人外会話集2 トライアングルフォーメーションα編
◇牛とトカゲと骨(毎月三日貼り出しの売上一覧表前にて)
「っおー!やっぱ老若男女に隔てなく慕われるタッちゃん先輩は売り上げも桁が違うッスね!
いやぁ、こーりゃあ追いつける気ぃしねぇわーっ。」
「……あぁ、もうそんな時期だったか。」
「おい、なに当たり前の事言ってんだ骨野郎っ。
お前の成績と比べるなんざ、タッちゃん先輩に対する侮辱だぜ。」
「はぁー?いきなり意味不明なんスけどぉー。信者発言マジキモっ。
そもそも、勝手にオレと先輩の会話に割り込んで来んなっつーの。
テメェ、マナーってもんを知らねぇのかよ?」
「んだと、貴様!俺様の売り上げにすら届かねぇザコのくせしやがって、調子に乗ってんじゃねーぞ!」
「調子に乗ってんのはどっちだ、爬虫類!
オレがザコなら、オレと僅差のテメェも充分ザコじゃねぇか!」
「貴様ごときと一緒にすんじゃねぇ、この万年三位が!」
「オレは女の子をはべらせたいだけで、金を巻き上げたいワケじゃねーんだよっ!
大体…っ。」
「そこまでにしとけ。」
『タッちゃん先輩っ!?』
「営業開始時間だ。……分かるな?」
「もうそんな時間ッスか!?やっべ、準備準備っ!
あっ。先輩、忠告あざっした!」
「手ぇ煩わせて申し訳ございません!失礼します!」
「おう。」
ひとくちメモ:売り上げ上位に入れば金一封が出ます。
◇草と牛と魚(ドリー発案、日本料亭での飲み会にて)
「何だかんだ、個室での食事って落ち着くよねぇ。」
「確かにそうかもしれません。
普通のお店じゃ、必ずレジェンズのお客さんの誰かしらに声をかけられますし。」
「ありがたいが、あまり入れ替わり立ち替わり来られるとな。」
「えっ…。いえ、さすがに僕はそこまでは……。」
「うん。タッちゃんだけだと思うよ。
スケルンとかリッちゃんとかに奢らせ…ごほっ、誘って一緒に食べに行く時もせいぜい二回か三回がいいトコだもん。あと、山田は論外。」
「……そうでしたか。」
「ところで、ドリー先輩って偉いですよね。
そうやって、後輩たちとコミュニケーションをはかろうと自分から気を使ってくれる先輩って、中々いませんよ。」
「っえ?…あ、あぁ、うん。そーそー、コミュニケーションね。うん。
いやぁ、言うほど大した事じゃないからっ。ありがとね、パパン。
でさ、話ちょっと変わるけどさ。
このメンツでの飲み会の名称、草食系男子の会とかどうかなっ。なぁーんて。」
「……ええっと、不勉強でごめんなさい。
草食系男子って、お肉より野菜を好んで食べる男性って認識で間違い無いですか。」
「俺もそう詳しくないな。
申し訳ないが、意味を教えて貰っていいですか。ドリー先輩。」
「あー……、うん。そうだね。はは…。」
ひとくちメモ:タッちゃんと食事に行くと必ず奢ってもらえる。というか知らぬ間に支払いが終了している。
◇トカゲと骨と魚(営業終了後、ロッカーにて)
「リッちゃん先輩とスケルン先輩って、本当は仲良しなんですか?」
「あぁ?…んだそりゃ、ありえねーだろ。鳥肌立たせんな。」
「立つかっつーの、全身鱗まみれのクセしやがって。
つか、いきなりどしたんパパン。誰かに何か吹き込まれたとか、そういうアレか。
…うーん。いや、お前もなぁ。時には人を疑う事も覚えねーとダぁメだぜぇ。
他人の言葉をそのまま信じるっつーのは美徳でもあるけど、ある意味怠惰でもあるんだぞ。」
「え、あの、はぁ。
いえ。単純にレジェンズに何かしらの問題が起きた時に、いつもお二人で行動されているなぁ…と思いまして。」
「アホかっ。んなの、店のために決まってんだろ。
何だかんだ、レジェンズで手の内知り尽くしてんのはコイツぐれぇだかんな。」
「やーだな、パパン。オレらだって、時と場合を考えねーほど子供じゃねぇのよ?
仕事とプライベートを分ける常識くらい持ってるってぇ。
…って、オイ!そこ、山田ぁーっ。聞こえてんぞ!『さすが脳も目玉も無い骨男』って何だ、コラぁ!
