうな顔をしていた。


「それより、孝多がもうセントレアついてるって。あと1時間くらいでこっちに着くってよ」

「何それ、昨日の電話って……」

「トランジットで降りた空港からしてたって」


 いやだ。昨夜の葛藤は何だったんだ。愛里のことも、御浜のことも、彼女との関係も、何も解決しないまま、何も決められないまま、余計な荷物ばかりが増えていく。


 ティアスのことを好きだと思う気持ちと、愛里に執着し続ける思い。

 彼女を自分のものにしたいという欲望と、御浜に対する遠慮と彼との関係の維持を望む心。


 未だにそれは拭い切れていないけれど、どちらをとるかなんて選べないけれど、それでも、彼女に一歩踏み出そうとしていたところなのに。


『びっくりした』


 彼女も、オレのことを受け入れてくれそうだったのに。なんだこの展開。彼氏じゃないって言われたって、それ以上に面倒だろうが。


「テツ、どこに行くの?」


 立ち上がり、玄関に向かうオレを彼女が追いかけてきた。何故か、新島は一緒じゃなかったけど。


「……帰る」


 別に帰りたくはないんだけど。むしろ、オヤジとは顔もあわせたくないし。御浜にも会わせる顔がないし。


「待って、一緒に来て」

「なんで?!」

「ホントにリョウが死んだんなら……」


 初めて、彼女は少しだけ悲しい顔をして見せた。それが、オレには辛い。


「死んだんじゃない?って言ったのはお前だろうが」

「でも、もしかしたら違う話かも。だけど、ホントにそうだったら」


 俯く彼女の思いが、さすがに伝わった。


「テツに、……いて欲しいよ」

「新島でいいだろうが?」


 俯いたまま、彼女は首を横に振った。

 またオレは、彼女に期待してしまう。新島が玄関の方に来ないことを確認して、彼女の頬に自分の頬をすり寄せた。赤くなってたのか、彼女の頬が熱くて、思わず笑ってしまった。


「もう一回、はっきりと言えたら、一緒にいてやるよ」

「テツ!」


 まさに鬼の形相で、オレを怒鳴りつけた彼女に、軽くキスをすると、驚くほどあっさりおとなしくなった。その様子が、オレの心を簡単に解きほぐす。ずるいな、とは思うけど。


「ずるいよ。何でそう言うことできるの?」

「お前もな。そんな男がいて、何で昨夜の態度かな?だけど」


 彼女は再び黙ってしまった。オレ達は多分、いろんな意味でお互い様なんだろう。


「1人で聞けないって言うなら、仕方ないから一緒にいてやるよ」


 お互い様だと思っているのはオレだけで、冷たいのもずるいのも、本当はオレだけかも知れない。

 不安を抱く彼女につけこんで、触れられる部分を全て合わせるように、力一杯抱きしめた。

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