フラグイベント発生中
モブ女性視点。分岐先で出会ったホストの常連という設定になります。
今日は久しぶりのお休み。
たっぷり惰眠を貪った私は、ちょっと遅めの朝食を摂りながら何気なく窓の外を見た。
雲一つない青空の下で小鳥たちが無邪気に戯れている。…のどかだわぁ。
うーん。お天気もいいみたいだし、せっかくだからどこかに出かけてみようかな。
思い立ったが吉日って言うし。…さて、どこに行こう。
→『商店街』
『公園』
『コンビニ』
『ホームセンター』
『書店』
◇とりあえず、商店街に行ってみよう
近場だし、とりあえず地元商店街をひやかしに行ってみる事にした。
平日だからかそれとも中途半端な時間帯だからか、人はそんなに多くない。
それにしても、シャッターを閉じているお店も結構あるなぁ。
大手のスーパーやデパートなんかにお客を取られているんだろうけど、昔から利用してた身としては頑張って欲しいと思ったり思わなかったり。
なんて考えていると、前方から見覚えのある焦げ茶のミノタウロスが歩いてきた。
って、うっそ、タッちゃん!?うわわわ、本物のタッちゃんだよーっ!
まさかこんなところで会えるなんて、私ってばなんてラッキー!早速、話しかけちゃおうっ。
「タッちゃん、こんにちはー。
お昼過ぎに出歩いてるって事は、今日はお休みなの?」
軽く手を振りながら小走りで近付き質問を投げかける。
「…あぁ。」
私の存在に気がついたタッちゃんは、全部をひっくるめていつもの超絶色気のある声で一言返事をくれた。
あーもうっ、これだけで腰が砕けちゃいそうだよ。耳元で囁いてくれたりしないかなぁぁ。
それに、プライベートだから当たり前なんだけど……しっ、私服とか刺激が強すぎるぅー!
白いVネックの服から覗く鎖骨と胸筋、そしてその半袖から伸びる筋張った逞しい腕。ピタリとしたジーンズに包まれたキュッと引き締まった形の良いお尻と相変わらず全身から垂れ流しになっているフェロモン…どうにも興奮が止まらなゴホンゴホンっ。ちっ、違うっ。私は恥女じゃない、恥女じゃないっ。
「お前さんも休みか?」
挙動不審に頭を振り出した私を変な目で見る事も無く、タッちゃんは話を続けてくれた。
ハッとして彼の顔を見つつ返答する。
「あっ、うん。そうなの。暇だし商店街でも見て回ろうかなって思って来たんだけど…。
タッちゃんはどうしてここに?」
「……この辺りは一人暮らしの年寄りが多くてな。
無事を確認するためと、後は少しでも慰めになればと話を聞いて回っている。」
年寄り羨ましいぃーーーーッ!
不謹慎かもしれないけど、でも、半年先まで予約いっぱいで断られる事しょっちゅうのタッちゃんとプライベートで話せるなんてズルすぎるよ!
たった数分の逢瀬のために、私を含む彼のお客がどれだけ苦労しているか…。
そこまで考えて、ある事に思い至った私は彼を見上げて手を組みこう言った。
「あ…あのね、タッちゃん。私、今日暇なの、すごく。」
さすが、その言葉の意図を正確に察したタッちゃんは、小さく苦笑いにも似た笑みをこぼしながら期待通りのセリフを口にしてくれる。
「……一緒に来るか?
たまには違う人間もいた方が皆も喜ぶだろう。」
「行くっ、行きたい!ありがとう、タッちゃん!」
その後の時間はまさに天国。間違いなく人生で一番素晴らしい休日を過ごせたと思う。
そんなこんなで、得難い幸せの余韻に浸ったまま私は一日の幕を閉じたのだった。
◇ここは公園でお散歩が無難かなっ、と
ポカポカとした陽気を受け止めながら、森林公園をのんびり歩く私。
たまにジョギングをしている人とすれ違ったり、私と同じく散歩を楽しんでいるお年寄りとすれ違ったりしながら、さわやかな空気を満喫していた。
はずなのに……どうしてこんなことになったんだろう?