ちょーど良いわ。お前、ちょっと帰らずに待ってろ。今から飲みに行こうぜー、なぁ?
っつーワケだから、話が終わりならオレもう出るけど。」
「あ。ええと、はい。大丈夫です。」
「おい。俺様も参加してやるぜ、骨野郎。
たまには先輩として後輩をしっかり可愛がってやんなきゃなぁ?」
「アっ、なに逃げようとしてんだっ。オラぁッ!骨式捕縛術その三、秘技胸骨縛りじゃー!はーはは!
んじゃ、おっ先ー。気をつけて帰れよー、パパン。」
「おっ、お疲れ様です……。」
ひとくちメモ:山田は星になったのだ。
◇牛と骨と草(休憩時間、控室にて)
「ね、ね。スケルンはさ、腐敗衆に興味があったりしないの?
もう何度も誘われてるんでしょ。」
「ええー。なんスか、藪から棒に。全っ然まったくカケラも興味ないッスよ。」
「そうか…?スケルはレジェンズ以外の店を知らないだろう。
雇用条件も負けず劣らずなら興味ぐらいはあっておかしくなさそうだが……。」
「うぉっ。珍しいッスね、タッちゃん先輩。
いやまぁ、知らないと言われりゃそーなんスけどぉ。
なんつーの?必死さがウザいっつーか。オレについて来る客目当てなのが見え見えでヤなんス。
しかも、聞いた話じゃアソコってホラー系のコンセプト掲げてるとかですっげぇ陰気な感じだし。
オレもっとパーっと騒がしいトコのが、っつーか色んなタイプの女の子が来るこの店がいいッスわ。
オレの客じゃなくても目の保養になるし?ただ眺めてるだけでハッピー、みたいな?
この広い店内のいつどこを向いても女の子って、まさに楽☆園ってヤツじゃないスか。女の子マジ最高。いや、至高。」
「はいはい、ストップ。何か話が微妙に逸れていってるよ。
まぁ、スケルンがレジェンズを好きだって事は充分理解できたから、ちょーっと黙ろうねー。」
「がッ!…だ、からって何も蔓で首絞めなくても!
呼吸器無くたって苦しいモンは苦しいんスよッ!?」
「ドリー先輩、さすがにそれ以上は……。時間も迫ってますし。」
「んっ?あ、ホントだ。もう時間だね。うーん、後輩を構ってあげるのもほどほどにしなくちゃ。」
「ちょっ!異議あり!異議あり!受け取る側との認識の相違がマジヤべぇレベルなんスけどぉ!?」
ひとくちメモ:ドリーには新人時代かなり世話になっており、現在もさりげに窮地を救われたりするので本気では嫌えない複雑な骨心。
◇トカゲと草と魚(出勤前、レジェンズ専用駐車場そばにて)
「おっ、リッちゃん今日は愛車で来たんだー。」
「そうですね、ちょっと野暮用があったもので。」
「わぁ、これが例のトラなんとかってバイクなんですね。大きいなぁ。」
「あー、そこ。勝手に触ってウロコつけんなよ。」
「ボクって、子供みたいな見た目だからバイクも車も似合わないんだよねぇ。いいな~。」
「……ドリー先輩、もしか免許持ってます?」
「あはは、背が低いから無理っぽく見えるでしょ?
でも、実は普通に取れるんだよね。ホラ、蔓があるから。」
「なるほど。確かに、スゲェ自在に操りますもんね。」
「羨ましいです。僕なんかはヒレが邪魔でどうにも怖くて……免許なんてとてもとても。」
「まぁ、そんだけヒラヒラしてりゃあな…。
ところで、先輩は何に乗られるんですか。見た事ないですけど。」
「それはそうだよ。ソノモノは持ってないもん。
いや、昔は乗ってたんだけどねぇ。近くを走ってる人にギョッとされちゃうから、どうにも危なくって。
あっ。ちなみに、飛行機以外なら何でも運転できるよー。
一時期免許取りにハマっててさ。特殊系とか二種とかけん引とか、もー何でもござれ。」
「すごいですね、ドリー先輩。そんなに取るのは大変だったでしょう。」
「じゃ、今度ツーリングでも行きませんか。北の峠の方に良い道があるんですよ。」
「んんー。心惹かれるお誘いだけど、そういうトコほど無茶な走り方する人がいて危ないからねぇ。
ごめんけど、遠慮しとく。…さ、おしゃべりはこのくらいにして仕事仕事っ。ねっ。」
ひとくちメモ:ドリーはハンドルを握ると性格が変わるタイプ。
◇牛と骨と魚(店外前道路にて、レジェンズ御一行様飲み会会場までの足待ち中)
「そーいや、パパンってタッちゃん先輩の紹介でここに入ったんスよね?」
「…そうだな。」
「あっ、あの、スケルン先輩。ズルだとか贔屓だとか、そんな話なら僕だけにして下さいっ。
タッちゃん先輩は困っている僕を助けてくれただけで、何も悪くないんです!」
「いやいやいや、言わねぇよ!?えっ。何、お前もしかして誰かにそう言ってイジメられてたの!?
