第4話 2つの気持ち
学校までの道のり、カンナは楽しそうに顔をほころばせ、話しかけてくる。
「昨日はずっと部活でさー」
カンナが御堂君のことを気にしていた様なのは駅に着くまでで、その後は週末の出来事を話してくれた。
「休みの日も練習なんて、えらいね」
「もうすぐでっかい大会があるんだ! なのに明日から試験前で部活停止でしょ。休みの日に練習しても時間が足りないくらいだよ」
「へー、真面目にテニスやってるんだね」
真剣なカンナがすこし可愛くて笑ってしまった。
「まあね。部活だろうとやるからには勝ちたいしさ!」
力強く言うカンナの表情はキラキラして眩しい。
すごく前向きなんだな――そんなカンナがなんだか羨ましく感じる。
「中学の時もテニス部だったの?」
「いや、中学ん時はサッカー」
普通、中学高校って同じ部活に所属している確率が高い、運動部ならなおさら。それが中学も高校も違う部活、しかも運動部だなんて――
「運動神経よさそうで、うらやましい……」
つい、本音がこぼれてしまう。
「譲子さんだって、泳げるんだから運動神経いいでしょ?」
そう聞かれると思った……
私はふぅーっとため息をつく。
「泳ぎは得意な方だけど、球技は苦手。だから運動神経良いって言えないよ?」
泳ぐことと走ることは得意だけど球技がド下手……だから体育はいつも5段階評価で平凡な3なのだ、悲しいことに。
複雑な気持ちで言う私を気にした様子も無く、カンナが尋ねてくる。
「バタフライも泳げんの?」
「いちお、泳げるよ」
「じゃー、運動神経いいじゃん!」
上から首をかしげながら覗き込んで、言い切る。
なんだかカンナが言うと――そう思えるから不思議だな。
「譲子さんは、週末何してたの? 休みの日はなにしてるの?」
話が戻って、私のことを聞かれる。
「休みの日は、やっぱり読書かな?」
「読書好きだね」
そう言って、白い歯を見せて笑うカンナ。
「俺も本は好きだけど、漫画が多いかな」
つられて笑う。
「私も漫画も好きだよ。本棚の半分くらいは漫画かな。日曜は、中学の同級生と会ってた」
「へぇ、仲いいんだね! よく会うの?」
「中3の時のクラスはね、男女関係なくみんな仲良かったよ。クラスの団結力もあったし」
うんうんって頷きながら、私の話を聞いている。
カンナは自分の事もたくさん話すけど、相手にも話を振ってちゃんと聞いているからすごいな。私は話すのは得意じゃないけど、ついついたくさん喋ってしまう。
喋り上手で聞き上手、一緒に話してて楽しいんだもの、きっともてるんだろうなぁ。
そんなことを考えながらカンナの方を見て話す。
「仲いい友達とは月1回くらいで会うかな? あっ、今度同窓会やろうって話になっててね、さっき御堂君に……、っ!」
そこまで言って、はっと気づく。
御堂君の話題は避けた方がよかったかなって思いカンナを見ると、さっきまで笑顔でこっちを見ていたのに、今は正面を見てて表情が伺えない。
あまりに喋るのが楽しくて、余計なことを言ってしまった……かも。
「えっと、御堂君とは中学も一緒でね? って言っても、そこまで仲良くなくって……ええっと、さっき話したのもすごく久しぶりで……」
私があたふたと説明していると。
「ぷっ」
「えっ?」
噴き出したような気がしたけど気のせいかと振り仰ぐと、カンナはお腹を抱えて笑っている。
「あはは、ごめん。譲子さんが、真剣に悩んでるから……」
笑いすぎて、瞳に涙が滲んでいるカンナはそれを手の甲で拭って、片目を瞑って悪戯っぽい顔でこっちを見る。
ひっ、ひどい!
カンナを怒らせちゃったかと思って、私、すごく焦ったのに……
「さっきはみんな仲良かったって言ったのに、今度はそこまで仲良くない――って矛盾してるし」
言って、カンナは笑いを堪えようと手を口に当てたけど、結局耐えきれずに笑う。白い歯を見せながらにぃーっと笑って、こっちを見ている。
私はうなだれてふぅーっとため息をつく。
なんだか、誤魔化そうとしたことが馬鹿らしくなってしまった。
「だって本当」
そう言った私は皮肉げだったかもしれない。
「中学の時は仲良かったけど今はぜんぜん話さないもの。ただのクラスメイトって感じかな」
自分で言った言葉が胸に突き刺さり、心なしか気分が沈む。
「俺は――? 友達?」
そんな私を、カンナが真剣な表情で覗きこんでくる。
私は、そのあまりに真剣な表情にドキンっと胸が跳ねる。
「カンナは――友達、カンナがそう言ったでしょ?」
欲しい答えを貰えたという様に、カンナはにこりと笑って。
「うん、クラスメイトより友達のが仲いいよね? ならいいや」
そう言って腕を頭の後ろに組み、軽快な足取りでカンナは歩きだした。