「やめてくださいっ、迷惑です!」
「別に命取ろうってんじゃないんだからさぁー。」
「そぅそ、ちょーっと一緒に気持ち良くなろって言ってるだけじゃん?」
木々が生い茂っていて薄暗い細道を通りかかった時に、だらしなく学生服を着崩した、いかにも不良と言った風体の男二人に絡まれた。
逃げようと踵を返すと、さらに仲間と思わしき金髪男が一人、道を塞ぐように現れる。
その金髪男の後方には見張り役らしきスキンヘッドの男が細道の先に立って辺りを警戒しているのが見えた。
どーりで急に人がいなくなったと思ったら……皆はこういった輩の溜まり場になっていると知っててこの道をわざわざ避けていたんだ。
三人の男に腕を引っぱられ、力づくで林の奥へと連れ込まれそうになった私は咄嗟に叫び声を上げた。
「やあぁっ!誰かっ、誰かぁーっ!」
「っあー、ウルセェッ!」
抵抗を続ける私にイラついていたのか、男の内一人が私の顔を目掛けて拳を振りかぶった。
ヒッと喉を引きつらせながら、ほとんど反射的に硬く目を閉じる。
だけど、覚悟した衝撃は訪れずかわりにとても聞き覚えのある声が耳に入って来た。
「なぁーに、んなトコで絡まれてんだお前は。ったく、メンドクセェ。」
「なっ!?誰だテメェ、見張りはどうした!?」
「は、見張り?……あぁ、あのハゲガキか。アイツなら逃げたぞ。
偉っそうにこの俺様の行く手を遮りやがったんで睨んでやったら、そりゃもう脱兎のごとくな。」
何が起こっているのかと恐る恐る目を開けた先に立っていたのは……リッちゃんだった。
いつも通りのラフな格好で、片手にお茶の入ったペットボトルを遊ばせている。
鋭い目つきと光沢のある鱗が相変わらずセクシ…じゃなくてっ!
「えっ、りっ、リッちゃん!?」
「あん?他に誰に見えるってんだ、コラ。
俺様みてぇな最高ランクの男がそこらに転がってるワケねぇだろ。」
女相手でも容赦なく牙をむき出し不機嫌さを露わにしながら、彼はナルキッソスさながらのセリフを恥ずかしげもなく言い放った。
あー、間違いなくリッちゃんだわコレ。
「何が俺様だ。頭イカれてんじゃねーか、オッサン。」
「三人相手に勝てるとでも思ってんのか?」
「ケッ、ヒーロー気取りがスカしやがって……切り刻んでやる!」
吠える不良たちはそれぞれナイフを取り出し、揃ってリッちゃんに向かって行った。
危ない!と思う間もなく彼らは丸太のような何かによって横薙ぎにされ、勢いよく吹っ飛ばされる。
「雑魚が…。俺様に楯突こうなんざ百万年早ぇっつの。」
ビタンっと太く硬い尻尾を地面に打ち付けながら、リッちゃんは嘲るように言った。
当の不良たちはみんな気絶してしまって聞いていないけど、そこは別にどうでもいいんだろうなぁ。
それから彼はチラリと私の方を見ると、フンっと鼻を鳴らして片手をズボンのポケットに突っ込む。
「オラ、さっさと歩け。またゴミが湧いても知らねーぞ。」
「え、あ。う…うん。あの、助けてくれてありがとう。」
「あー、いらねぇいらねぇ。
礼がしてぇってんなら、んな一円にもならん言葉より店来て売上に貢献しろ。
骨野郎が最近客数伸ばして来てっかんな。差ぁつけてぇんだよ。」
何だかんだ文句や愚痴を言いつつ、リッちゃんは私を家まで送り届けてくれた。
怖い思いもしたけど、こんな役得があるなら悪くなかったかも?なぁんて、呆れた事を考えちゃったのは彼には内緒だ。
今度お店に行った時は彼の好きなカラアゲを沢山注文してあげよう、と思いながらその日の床に就いた私だった。
◇やっぱり暇つぶしならコンビニだよね
自宅から歩いて十分程度の場所にあるコンビニエンスストアーへお財布片手に出かける私。
店内に入って最初に雑誌コーナーへ向かうと、そこに見知った骨の人がいた。
「あれっ、スケルン?」
「ん?…おぉっ、こんなとこで会うなんて奇っ遇じゃーん?」
声をかけると、スケルンは立ち読みしていた雑誌を棚に戻しながらカタカタと白く細い手を左右に動かした。
一応TPOは弁えているのか、いつものように大きな声でしゃべったりはしないみたい。
「いやっ、むしろコレ運命かもしれねぇな。
つーか、やっべぇ。だったら、オレ運命の女いすぎだしっ。
さすがイケてるメンズの人生はハーレム完備ってか。ッフーウ。
将来は、一夫多妻の国にみんなで移住とかしてみちゃうーぅ?」
彼は話しながら拳を握ったり、額に手を当て膝をついてみたりと様々なポーズを取っている。
そんな言動に楽しい気分にさせられながら、私は両手の平を合わせて笑った。
「あははは、ごっめーん。私、スケルンとは遊びだからぁ。」
「オーマイガーーッ。
マぁジでぇーっ。オレ、もてあそばれてたのかよっ。うぅわ、ショックでけぇーーッ。
……ん?いやでも、良く考えてみっと『ピチピチギャルに遊ばれちゃうオレ』とかそれはそれでオイシイ立場?