うっわ、ワリィ。全然知らなかったわ。大丈夫か?助けいるか?」
「えっ、いえ。」
「そう慌てるな、スケル。入って間もない新人の頃の話だ。
今は誰もそんな事を言っちゃいねぇし、そもそもそんな程度の根性のヤツがここで売れるはずも無い。
とっくに辞めていったさ。」
「そ、そうなんです。だから、心配されるような事は何も……。」
「なっるほどなぁー。っかし、こぉんな聖人オーラまじパねぇパパンを嫌うなんざソイツの神経を疑うぜぇ。
ま、何かあったらいつでも言えよ。オレぜってー助けるし。」
「ありがとうございます。そのお気持ちだけで充分嬉しいです。」
「頼らない気満々かっ!いやまぁ、今のお前なら大抵の事は自分で処理しちまえるんだろうけども。」
「パパンもいい大人だ。あまり簡単に手を差し伸べるのは、むしろ野暮というものだろう。
男としてのプライドもあるだろうしな…。」
「っおー。さっすが『シルバーバレーで聞いた☆父親になって欲しいホストランキング!』不動のナンバーワンッスね。」
「…………不毛なランキングもあったもんだな。」
ひとくちメモ:スケルン愛読、シルバーバレー中のホスト情報を網羅した月刊誌ホス探!は毎月十五日発売。
◇牛とトカゲと草(営業開始前、ロッカーにて)
「ふふ。タッちゃんて案外、体毛フカフカだよねぇ。特に首の後ろがイイ感じ。
何だか、ずーっと撫でていたくなるよー。」
「そうですか?」
「っ…!!った、まっ、どっ。どど…どりどドリーせんぱせんぱッ。」
「えっ。何か用、リッちゃん。というか、そのドモり方すごく怖いよっ?」
「リザード?……どうした、大丈夫か?」
「あ、いえっ、はいっ。大丈夫ですっ。いえっ、じゃなくてっ、その。…くっ。」
「………あっ。ボク、分かった。これ多分アレだ。」
「何です?」
「リッちゃんってば、ボクがタッちゃんの首の毛をナデナデしてるのが羨ましかったんじゃない?」
「ぎゃぁあぁぁああああッ!身の程知らずな事を考えて申し訳ありませんんんん!!」
「って、ちょっ!待ってよ、何その超絶ネガティブ反応!?いくらなんでもキャラ崩壊が過ぎるよ!」
「落ち着け、リザード。別に首の毛くらいどうとも思わん。」
「そうだよ。タッちゃんがそんな小さい事気にするはずないじゃん。ほらっ。」
「ちょ、蔓っ!わぁあああぁぁぁ…ぁ……ぁ…………っおぉ。」
「ねっ、ねっ。クセになっちゃいそうな触り心地だよねーっ。」
「おおお、これはっ。まるで、ニシカ○の二万円超最高級毛布のような!」
「……いや、その例えはどうなんだ。」
「へーぇ。リッちゃんて、意外と毛布とか絨毯とか手触りに拘るタイプだったの?」
「あっ……まぁ、はい。そうですね。」
ひとくちメモ:全身鱗男リッちゃんの密かな憧れ→『毛』。
◇骨と草と魚(営業終了後、従業員用出入口そばにて)
「ねー、パパンっ。今日、一緒に飲みに行かない?
ちょっと聞いてほしい話があってさー。」
「ええ、もちろん。僕で良ければお付き合いしますよ。」
「あっ!ドリー先輩、何やってんスか!?
まさかアンタっ、パパンにまで脅しかけて奢らせてんじゃっ…!」
「っえ、脅…?」
「あっは!ヤダなぁーっ、スケルンたらっ。
脅すとか奢らせるとか、なぁにソレぇ?冗談にしたって笑えないってー。」
「スケルン先輩、ダメですよ。
もし、今の話を知らない人が聞いていて、そっくりそのまま信じてしまったらどうするんですか?」
「冗だ…え、ちょっ、だってオレ…えぇ?待っ、何この空気っ?」
「あっ。もしかして先日、人を疑う事を覚えろとご教示下さった延長でそんな分かりやすい嘘を…?
