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第8話  7月23日、午前



『それで、どうしたのさ?』


 携帯の受話器から聞こえる声に答える。


「結局、聞けなかった……」


 そう言った私は、自分の部屋の床に座ってベッドに寄りかかりながら、携帯を片手に持ってうなだれる。

 夏休みになって4日目、今日は7月23日。夕方から、中学の同窓会がある。

 電話の相手は、夕貴。


『なーんだ、聞いちゃえばいいのにー』


 明るい口調でけらけら笑いながら言う夕貴に、私は唇を尖らせる。


「聞けないよ……だってなんて言うの?」


 私が情けない声で言うと。


『それはさ「どうして奈緒と別れたの? 私と付き合って!」ってー』


 私の口調を真似て言った夕貴の、はははっという笑い声が聞こえてくる。


「なに、その最後の付き合って! って? ぜんぜん関係ないし! ってか、もうそんなんじゃないし……」


 はぁー。

 ため息をつきながら、私は呆れて言う。


『へぇー、もう御堂のことは吹っ切れたんだー?』


 そう言って、興味津々で聞いて夕貴はまた笑う。

 自分でも不思議だけど――

 御堂君のことは気にはなる。でも“好き”とかそういう対象ではなくなってきてることに、うすうす気づいている自分がいたの。


「うん……吹っ切れそう、なんだと思う……」


 それは、カンナの存在のおかげだと思う。

 カンナの事を好きかって言われるとまだ“友達”の関係なんだけど、カンナが私に対して抱いてる好意が、態度が――私の御堂君に対する気持ちを和らげてくれている。

 私の中で、私と御堂君の時間は2年前のあの時で止まっているような気がするけど、それがカンナをきっかけにまた御堂君と話すようになって動きだしたんだ。

 ううん――動かさなきゃならないと思う。

 あの時の気持ちに、そろそろ決着をつけなきゃいけないんだ。

 でも――

 いざ御堂君と話すと、好きだった時の気持ちを思い出してしまってドキドキしちゃって、うまく話せないんだよね。

 あの日も――



  ※



「あのね……この間話してた同窓会なんだけど、今日、夕貴からメールが来て、7月23日にやることに決まったって」


 俯いたまま、御堂君の方を見ないで言うのが精一杯だった。


「そっか。行けるかどうかは、教室戻ってバイトのシフト見ないと分からないから、またあとでいい?」


 静かな口調の御堂君の声が頭上から聞こえて、それだけで胸がチリチリと焼けるように痛む。


「…………」


 しばらくの沈黙。


「御堂君!」


 私は顔をあげて、御堂君を見る。


「ん?」


 首をかしげながらこっちを見た御堂君は、長い足を僅かに開いて立っている。それだけで格好良い。


「あの、なお……」


 私がそこまで言った時、腕時計を見ながら御堂君がさえぎる。


「あっ、悪い。体育の佐藤に呼ばれてて、そろそろ行かないと……」

「佐藤先生に? ……そっか、ごめん、じゃあ、またあとでね」


 じゃっと片手をあげて駆けていく御堂君。

 御堂君の後ろ姿が教官室のある体育館の中に消えていくのを見送ってから、はぁーっと大きなため息をつく。

 私、なにやってんだろ……


『奈緒にも連絡してくれる?』


 そんなこと言ったら、また御堂君が辛い顔するのは分かっているのに――

 どうして奈緒と別れたのか、聞きたいけど――聞けないよ。



 その後教室で、御堂君が同窓会に参加できるという返事をもらった。

 結局、奈緒の事は聞けなくて。奈緒には、私から直接メールをして同窓会のことを伝えた。奈緒にメールするのはすごく久しぶりだったから、要件のみのメールを送ると、夕方に参加するという返信が着た。



  ※



『今日、須藤さんも来るんだよね? 御堂も須藤さんも揃うなら、もう、直接須藤さんに聞いちゃえば~?』


 のんきな声で夕貴が言う。

 御堂君と話した日の事を回想していた私は、夕貴の言葉で現実に引き戻される。


「奈緒に……?」

『そう! 御堂のことふっきれたとか言ってるけど、譲子、ホントはまだ気になるんじゃないのー? もう、はっきり聞いてふっきっちゃいなよー』

「んー……」


 私は、曖昧にうなずく。

 聞きたいのか、聞きたくないのか、自分でもはっきりしないからだ。


『譲子が聞けないなら、私が聞いてあげるよー』


 踏ん切りがつかず口ごもる私に、夕貴がそんなことを言う。

 いくらなんでもそれはいきなりすぎて、無茶な話だから止めようと思ったら。


『あっ、ごめん。そろそろ切るねー。同窓会の準備で大輝ん家行かなきゃだからー』


 ツゥー、ツゥー。

 そう言って、一方的に夕貴は電話を切ってしまって、受話器の向こうから無機質な音が響く。

 私はふぅーっとため息をついて、ぱたんっと閉じた携帯をしばらく見つめる。

 夕貴はああ言っていたけど、まさか夕貴から聞くってことはないよね――

 悩んでも仕方ないと投げやりな気持ちになり、携帯を机の上に置いて出かける準備をすることにした。




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