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ここからはじまる物語 【改訂版】  作者: 滝沢美月
第3章 蒼と碧のあいだ
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第20話  3角関係

 


 白浜海岸のバス停を降りてから10分ほど歩いた場所に夕貴の叔父さんの別荘があった。真っ白な壁にオレンジ色の瓦屋根の別荘だなんてもったいないほど大きくて綺麗な建物で、呆然と見上げてしまう。


「叔父さんと叔母さんもう着いてるって言うから、さぁ、中に入って」


 私以外の人達も、大掃除が必要だって聞いていたからもっとぼろい建物を想像していたんだと思う。

 アプローチの階段を登り玄関の中に入ると、広々とした吹き抜けのリビング、その外に広がるバルコニーからは海が一望でき絶景だった。


「わぁーすごい……」

「みなさん、今日は遠いところからわざわざ来てくれてありがとう」


 パタパタとスリッパの音を響かせて30代くらいの小柄な女性がお盆に冷えた麦茶の入ったグラスを持ってリビングに入ってくる。グラスの中の氷が溶けてカランコロンと涼しげな音を響かせている。


「若い諸君、よく来てくれた! 我が別荘に歓迎するよ」


 吹き抜けのリビングにある階段から降りてきた40歳くらいの男性が快活な笑顔で言う。頭にカラフルなバンダナを巻き紺色のエプロンをつけている。


「叔父さん、お久しぶりです」

「ああ夕貴、久しぶりだね。しばらく見ない間に大きくなって」


 夕貴が叔父さんと抱き合い、叔父さんが夕貴の頭の上に掌を当てて身長を比べてにかっと笑ってから、周りに立つ私達に視線を向けて、顎に手を当てながら頷く仕草をする。


「夕貴の友達は女の子は可愛いし、男の子は格好良い子ばかりだね。今日はわざわざ別荘の掃除を手伝いに来てくれてありがとう」

「いいえ、こちらこそお招きありがとうございます」

「素敵な別荘ですね」

「いやいや、そうだろう。9月の頭に会社の社員たちとする慰安旅行に使おうと思ったんだが、海外出張から帰って来たばかりで数年間使っていなかったからほこりがすごい。しかし私一人じゃこの広さは掃除しきれんしどうしようかと思ってたところに夕貴が友達を連れて手伝いに来てくれると言って、すごい助かったよ」


 言って、叔父さんは叔母さんの肩を抱き、にこりと微笑む。

 横に立っていた夕貴がこそっと私と沙世ちゃんに聞こえるように耳打ちする。


「叔母さんね、年末に赤ちゃんが生まれるの」


 そう言ってちらっと叔母さんのお腹に視線を向ける夕貴。

 だからか。どうして一人なんだろう――その疑問は妊娠中の奥さんは重たい物を運んだりする大掃除なんてできないからなんだ。

 叔父さんは愛おしげに叔母さんと叔母さんのお腹に視線を向ける。


「私は掃除はあまり手伝えないけど、代わりにうんと美味しいご飯作るからね」


 ふふふっと笑った叔母さんは10代くらいに見える。なんだか可愛らしい人だな。


「女の子達は2階の部屋の掃除とベッドメイクと布団をお願いしよう。窓は拭き終わったから床掃除を頼むよ。男の子達は1階の窓拭き、リビングの掃除、バルコニーの掃除を頼むよ。私は風呂掃除をするからね」


 叔父さんは指示を出すと、腕まくりをしながら風呂場へと向かう。


「ダイニングは掃除し終わってるから、荷物はこっちに置いて頂戴」

「はーい」



「よしっ! それでは大掃除に取り掛かろう!」


 荷物をダイニングに運び、それぞれエプロンを身につけて準備が整うと、夕貴の号令と共に大掃除に取り掛かる。

 私と夕貴と沙世ちゃんは2階に上がる。


「私も小さい頃に数回来ただけだから、すごい久しぶりだよ」


 階段を上がりきると、リビングの吹き抜けを見下ろすようにコの字に廊下が伸び、それぞれ左右に扉が2つずつある。


「一番左が一番大きな部屋でその隣がトイレ、右は2つともベッドルーム」


 夕貴がまずは2階の部屋を案内してくれて、左の部屋から掃除することにする。右の2つの部屋はベッドが2つあるのに対して、左の部屋はカーペットの床、窓辺に棚が2つ置かれているだけで広々としている。


