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ただし情熱は鼻から出る  作者: さや@異種カプ推進党


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山田の先輩観察記2 ゲーセン編



 とあるアミューズメント施設から、おはこんばんちは。山田です。


 …なんて、脳内挨拶はさておき。

 自分は今、レジェンズの面々といわゆるゲームセンターと呼ばれる場所に来ている。

 一部ホストたちの話の流れでそう決まったらしいが……いやもう、マジ意味不明。

 人数の関係で五階建ての巨大店舗に来るしかなかったわけだけど、そのせいで店内のどこもかしこも人外ホストだらけという異様な空間になってしまっていた。

 一般のお客さん、本当にすみません。

 ニワトリもビックリな早朝だから、比較的人数の少ないのが救いと言えば救いだろう。

 それってまだ夜なんじゃないの?というツッコミは無しだ。


 そこまで考えたところで案内板を漠然と眺めるのを止めて、とりあえず移動を開始する。

 別段、自分はこういう所は好きでも嫌いでもない。ので、適当に時間を潰すべく一階から順に見てまわる事にした。





 まずは店内入ってすぐの音楽ゲームコーナー。

 さすがにこの辺りは素人がプレイするには向かないなと素通り同然に歩いていたら、唐突に通路右側から歓声が聞こえて来た。

 何事かと顔を向ければ、とある筐体きょうたいを囲むように人だかりが出来ているのが目に入る。

 ふーん、こんな時間に珍しいこともあるもんだな。


 で、ええ…と……あれは、ビートマニアクスⅡDX?


 周囲の反応から察するに、どうやら凄腕のプレイヤーがそのウルテクを惜しげもなく披露しているらしい。

 人垣の外側から中心を覗こうとあちこち移動して、何とか隙間から手元だけだが見る事が出来た。

 プロピアニストも舌を巻きそうなほどの残像すら見えるスピードで縦横無尽に動く黒の手袋に被われた指先。


 なん…という、超絶技巧……っ。


 思わず、喉が鳴った。

 おそらく先程の歓声は、一曲目が終わった際のインターバルでの出来事だったに違いない。

 今は誰もかれもが固唾をのんで彼の作り出すいっそ芸術とも言うべきプレイを見守っている。

 例え全くのゲーム素人だって、これには見惚れざるを得ないだろう。

 もう単純に凄いとしか言いようが無かった。


 それから数分。


 見事ランキング一位を獲得した超級プレイヤーへと、周囲から惜しみない拍手と歓声が上がる。

 もちろん、自分もその歓声を上げた内の一人だ。

 すっかり興奮のるつぼと化した集団の間を、軽く右手を上げつつ颯爽と歩いて来る彼へ賞賛の目を向け……。


「って、スケルン先輩!?」

「おっ、山田じゃーん。」


 うわあああ、さいあくだ!なんでスケルン先輩なんだ!

 なんか、ものすごく損した気分になってきたじゃないか!

 かっ、返せ!ついさっきの感動を熨斗つけて返せ!


 などと、本人を前に言えるわけもなく……。

 何だか知らないが飲み物を奢ってくれるとの甘言につられて、スケルン先輩と二人。休憩所の椅子に腰を下ろした。

 先ほどのショックを思い出してため息を吐きたくなるが、理由を尋ねられても鬱陶しいのでここは我慢だ。

 隣に座る骨は、足を組み紙コップのブラックコーヒーを啜りながら常のごとくクソどうでもいい話を垂れ流している。


「いっやぁーっ、後輩くんに雄姿見ぃられちゃってたかぁーっ!