お気持ちはありがたいですけど、さすがにそんな突拍子も無い内容の話まで信じませんよー。」
「なんだ、そういう事かぁ。もー、スケルンたら単純なんだからぁ。
今度はもっと周りに迷惑の掛からないようにやってよねっ。」
「えっ、えええええーっ。なんだこの流れっ。なんでこんな流れ!?
なんでそんなイタズラっ子を見守る親のような生暖かい眼差しを向けられてんの、オレ!?」
「ホラホラ、こんな場所で騒いだら周りの迷惑だよ?
じゃ、行こうかパパン。」
「はい。では、お先に失礼します、スケルン先輩。」
「あ、おうっ。…っじゃなくて!ちょっ、えぇーーっ。そりゃ無いッスわ、ドリー先輩ぃぃぃ。
っあー、くっそ!真冬の風と冷たい視線が骨身にしみるぜ、ちっくしょーい!」
ひとくちメモ:後日、スケルンはドリーからパパンの前で余計な事を言った罰を喰らいました。
◇牛とトカゲと魚(営業開始前、廊下にて)
「めんっどくせぇなぁ、お前は。」
「ごめんなさい、僕のエゴだとは分かっているんです。
でも、お二人ともとても良い先輩ですし、出来ればあまり喧嘩なんてして欲しく無くて……。」
「それは違うぞ、パパン。」
『タッちゃん先輩っ?』
「アレは単にじゃれ合っているだけだ。
図体のデカさのせいで傍目にはそう見えないかもしれないがな。」
「…エッ。」
「そうだったんですか?」
「あぁ。互いの理解の深め方が少しばかり他と違ってはいるが、それだけだ。
どこかの猫とネズミのアニメみたいなもので、分かり辛いが二人は仲良くやっている。
だから、何も心配することはない。下手に口出しせずに、黙って見守ってやれ。」
「っはい!ありがとうございます、タッちゃん先輩!目から鱗です!」
「なっ……バカなっ。タッちゃん先輩にそんな目で見られていた…だと……っ。」
「まぁ、さすがに仕事に支障をきたすよう場合は注意も必要だろうがな。」
「はい……あっ。そうか、分かった。
少し声をかけただけで喧嘩を止めてもらえるのは、やっぱりお互い本気でいがみ合ってるわけじゃなく、タッちゃん先輩の言うようにじゃれ合っていただけだったからなんですねっ。
今まで邪魔をして申し訳ありませんでした、リッちゃん先輩っ!」
「っだー、クソ!知るかバカ野郎!」
ひとくちメモ:この日から数週間、骨とトカゲの喧嘩が見られなくなったそうな。
◇トカゲと骨と草(営業終了直後、店内にて)
「ねぇ。リッちゃんとスケルンていっつも喧嘩してるけどさぁ。
たまには拳で語らずに別の勝負で決着つけようとか思った事ないの?」
「皆無ッスね。このクソ生意気な顔を見てるだけで、殴りたくなりますもん。」
「あぁ。こいつの小ウルセェ声を耳にするだけで蹴り飛ばしたくなりますよ。」
「そっかぁ。でも、今まで一度もまともに勝負がついた事ないんでしょ。
つまらなくない?」
「しかし、他のやり方で決着がついたとして納得が行くかと問われると…。」
「つーか、ドリー先輩は何が言いたいんスか?
オレらの関係にかこつけて変な真似させようってんならお断りッスよ。」
「スケルンはボクを何だと思っているの?
別に二人に何かさせようなんて考えてないよっ。もうっ。」
「骨野郎、貴様…。先輩を敬うっつーごく当たり前の常識も知らねぇとは最悪だな。」
「はぁぁ?テメェにだきゃ言われたくねーよッ!
そういう事はなぁ、レジェンズに先に入った先輩かつ年上のオレを敬ってから言いやがれ!」
「っざけんな!誰が!」
「…あー、また始まった。勿体ないなぁ。どうにかイベント化して儲けられないかなぁ。」
「って、うぉぉい!やっぱ、何かいらんこと考えてたんじゃねーッスか!」
「新しいイベントなら、まずオーナーに伺いを立てないとスジが通りませんよ。」
「まぁ、そうだよねぇ。今度様子見に来た時にちょっと話してみよっかな。」
「違ぇーーーッ!」
ひとくちメモ:イベント案は常識人のオーナーに却下されました。