おうっ、ある意味勝ち組っぽく思えてきたっ。有りじゃね?」
うーん、マシンガントークと忙しない身振り手振りは仕事以外でも変わらないんだなぁ…。
なんて妙に納得しながら一人頷いている間に、もうスケルンは別の話題に移っていた。
「実はオレ、コンビニの限定商品とか新商品とか試すのが好きでさぁ。しょっちゅうチェックに来てんの。
あ。ちなみに、この新発売のカップ麺オススメだぜー。」
「へぇ…。じゃあ、試しに買ってみようかな?」
「イェアっ、行っちゃえ行っちゃえっ。
知らない間に消えてる事も少なくないからなぁ。一度は買っといて損無いぜー。
この前なんかも、売れ行きが悪かったのか気に入ってた駄菓子が入荷しなくなっててさぁ。
いーやぁー、アレは泣いたねーっ。他の店にも無いみたいで、大人買いしときゃあ良かったってスッゲェ後悔したわ。」
その後も彼に促される形で、普段になくカゴいっぱいに商品を詰め込んでしまった。
合計金額を表示された時にいくら何でも調子に乗りすぎたかなぁと反省していたら、隣りに立っていたスケルンがスッとレジに一万円を置く。
「えっ、スケルン!?」
「っつーか、オレのオススメなんだし払うに決まってっしょ。
これでもし後になって損したーって思われちゃったら気分悪いじゃん?
他人の感性ってやっぱ違うかんなぁ。
ま、いつも店に来てもらってるお返しってことで、ここは素直に奢られちゃおうぜ。なっ。」
それから少し悶着があったりしつつも、結局最後は彼に押し切られてしまった。
しかも、『んな重い荷物、女の子に持たせるわけにゃあいかねーだろ!』というスケルンの主張の元、徒歩圏内だと言うのに彼の車で送られた上、玄関先まで荷物を運んでもらうという結果に…。
せっかくだからお茶でも飲んで行かないかと提案したら、ピチッと軽くおでこをはじかれて『こぉら、男を簡単に家にあげようとすんのは感心しねぇーよ?いくら相手がオレだっつってもな』なぁんて苦笑いされて、ちょっとビックリ。もちろん、彼は家に上がらずそのまま玄関でサヨナラした。
お店で会う時とはまた少し違った女の子扱いを受けた事で、何だか仲の良い男友達が急に男になったみたいに感じてドキドキしちゃった。
お返しのお返しというのも変だけど、ちょっと来店回数増やしてみようかなぁ。
そんなことを考えながら、私の休日は終わりを告げたのだった。
◇たまにはホームセンターも面白いかも
市営のバスに乗って、久しぶりに家から少し離れたところにあるホームセンターを訪れた。
最初にペットコーナーで犬や猫の愛らしい姿を堪能して、それから家具を見つつ恋人もいないのに結婚後に住む家を想像して楽しむ。
その後も掃除や調理の便利グッズをひやかしたり、そういえばと無くなりかけていた消耗品等をカゴに入れたりしながら店内をあちこち巡った。
そして、気まぐれに何か植物でも育ててみようかなぁなんて園芸のコーナーに行ったところで予想外の人物に会う。
「やっほーっ。珍しいねぇ、お店以外で会うなんて。」
「えっ……あ、ドリー君っ。」
手の平サイズの小さな鉢に入ったサボテンを見比べていると、背後からニコニコ笑顔のドリー君に声をかけられた。
相変わらず、かぁわぁいぃぃぃ。
吸い込まれそうなほど真っ黒で大きな瞳。ハチミツみたいな甘ぁいボーイソプラノの声とそれを紡ぐ小さなお口。赤ん坊もかくやのフニフニおててに小動物っぽい仕草。
この愛らしさ、さっき見た動物たちなんか目じゃないわぁ。
もし、ペットコーナーに彼がいたら間違いなく買う。借金してでも買う。
仕事から帰った時にお出迎えしてくれたら、一発で疲れが吹っ飛ぶだろうなぁ。