 実はオレ、アーケードで出てる音ゲーは一通りプレイしてんだよなー。

 弐寺もそれなりだけど、一番得意なのはポップンでさ。

 理由ぅ?…バッカ、んなの女子人口が多いからに決まってんだろぉーーっ。

 モテるんだよ、こういうの上手いと!マジで!」


 半分くらい何を言ってるのか分からないんですけど。

 ていうか、理由とか聞いてないですから。あと、肩を叩いてこないで下さい。

 っあー。本当にウザい。そして、ウザい。

 しかし、後輩という立場とこの手の中の緑茶がある限り相手をしない訳にはいかないというジレンマ。


「意外な趣味と思いきや、結局ソコですか……。」

「おいおいおぉーい、なんだよ。そぉの呆れたような顔はぁー!

 いいじゃないの。大事よぉ、女の子受け!お前だって、ホストだろーっ。

 ちったぁ狙ってかねぇーと、ダぁメだってぇ。もーっ。」

「あー、っと。ちょっと気になってたんですけど、その黒い手袋何ですか。」

「んあ、コレか?

 こりゃあ、プレイすんのに滑りを良くするためとぉー。

 あとは骨で筐体を傷つけないためのガードってとこだなっ。

 あっ、そうそう。

 ついでにどこの汚いオッサンが触ったボタンか分からないからって理由もあんだけどさーっ。

 ほら、オレ結構キレイ好きだしぃー?」

「……そうですか。」


 その後もひとつ口を聞いたら何倍にもなって返って来る骨トークは、彼が自身のコーヒーを飲み終わる二十分の間えんえんと続いたのだった。

 しょっぱなから無駄に疲れた……山田です。





 階を上がろうとエスカレーターを目指している途中で、体感型のガンシューティングゲームで遊んでいるタッちゃん先輩を発見した。

 手にしているそれは偽物とは言え、彼が銃を構える姿は中々堂に入っていて格好いい。

 まるで、そこだけ違う空間になってしまったかのような錯覚さえ覚える。

 さすがに彼はあまりゲームに縁がなさそうだし、プレイの上手さまでは敢えて期待しない。

 とにかく、その凛々しい姿をもう少し堪能しようと静かにタッちゃん先輩に近づいて行った。

 邪魔してしまわないよう右斜め後方の視界に入らない絶妙な位置で歩みを止める。

 が、そこで予想外の出来事が起こった。


「……山田か。」

「えっ、はいっ。」


 っは、なんで!?

 タッちゃん先輩、普通に画面を向いたままプレイ続行中だぞ!?

 チラともこっちを見てなんかいないのに、なんで自分のことが分かったんだ!?


「どうした。

 ……と、あぁ。もしかして、これで遊びたかったのか?」


 タッちゃん先輩は、やはり正面の映像を捕らえたまま銃の引き金を忙しなく鳴らしている。

 というか、アレ。先輩、もしかしてスッゲェ上手くないか。

 さっきから撃ち漏らしも無駄撃ちもなければ、間違えて民間人を撃つこともない。

 ええっ。もしかして、まさか、実は、タッちゃん先輩もあの骨のごとくゲーセン通いを!?

 うわぁ、それ何気にショックなんだけども!先輩のイメージが…っ。

 って、やば。いい加減に先輩の質問に答えろって話だな。


「いえ、違います。

 移動中たまたまタッちゃん先輩の姿を見かけて、銃を構える姿が様になっていたから……。

 こういうの、良く遊ぶんですか。」


 ちょうどと言っていいのか、問いかけと同時に画面中のボスモンスターの断末魔が響いてくる。

 そこで、初めてタッちゃん先輩はスッと腕を下ろしてこちらへ視線を向けてきた。


「いいや、初めてだ。……が、本物を扱うのに比べたら楽なもんだな。

 見た目の割に重さもほとんど無く、安全装置を無視したトリガーは軽い。

 それに、狙う位置が目に見えているし弾の補充が画面外を打つだけとくれば、なるほど子供でも容易く遊べるわけだ。」


 ふ……と目を細め銃を台に戻しつつ僅かに口の端を上げる先輩。

 くうっ、そんな何でもない仕草も渋い……じゃなく!

 っえええええ嘘だろ、初めてかよ!ハイジもびっくりだよ!

