表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここからはじまる物語 【改訂版】  作者: 滝沢美月
第1章 はじまりのモーメント
4/48

第4話  2つの気持ち



 学校までの道のり、カンナは楽しそうに顔をほころばせ、話しかけてくる。


「昨日はずっと部活でさー」


 カンナが御堂君のことを気にしていた様なのは駅に着くまでで、その後は週末の出来事を話してくれた。


「休みの日も練習なんて、えらいね」

「もうすぐでっかい大会があるんだ! なのに明日から試験前で部活停止でしょ。休みの日に練習しても時間が足りないくらいだよ」

「へー、真面目にテニスやってるんだね」


 真剣なカンナがすこし可愛くて笑ってしまった。


「まあね。部活だろうとやるからには勝ちたいしさ!」


 力強く言うカンナの表情はキラキラして眩しい。

 すごく前向きなんだな――そんなカンナがなんだか羨ましく感じる。

 

「中学の時もテニス部だったの?」

「いや、中学ん時はサッカー」


 普通、中学高校って同じ部活に所属している確率が高い、運動部ならなおさら。それが中学も高校も違う部活、しかも運動部だなんて――


「運動神経よさそうで、うらやましい……」


 つい、本音がこぼれてしまう。


「譲子さんだって、泳げるんだから運動神経いいでしょ?」


 そう聞かれると思った……

 私はふぅーっとため息をつく。


「泳ぎは得意な方だけど、球技は苦手。だから運動神経良いって言えないよ?」


 泳ぐことと走ることは得意だけど球技がド下手……だから体育はいつも5段階評価で平凡な3なのだ、悲しいことに。

 複雑な気持ちで言う私を気にした様子も無く、カンナが尋ねてくる。


「バタフライも泳げんの?」

「いちお、泳げるよ」

「じゃー、運動神経いいじゃん!」


 上から首をかしげながら覗き込んで、言い切る。

 なんだかカンナが言うと――そう思えるから不思議だな。



「譲子さんは、週末何してたの? 休みの日はなにしてるの?」


 話が戻って、私のことを聞かれる。


「休みの日は、やっぱり読書かな?」

「読書好きだね」


 そう言って、白い歯を見せて笑うカンナ。


「俺も本は好きだけど、漫画が多いかな」


 つられて笑う。


「私も漫画も好きだよ。本棚の半分くらいは漫画かな。日曜は、中学の同級生と会ってた」

「へぇ、仲いいんだね! よく会うの?」

「中3の時のクラスはね、男女関係なくみんな仲良かったよ。クラスの団結力もあったし」


 うんうんって頷きながら、私の話を聞いている。

 カンナは自分の事もたくさん話すけど、相手にも話を振ってちゃんと聞いているからすごいな。私は話すのは得意じゃないけど、ついついたくさん喋ってしまう。

 喋り上手で聞き上手、一緒に話してて楽しいんだもの、きっともてるんだろうなぁ。

 そんなことを考えながらカンナの方を見て話す。


「仲いい友達とは月1回くらいで会うかな? あっ、今度同窓会やろうって話になっててね、さっき御堂君に……、っ!」


 そこまで言って、はっと気づく。

 御堂君の話題は避けた方がよかったかなって思いカンナを見ると、さっきまで笑顔でこっちを見ていたのに、今は正面を見てて表情が伺えない。

 あまりに喋るのが楽しくて、余計なことを言ってしまった……かも。


「えっと、御堂君とは中学も一緒でね? って言っても、そこまで仲良くなくって……ええっと、さっき話したのもすごく久しぶりで……」


 私があたふたと説明していると。


「ぷっ」

「えっ?」


 噴き出したような気がしたけど気のせいかと振り仰ぐと、カンナはお腹を抱えて笑っている。


「あはは、ごめん。譲子さんが、真剣に悩んでるから……」


 笑いすぎて、瞳に涙が滲んでいるカンナはそれを手の甲で拭って、片目を瞑って悪戯っぽい顔でこっちを見る。

 ひっ、ひどい!

 カンナを怒らせちゃったかと思って、私、すごく焦ったのに……


「さっきはみんな仲良かったって言ったのに、今度はそこまで仲良くない――って矛盾してるし」


 言って、カンナは笑いを堪えようと手を口に当てたけど、結局耐えきれずに笑う。白い歯を見せながらにぃーっと笑って、こっちを見ている。

 私はうなだれてふぅーっとため息をつく。

 なんだか、誤魔化そうとしたことが馬鹿らしくなってしまった。


「だって本当」


 そう言った私は皮肉げだったかもしれない。


「中学の時は仲良かったけど今はぜんぜん話さないもの。ただのクラスメイトって感じかな」


 自分で言った言葉が胸に突き刺さり、心なしか気分が沈む。


「俺は――? 友達?」


 そんな私を、カンナが真剣な表情で覗きこんでくる。

 私は、そのあまりに真剣な表情にドキンっと胸が跳ねる。


「カンナは――友達、カンナがそう言ったでしょ?」


 欲しい答えを貰えたという様に、カンナはにこりと笑って。


「うん、クラスメイトより友達のが仲いいよね? ならいいや」


 そう言って腕を頭の後ろに組み、軽快な足取りでカンナは歩きだした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