毎日、お膝の上でこの子を可愛がれたらどれだけ癒されるか…って、いけない。危険思想だわ。自重自重。
「どうして、ドリー君がここに?」
「ボクはねぇ、自分用の肥料を物色中なのー。
ぴちぴちのお肌を保つのも案外大変なんだよーう?」
肥料で肌を保つって、一体どういうこと?…と疑問が湧いたけれど、すぐに彼の種族を思い出した。
「そっかぁ。マンドレイクって確か植物だったもんね。
何だか、ドリー君とホームセンターってイメージが違うから驚いちゃった。」
「そーお?結構、頻繁に来てるんだよー。
…ところで、お姉さんは何を選んでいたの?」
プリティーに小首をくりっと傾げて問われたので、私は内心身悶えしながら両手に持っていたサボテンを見せつつ答えを返す。
「ちょっと部屋で植物でも育ててみようかなって思って。」
「それでサボテン?育てる対象としてはツマラなくなぁい?」
「んー、私ってズボラなのよ。
水やりを毎日なんて絶対忘れちゃいそうだし、だからって枯れたら可哀相じゃない?」
「なるほどー、お姉さんってば優しぃっ。さすがボクの常連さんっ。
とりあえず、その二つだったらこっちの方が良いと思うよー。」
そう言いながら、ドリー君は短く丸っこい指を私が右手に持っていた鉢に向けた。
左手のサボテンを棚に戻して、残った身の薄いサボテンを見ながら小さく頷く。
「……そうね、ドリー君がそう言うならこれに決めちゃおうかな。」
「ふふっ、ありがとー。
最初に気合いを入れて水やりして根腐れさせちゃう人がいるから、お姉さんも気を付けてねっ。」
「うん、分かった。気を付ける。」
「だてに植物やってないし、何かあったらボクいつでも相談にのるから。」
「あっ。だったら、その……今…でも、いいかなぁ。私、本当に初心者で。
水やりの頻度とか量とか、あと置く場所とか……とにかくこの子のために必要な事、全部知りたいの。」
せっかく彼に選んでもらったサボテンを自分の無知で枯らしたくなかった私は、恥を忍んでこの場で育て方を教えて貰えるように頼んでみた。
すると、ドリー君は嬉しそうに微笑みピッと人差し指を口の前に立てて言う。
「くすくす。お姉さんて、本当カワイイよね。
いいよっ、今から教えてあげるっ。」
それから二人で店内のベンチに移動して、じっくりサボテンの育て方をレクチャーしてもらった。
途中で飽きないようにか合間合間に関係無い話を挟みつつ、彼は初心者の私にも分かりやすく説明してくれる。
そして数時間後、お礼と言うには安いかもしれないけれど、彼の買う予定だった肥料の代金を払って二人揃ってホームセンターを出た。
子供のように小さな手なのに驚きの力強さで肥料二袋を片手に抱えたドリー君は、空いているもう片方の手を振りながら私がバスに乗るのを見送ってくれる。
その帰りのバスの中で、買い物袋からサボテンを取り出し眺めつつ『説明中のドリー君は何だかいつもより大人っぽく見えて……いや、実際大人なんだろうけど、普段少年にしか見えないからすごく新鮮だったなぁ』などと一人ニヤニヤしてしまう私だった。
◇そういえば、最近書店に行ってなかった
小説の続き出てるかなぁと思いながら駅前の大きな本屋に足を運んでみる。
各コーナーをチラチラと覗きながら移動していると、料理本のコーナーにパパンさんがいた。
ムーンストーンのようなツヤツヤの鱗がお店の照明に反射して、月明かりのように淡く光りを放っている。
うーん、何だか彼のいる場所だけ別世界みたい。背後に古代神殿とか幻視しそうだわぁ。
見惚れついでに、その場で足を止めて観察してみる。
何か探しているのか、彼は適当な本をパラパラとめくっては棚に戻しを繰り返していた。