 どれだけ本物の扱いが上手ければ、そんなウルトラテクが身に付くんだ!?

 彼の背後に全国ランキング二位の文字がデカデカと主張して来てるし!

 子供でもとか言って、普通はそんなに容易くプレイできないって事を教えてあげるべきなのか!?

 いやもう本当、どんな危険な世界に生きてたんですか!

 うぅーわ、怖っ!タッちゃん先輩の知られざる過去怖っ!

 っと、そういえば。


「あ。あの、先輩。」

「どうした?」

「自分が来たこと、何で分かったんですか?

 タッちゃん先輩、ずっとゲーム画面を向いてたままだったのに。」


 聞くと、彼は一瞬きょとんとした表情を浮かべてこちらが思ってもみない答えを返してくる。


「気配と足音で分かるだろう?」


 ごめんなさい!分かりません!

 山田はそれはそれは平和な日本の平凡な一般市民として日常を享受していたので、そのような特殊技能は身についておりません!

 しかし、あくまで空気を読む人種である自分は彼の問いに乾いた笑いを返すことで回答を濁すのだった。

 うーん、常識を知っているかどうかと人に対する気遣いか出来るかどうかってあんまり関係がなかったんだなぁ……。





 頭を捻りつつ次に行ってみたのは、格闘ゲームなどのミディタイプ筐体が置いてあるコーナーだ。

 単純なパズルゲームでもプレイして心を落ち着かせようと思ったのだが、ここでもまた面倒臭い男に会ってしまった。


「おう、山田か。」

「っ……リッちゃん先輩。」


 危ない危ない。あと少しでウゲっなぁんて声が出てしまうところだった。

 そして、色んなものが終わってしまうところだった。

 自分の咄嗟の判断力に乾杯。


 さておき、どうやらリッちゃん先輩は格闘ゲームをプレイしていたらしい。

 筐体前の椅子にどっしりと腰かける姿は、相変わらず不遜というか偉そうというか……。

 しかし、くの字型の椅子は通常二人は座れる規格になっているはずなのに、彼が使用している今は一人用としても小さく見える。

 さすがレジェンズ一の身長の持ち主という事か。体格も良いしな。

 ……って、あれ?


「リッちゃん先輩、これもうスタッフロールじゃないですかっ。」

「あぁ?

 あー、ついさっきな。今回はウゼェ乱入もねぇから早かったわ。」


 今回は……って事は、彼はある程度このゲームをやり込んでいるんだろうか。

 ちまちました遊びなんか嫌いそうなイメージだったから、少し意外だ。

 というか、リッちゃん先輩なら仮想よりリアルでいくらでも格闘してると思うんだけどなぁ。

 敢えてゲームでもそれをしたいと思う感覚が分からない。

 うんざりしないのかね。どうでもいいけど。


「アーケードゲームのクリア画面、初めて見ました。

 つっても、まぁ。自分はゲーセン自体めった来ないんですけど。」

「ま、格ゲーだけは学生時代にソコソコやってたかんな。

 昔はプレイにリキ入れすぎて台壊したり、乱入相手とリアルバトルに突入するのも珍しくなかったぜ。」


 貴様、最低の客じゃねーか!

 ってか、よく出入り禁止にならなかったな!


「ええっと。それは……お店の人、気の毒に。」

「ハッ、ちゃんとイロつけて弁償してたっつーの。

 しょーもねーこと言ってんなよ、山田ーぁ。」


 そんな戯言をのたまいつつ鼻で笑うリッちゃん先輩。

 オイ待て。ゲーム機一台弁償できるほどのそのお金はどこから出てたんだ学生オイ。

 まさか、若さに任せてあーんな酷い事やこーんな悪い事をしていたんじゃっ…。

 などとこっそり心の中で想像を働かせていると、シラけた様な表情のリッちゃん先輩がのそりと立ち上がった。


 えっ、も、もしかして頭の中を読まれたとかじゃないよね?ね?

