第18話 初体験
「あっ、これ良さそう」
1人で呟いて、バイト情報誌に赤まるをつける。
『日払い、倉庫内仕分作業、高校生可、時給900円、船橋競馬場より送迎有』
近いし、日払いで条件いいし、ここがいいかな。
よっし、電話しよう!
1週間がっちり働けばなんとかなるかな。まぁ、ダメだったらお母さんに立て替えてもらおうかな。
あっ……
思い立って雑誌をベッドの横に広げたまま置き、リビングに降りて行く。
「お母さん」
台所で夕飯の準備をしているお母さんに話しかける。
「なあに?」
「あのね……、2泊3日で夕貴達と旅行に行ってもいいかな?」
「旅行?」
野菜を刻んでいるお母さんは振り向かずに問い返す。
「うっうん。夕貴のおじさんが別荘を貸してくれるんだって」
「女の子だけで行くの? そのおじさんも一緒なの?」
「えっと、女子だけだよ……おじさんとおばさんが一緒って言ってたと思う」
本当は男子も一緒だし中野達が一緒だからどこからかばれてしまうのではないかって言うのも少しは考えたけど、なんとなく、男の子も一緒とは言えなくて。
「ふーん……」
緊張して声が震えていたのがばれていたかもしれない。
何か含んだようにお母さんが言う。
「あとね、別荘の近くに海があるんだって。だから水着買いたいんだけど」
「ん? 新しい競泳水着買うの?」
お母さんが普通に“競泳水着”を買うことを前提に聞き返すから、私は苦笑しながら答える。
「遊泳用……」
「あら、譲子がめずらしいわね。まぁ、もう高校生なんだしそういう水着を持ってもいい年頃ね」
くすっと笑みを漏らしてお母さんが振り返り手をタオルで拭ってから、棚の横にかけている鞄からお財布を取り出す。
「水着いくらなの? 1万で足りる? 足りない分はお小遣いでなんとかなさい」
1万円札を差し出すお母さんを見返す。
「水着、自分で買おうと思うの。だからバイトしたいんだけど……いいかな?」
そう言った私を、じぃーっとお母さんの瞳が見つめる。
さっき嘘をついたのが後ろめたくて、それを見透かされそうで、冷やりと背中に冷たい汗が伝う。
「いい社会勉強になるからいいわよ。正し、きちんとしたバイトにしなさい、怪しいのはダメよ。それから、これは海に行く時の旅費に使いなさい。バイト始めたからってすぐにはお給料もらえないでしょ?」
お母さんの優しさが胸に沁みて、なんだか泣きそうになる。
「ありがと」
お金を受け取った私を見てくすりと微笑み、台所に戻っていくお母さん。
「……あっ、それからお父さんにも海に行くのことは自分から話しておくのよ。ちゃんと、女の子だけって言うのよ、心配するから」
そう言ってふふっと笑った声が聞こえて、ドキリとする。
わー……お母さんには嘘ついてたのばれてるっ!?
私は何も言えずにばたばたっと足音を響かせて2階に駆けのぼり自室に飛び込む。
おっ……お母さん、恐るべしっ。
動悸の激しい胸を押さえて、扉に背中をつけたまま座りこむ。
それからバイト先に電話、翌日の部活後に面接に行ってその場ですぐに採用されてその日から働くことになった。
平日は部活が終わってから、土日はまる1日バイトを入れて1週間がむしゃらに働いた。
仕事内容は、ネット通販の会社の倉庫での仕分け作業。注文のあった商品を取ってきて袋や箱に詰める。単純作業だけど商品がたくさんあるから倉庫の中で迷子になりかけたりもしたけど、職場の人が親切に教えてくれて、私の初めてのバイトは有意義なものになった。