「この部屋は親戚で来た時に子供が遊ぶ部屋だったんだ。だから他の部屋みたいにベッドはなくて、布団が確か、そのクローゼットの中にあると思う」


 夕貴が説明してくれ、借りてきたはたきと掃除機と雑巾で隅から丁寧に掃除を始める。

 初めのうちは黙々と作業をしていたんだけど30分くらいした頃に、沙世ちゃんが大きなため息をついて床に座りこむ。


「あーダメ、私こういう地味な作業って苦手なんだよね」


 その言葉に私と夕貴は苦笑する。


「気持ちは分かる」

「私は好きだけどな、こういう単純作業」

「譲はそうだね。学校の掃除の時も一人黙々とやってるよね、マジ尊敬」


 肩を落として言った沙世ちゃんはよいしょっと立ち上がり、手に持ってるはたきを紐の部分を持って振り回す。


「でもぉ、明日は海に入れるんだから今日は我慢して掃除する」

「沙世ちゃん、えらい!」


 夕貴が口笛を吹きながら言う。


「でも、なんか話しながらじゃないと頑張れないよ~。なんか話そうよっ」


 沙世ちゃんが天井を仰ぎながら言って、棚の上部にはたきをかける。

 そういえば、と思い出しずっと気になっていたことを聞く。


「夕貴、どうして御堂君とカンナを誘ったこと黙ってたの?」


 まぁ、カンナのことは知ってたけどさ。

 私は沙世ちゃんが叩きをかけた部分を濡れ拭きと空拭きをしながら言う


「サプライズだよ!」


 サプライズ? いやがらせの間違いじゃなくて……?


「あれ、夕貴ちゃんはカンナ君と面識あるの?」

「あるよ~、前に一緒に遊園地に行ったから、譲子達と」

「ええー、そうなんだ。って、譲、カンナ君とはなんでもないとか言って、しっかりデートしてるんじゃない」


 前半は夕貴の、後半は私の顔を見て沙世ちゃんが言う。


「だから、デートじゃないんだってばぁ」


 カンナはデートって言ってたけど、実際は御堂君や夕貴達がついてきてデートっぽくはなかったし。


「それより、どうやってカンナに連絡したの? 連絡先知ってたの?」

「あー、遊園地行った時に教えてもらった、というか聞かれた」

「えっ?」

「『譲子さんと夕貴さんって仲良いんですね。また皆で一緒に出かけましょう』って言って。つまり私のアドレスが知りたかったんじゃなくて、御堂と譲子が二人で出かけるようなら教えて下さいってことでしょ」


 にやっと嫌な笑みを浮かべて掃除機をかける夕貴。

 なにそれ。どんだけ深読みなの……


「カンナはそんな子じゃないし、ってか」


 そう言った私の声に被さって、沙世ちゃんの興味津々の声が響く。


「なになに、それどういうこと!? 御堂君と譲が二人で出かける――って??」


 大好物を見つけた犬みたいに瞳を輝かせている沙世ちゃんと、実はねって言ってにたついている夕貴をうんざりした顔で見つめる。

 夕貴は沙世ちゃんに近づいて耳元で話すんだけど、もちろん私にもその声は聞こえてて。


「実はね、御堂も譲子にラブなんだよこれが」

「つまり、3角関係ってことぉー!?」


 どこからどう、つまりに繋がるのか理解できなくて私は眉根を寄せて、余計な事を話した夕貴を睨む。


「譲子、人生初のモテ期ってことかしら。モテ期って人生で3回くるらしいよ」


 そんなどうでもいいマメ知識を披露して、鼻高々な夕貴。


「えー、あんなイケメン2人に好かれて、羨ましいなぁ」

「もぉ、2人とも! 勝手に人の話題で盛り上がらないでよね。カンナとも御堂君とも、なんでもないんだからっ!」

「まったまたぁ~、隠さなくてもいいんだから」


 にやにやとからかうように言った夕貴と違い、沙世ちゃんがぽつんと漏らす。


「いいなぁ……私も頑張ろうかな……」

「えっ?」

「えっ!?」


 ぼーっと焦点の定まらない目で宙を眺める沙世ちゃんを、私と夕貴が振り返って見つめた。




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