 そう考えている間にも目の前に立ち見下ろしてくるリッちゃん先輩。

 うへええ、さすが二メートル級の巨体。あらためて見ると威圧感ハンパねぇなぁ!

 内心戦々恐々としているところへ、リッちゃん先輩が訝しげに眉間に皺を寄せながら口を開く。


「んで、テメェは何をボーっとつっ立ってんだ?

 別に俺様と話すためにワザワザ来たってんでもねぇだろ?」

「えっ、あっ、いや、はい。

 暇つぶしにちょっとパズルゲームでもしようかと思いまして。」

「ふーん。」


 動揺しながらも何とか答えると、彼はもうこちらには一切の興味を失ったようでのっしのっしといずこかへ去って行った。

 スケルン先輩以外の同僚に手を出す姿は見たことないが、これは中々心臓に悪い出来事だった……。

 え、パズルゲームはどうだったって?

 ははは。何だか気力ゲージがガンガン減っていて雀の涙ほどしか残ってなかったので、結局やってませんよ。ははは…………はぁ。





 平穏を求めてあちこち流離さすらい、まさかここに遊ぶような面子はいないだろうと訪れたメダルコーナー。

 しかし、悪い事というのは重なるようで、あっさりドリー先輩に見つかってしまった。

 ……くそ、今日は厄日か。


「あっ、山田っ。

 ちょうど良いところにっ。」

「え……な、何ですか。」


 あなたにそんな風に言われると嫌な予感しかしないんですよ、こちとら。

 どうしてかいつもと違う邪気の無い笑みを浮かべて近づいてくるショタオッサン。

 踵を返しダッシュで逃げ出したい気持ちをどうにか堪えながら、彼の次の言葉をきちんと待つ自分はとても偉いと思うので誰か褒めればいいんじゃないでしょうか。

 が、そんな精神の葛藤もドリー先輩にはバレバレだったようで、ぷくっと頬を膨らませながら怒られてしまった。


「もーっ、何警戒してんの山田ー。失礼しちゃうっ。

 いっぱいメダルが溜まったから、分けてあげようと思っただけだよーっ。」


 なんだかんだ蔓の鞭が飛んで来ないところを見ると、機嫌は悪くないらしい。

 だがしかし、このケチで吝嗇りんしょくで金に汚くて守銭奴で赤螺屋あかにしやで、後輩のホストたちにも容赦なく奢らせる最年長のドリー先輩が例えメダルとは言え他人に分与しようとは、いったいどういう風の吹きまわしだろうか。

 どうも普段の態度のせいで裏を疑わずにはいられないが、かと言ってここで断っても角が立ってしまう。

 仕方なく愛想笑いを浮かべながら身を屈め、彼の方へと片手を差し出した。


「え、と、スミマセン。

 じゃあ、遠慮なく貰っちゃっていいです?」

「うんっ、はいコレっ。」


 ゴガガボギガズンドシャアア!


「ヤッダーバァァァアアアアッ!!」


 ぎぃあああ手首っ、手首があああああああ!

 口だけでなく、心の中でも絶叫が轟く。

 先輩に乗せられたメダルの重みに耐えきれず、手首が直角に曲がってしまったのだ。

 専用のケースから溢れるほど溜まった膨大なメダルの山。しかも、それを一気に三ケース重ねて乗せられたために起こった人為的な悲劇だった。

 ちなみに、ゴガガがケースを置かれた音でボギが手首の折れた音、ガズンが床にケースが落ちた音でドシャアアが自分が地面に倒れ込んだ音になる。

 あまりの痛みに恥も外聞もなく涙目で地を転がり回っていたのだが、その際、チラリと視界に入ったドリー先輩はドン引きしたような顔をしていた。


「……うぅわ。山田、何やってるの?

 というか、この程度の重さも持てないってどれだけ貧弱?」


 ような、ではなく実際にドン引きしていたようだ。

 というか、アンタが普段いいように使ってる先輩たちの力が特別強いだけですからーー!

