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ここからはじまる物語 【改訂版】  作者: 滝沢美月
第3章 蒼と碧のあいだ
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第22話  スカイブルー



 パラソルで出来た日陰の部分――御堂君から少し離れた場所に腰を下ろす。お尻だけをシートの上に乗せ足はサンダルを履いたままで、鞄から日焼け止めを取り出して塗り始める。

 水泳部の癖に今更、日焼けとか美白とか気にしているっていう訳じゃなくて、日に焼けて真っ黒になるんだったらまだましなんだよ……

 私の場合、日焼けすると肌が真っ赤になって引くのにすごい時間がかかる。その間、肌はひりひり痛いし、お風呂なんて入れたものじゃない。だから、念入りに日焼け止めを塗って日焼けしないようにしないと悲惨な目に合うのだ。

 顔は着替えの時に縫ったから、パーカーから出ている手の甲と首まわりを塗る。実はパーカーは日焼け防止のアイテムなんだよね。で、つい手の甲を塗り忘れがちになるんだけど、ここもしっかり塗ってないと焼けてしまって手の甲だけ真っ赤……なんていう最悪の事態になってしまう。

 手の甲を塗り終えて、パーカーのチャックを少し下げて首回りと鎖骨の辺りも塗る。

 あと足だな。

 そう思って、ビーチサンダルを脱いで足をシートの上に乗せて足の甲から上に向かって塗っていたんだけど、膝まで塗り終えてはっとする。

 御堂君の前で、足に日焼け止め塗るってどうなのかしら――

 あんまり上の方は塗らない方がいいかな?

 そんなことを考えて横目でちらっと御堂君に視線を向けると、御堂君は海の方に視線を向けていてほっと安堵の息を吐く。

 よし、見てないならささっと塗っちゃおう!

 私は慣れた手つきで日焼け止めクリームをチューブから取り出し手のひらで足に塗り広げる。


「そーいえば、御堂君ってバイトしてるって言ってたよね? なんのバイトしてるの?」


 日焼け止めを鞄に戻し、大判タオルを出して膝にかけながら聞く。


「ガソリンスタンド」

「へぇー、そうなんだ。大変?」

「ん、まぁ。今はもう慣れたけど」

「そこのバイト長いの?」

「高1の時から」

「えっ、1年の時からバイトしてるの? えらいね」


 驚いた声をあげた私にふっと視線を向け、涼しげな目元に笑いを含んでる。


「桜庭はバイトしてないの?」

「今まではしてなかったんだけど、夏休みの間だけ短期のバイト始めたんだ」

「なんのバイト?」


 今度は同じ質問を御堂君がしてくる。


「倉庫で商品の仕分け。同年代のバイトはほとんどいないけど、クーラー効いてるし快適だよ」


 笑いながら言うと、御堂君が僅かに口角を上げる。


「そこ、重要だな。スタンドは夏場は辛いよ」


 端正な顔にえくぼを作ってははっと笑う御堂君を見ると、胸がきゅーっとなる。

 なんだか中学生の頃に戻ったように普通に御堂君と話して、普通に笑って――こんな風に戻れるなんて思ってなかったから嬉しすぎる。

 やっぱいいな、御堂君。いつもは大人っぽくて無口なのに、本当はよく喋るし笑った顔もすごく格好良いんだよね。


「えへへ」


 嬉しすぎて可笑しな笑いを漏らした時、ふっと奈緒の言葉を思い出す。


『晃紘は譲子の前でだけ、たくさん話すしよく笑ってた』


 私だけが知っている御堂君の姿――


「夏休みの課題はもう終わった?」

「うん、ほとんど終わってるよ」


 笑顔で答える裏で、逸る気持ちに戸惑っていた。



 誤魔化すように視線を御堂君から足元に移した時に、シートのすぐ近くにカンナが立っているのを見つける。


「あっ、カンナ。どうしたの、1人? 忘れ物?」

「飲み物飲もうと思って」


 カンナは大周りにシートをまわって御堂君の横にあるアイスボックスを開けて中から冷えたペットボトルを取り出して、ごっきゅごっきゅっと音を鳴らして半分ほど一気に飲んでしまう。


「もう海入った? 冷たいのかな?」


 聞きながら、カンナの足元が濡れていないことに気づいて首をかしげる。


「あのさ……」


 カンナが口を開いた時。


「海、冷たくて気持ちよかったよ。譲も入っておいでよ」


 すでに海に入ってきたようで、体から水滴がしたたって涼しげな皆が戻ってきた。


「うん、ありがと」


 そう言って、何か言いかけていたカンナを見たんだっけど、カンナは河原君と話していて、さっき何を言おうとしていたのか聞けなかった。


「譲子、水泳部だもんね、早く泳ぎたいでしょ? 今度は私達が荷物番してるから行っておいで」

「あー、泳いだら喉乾いちゃった。私もちょっと休憩ー」


 そう言って、ペットボトルを持った沙世ちゃんが私の横のシートに座る。河原君と熊本君もそれぞれペットボトルを取り出して飲んでいる。

 皆休憩するみたいだしと思い、私は御堂君を海へ誘う。


「御堂君、海、行く?」

「ああ」


 皆の前では口数が急に少なくなる御堂君はそれだけ言うと立ち上がる。

 私も足にかけていた大判タオルを畳んで鞄にしまってから立って御堂君の近くに行き、一緒に海に歩き始める。

 その背後から、夕貴の声が聞こえて振り返る。


「カンナ君も海まだ入ってないんだから、一緒に行ってきなよ」

「えっ、でも悪いですよ」


 首を触りながら言うカンナを見て、困っているみたいだって分かる。


「いいから、いいから。荷物番にこんなに人数いらないし」


 夕貴に邪魔だというようにしっしと手で払われて、渋々立ち上がったカンナはまだ困ったように夕貴や河原君を見ているから。


「カンナも一緒に行こうよ」


 思わず言っていた。




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