腕から伸びた虹のようなヒレがフワフワ舞ってちょっと邪魔そう。
プライベートだしどうしようか迷ったけれど、結局好奇心に負けて声をかけてみる事にした。
「パパンさん…って、料理されるんですか?」
その声にパパンさんは見ていた本から顔を外し、そして、私の存在を確認するとフワリと優しく微笑んだ。
ぶあっ、まっ、眩しいっ。笑顔眩しいっ。ひーっ、浄化さーれるぅーーッ。
「やぁ、こんにちは。
そうだね。家庭料理レベルのものなら結構色々作れるかな。」
「へぇー。…いいなぁ。パパンさんの手料理、食べてみたい。」
「ふふ…、光栄です。
でも、特定のお客さんを贔屓してるって思われちゃいけないから……ごめんね。」
「わっ、そんな申し訳なさそうな顔しないで下さいーっ。
ただ適当に思った事を言っちゃっただけで、本気でねだろうとか考えてないですようっ。」
小さく項垂れ色っぽく伏し目がちになるパパンさんの姿に慌てて首を横に振れば、彼はホッとしたように笑った。
うーん。本当に純粋というか何というか。清濁入り乱れるこの国にあって奇跡みたいな人だわ。
なんとなく料理の話題を続けにくくなったので、他に気になった事を聞いてみる。
「ところで、パパンさんは今日お休みなんですか?」
「あぁ、うん。だから何か本でも買おうと思ってね。
色々見て回ってたところなんだ。」
「あっ、私も一緒です。久しぶりの休みだから、小説の続きを買いに来たんですよ。」
「小説かぁ。差支えなければタイトルを聞いても?」
その後の会話で分かったけれど、どうやら彼は結構な読書家らしかった。
なるほど、だてに眼鏡をかけてないって事かぁ…。って、何か違う?
私が購入予定の小説も読んでいるようで、しばらくその話で盛り上がった。
彼から自分に無い視点での考察なんかを聞くと、そんな見方があったのかと目から鱗が落ちるような思いがして、また改めて一から読み直したくなってくる。
いつになく楽しい時間だった。
それから、ある程度会話が終息すると、私たちは一緒に小説コーナーへ向かいオススメの作品を教え合った。
案外、嗜好が似ているのか既読が多い。
それが何度か連続すると段々可笑しくなってきて、ついには二人でクスクスと笑い出してしまった。
「はーっ、こんなにオススメがカブるなんて思わなかったなぁ。
でも、意外です。パパンさんって、結構残酷な話も読まれるんですねぇ。」
「うーん、確かに読んでいて辛くなる時もあるけど……。
それが人という種の逃れられない性であり罪であるのなら、僕はそこから目を逸らすべきではないと思うんだ。
人間の良いところも悪いところも、みんな受け止めた上で好きだって言いたいからね。」
そう告げると、彼は私に向かい慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
……いや、あなたどこの聖人君子ですかー。と思ったけど、パパンさんなら仕方ない。
博愛主義って、この人のためにある言葉なんじゃないかしら。
とりあえず、どう答えたら良いのか分からなかったので曖昧な笑顔を返しておいた。
ふと時計を見ると、もう結構な時間が経っている。
せっかくの休日を邪魔して申し訳ない気持ちになりながら、私は目当ての本を片手に彼と別れた。
本当、なんでホストなんてやってるのかなぁパパンさん。
まぁ、彼目当てでお店に通ってる私としては、今さら他所に行かれたらすごく困っちゃうワケだけど…。
そんなとりとめのない事を考えつつ、帰り道をてくてく歩く私。
相手にとってどうかは分からないけど、自分にとってはすごく有意義で充実した時間だったと思う。
素直に『明日からも頑張ろう』と、そう思えた休日だった。