 自分の筋力は成人男性二十代の平均と同じくらいです!

 そんな心の中での悪態に対し常のように蔓が飛んで来ないのは、多少なりとも彼が罪悪感というものを感じているからだったらいいなぁ。という希望。

 うだうだ考えている間にようやく手首の痛みも治まってきたので、ふらつく足取りながらも再びその場に立ち上がる。

 ったく、この小説がコメディーじゃなかったら即刻病院行きだったぞ。


「えーっと……大丈夫?」

「一応大丈夫ですけどね!ええ!

 てか、なんなんですかこの非常識な量!!

 来てたったの数十分でもうこんなに稼いだって言うんですか!?」

「え、ちょっ。なんなの、山田。そんなに騒いで。

 このくらい普通でしょ?」


 こちらの問いかけに、心底不思議そうな顔を見せるドリー先輩。

 それからよく話を聞いたところによると、メダルコーナーは貧乏人がお金持ちの気分を味わうために遊べば遊んだだけ稼げるシステムになっているのだと思っていたとのこと。

 あまりにもあんまりな勘違いだったので、不肖山田。しっかり、彼の思い込みを正しておきました。

 ちなみに今回の元手は千円だったらしい……もうやだ、この先輩たち。





 まだ少々痛む手首をさすりながら休憩スペースを目指していると、その途中のクレーンゲームコーナーで遊ぶパパン先輩の姿が目に入った。

 似合わないけど何だか和むなぁと思いつつ、彼が何を取ろうとしているのか気になったので近づいてみる。

 ……なるほど、巨大袋菓子か。さすがに無難なチョイスだな。

 その間にもゲームは失敗に終わったようで、振り返ったパパン先輩と目が合ってしまった。

 すると、彼は少しばかり照れた風に微笑みながらこちらへと話しかけてくる。


「やぁ、山田くん。楽しく遊べてる?」


 あああ、普通の反応。これだよこれ。自分の求めていたもの。

 すっごい癒される。も、すっごい癒される。

 擦り切れ寸前だった精神が優しさに包まれたような気分がする。

 ありがとう、パパン先輩。この世に生まれて来てくれて本当にありがとう。

 あなたのとんでもない先輩たちのおかげで楽しくは遊べてませんが、今からなら可能な気がしてきました。

 などとは、口が裂けても言えないので適当に濁す。


「えーと、まぁまぁですかね。

 パパン先輩はクレーンゲーム好きなんですか?」

「いや……実は僕、こういう場所初めてで。

 正直、何をしたらいいのか分からなくて。」


 そう言ってはにかむ先輩。

 大丈夫、イメージ通りです。悪い事など何一つありません。

 むしろ、他の面子みたいにやたら上手かったりしなくて安心します。

 ふんふんと頷きつつ話を聞く自分に、パパン先輩はさらに言葉を重ねてきた。


「一応、ひと通り店内を周ってみたんだけどね。

 これが一番ルールが簡単そうだったし、景品のお菓子も大きくて皆で分けられそうだったから。

 でも、実際やってみるとなかなか難しくって……もう諦めようかと思っていたところだったんだ。」


 先ほど失敗したところを見られたのが恥ずかしかったのか、薄らと頬を染め自らの後ろ頭を撫でる先輩。

 これを写真にしたら一体いくらで売れるんだろうなどと一瞬どこぞの守銭奴先輩のような考えが浮かぶが、こんなにも心のキレイな人を前に何を下賤な思考をとすぐに打ち消し悔い改めた。

 ホストたちが好き勝手に遊んでいる間にも、パパン先輩はそんな皆の事を思って景品を決め私財を投下していたのだ。

 自分なんかが彼という存在を汚して良いはずがない。


「いえいえ、この手のゲームはよっぽど上手い人じゃない限り簡単に取れないようになってますから。

 そんな、気にしなくて大丈夫ですよー。

 えーっと、それで。パパン先輩は、クレーン止めて次どうされるんですか?」

「いや、もう集合時間までどこかで適当に座っているつもりだよ。」


 ちなみに、この後はタッちゃん先輩のおごりで全員で焼き肉に行くことになっている。

 そのための集合時間なのだが、まだあと四十分以上も残っていた。


「えーっ、それはさすがに勿体無いですよー。

 良かったら自分、説明とかしますし。

 もう少し初めてのゲーセン楽しんでみませんか?」


 だから、少しお節介かなと思いつつも彼にそんな提案をしてみた。

 対して、先輩は申し訳なさそうに眉尻を下げてこう返してくる。


「それは嬉しいけど、いいの?

 山田くんの大切な時間を奪っちゃうことにならないかな?」


 はっは、そんなパパン先輩だからこそ大丈夫なんですよ。

 これが他の先輩たちだったら、とてもじゃないけど一緒に周ろうなんて考えられたものじゃあないですから。

 ストレスで寿命がマッハってヤツですから。


「はい。全然、問題ないですよ。

 自分も、一緒に周れる人がいた方が楽しいです。」

「うーん。だったら、お願いしてみようかな。

 ありがとう、山田くん。」


 お礼を言って、菩薩のごとき微笑みを浮かべるパパン先輩。

 あー。なんだかもう、彼のかける丸眼鏡ですら神々しく見えてきた。


 お願いですから、先輩だけはずーっとずーっとレジェンズにいて下さいね。

 いやもうホントお願いですから。ね!




※おまけ


「あれー、また山田だっ。

 あ、パパンもいる。そんなトコで何してるのー?」

「お疲れ様です、ドリー先輩。」

「ええと、先ほどはどうも。

 というか、別に何もしてな……。」

「おっ、クレーンゲームかー。ひっさしいなー。

 って、何だぁお前ら?んなトコに固まって。あっ、これか?この菓子が欲しいのか?

 単純に遊びを楽しんでるだけってんならアレだが、欲しいんだったらソイツは素人にゃ無理だぜー?

 ホレ。獲物の重さに対してアームの力が弱ぇし、引っかけやすい仕掛けもないだろ。

 どうしてもっつーんなら、オレ取るけどさー。」

「うわ、出た。」

「わあ。スケルン先輩、お詳しいんですね。」

「えー、そんなコト言っちゃってぇ。ホントに取れるの、スケルーン?」

「はっはーん、クレーンゲームが上手いと女の子にすっげウケが良いッスからねー。

 プロ級ッスよ。マジ、任せて下さい。」

「ケッ。脳みそスカスカの骨野郎は、相変わらず吠えることだきゃ立派だぜ。」

「あっ!てめ、クソ爬虫類!何しに来やがった!」

「オラ、さっさとやるならやってみろよ。失敗したトコ笑ってやっからよ。」

「んーなコト言って、またボーリングの時みたく邪魔して来るつもりなんだろうが!

 プライドねぇのか、テメェはよ!」

「あぁ?貴様に言えた義理かコラぁ!」

「かしましいな……。」

「あ、タッちゃん先輩。さっきはどうもです。」

「またあの二人か。レジェンズでやる分にはまだ目を瞑るんだが……。」

「あ~、ドリー先輩もパパン先輩もいるし大丈夫じゃないですかね。

 ……ところで、何持ってるんです?」

「ふむ。中々造りが凝っていて面白いと思ってな。」

「おっ、カプセルトイですね。

 確かに、最近は大人の趣向に合わせたようなものも多いみたいで……。」

「止めてください、先輩方っ。他のお客さんの迷惑ですよっ。」

「わー、リッちゃんとスケルンがまた怒られたー。」

「子供か!

 何楽しそうに囃し立ててんですか、ドリー先輩っ!」

「……山田も忙しいな。」



 レジェンズの面々は今日も仲良しです。


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