閑話 電話
同窓会翌日、7月24日の話です。
ふぁ……
自室のベッドのふちに腰かけた私は、大きなあくびが出て手でおさえる。格好はパジャマ、寝ぐせで髪の毛はぼさぼさだと思う。目もしょぼしょぼして焦点が合わない。
久しぶりに中野の家で徹夜して、朝の6時過ぎに家に帰ってきてシャワーを浴びて寝て、さっき起きたとこ。
いまはもうお昼前か。4時間くらいしか寝てないけど、部屋が明るくて寝ていられなくなって。
うぅーんっと両手を思いっきり上にのばして伸びをして、体を起こす。
今日も出かける予定だったけど、その予定は延期になって、さてどうしようかと考えていると……
ピロロン。
携帯が鳴って、見ると奈緒からの電話だった。
ピロロン、ピロロン。
鳴り続ける電話。
昨日、同窓会で会った奈緒とは、たぬき亭で話している途中に私が駆けだして行ってそのままだった……
電話に出るのに戸惑うけれど、出ないわけにはいかなくて、通話ボタンを押して携帯を耳にあてる。
「はい」
当たり前だけど、電話に出ると受話器の向こうから奈緒の声が聞こえる。
『譲子?』
「うん。どうしたの奈緒?」
昨日のことで話があるんだとは分かっていたけど、そう聞いてしまう。
『メールで話したいことがあるって言ってたでしょ。昨日はあんなことになっちゃって……ちゃんと話せなかったから』
……しばらくの沈黙。
『晃紘から聞いたかな、私達のこと』
「うん……聞いたよ」
私達の事――って言われると胸がツキンと痛んだけど、昨日と違って、ここから逃げ出したいような辛い痛みではなかった。
『私が――譲子も晃紘のことが好きだって気づいたのは、晃紘と付き合い始めて少したった頃だったの。晃紘が譲子の事好きだって気づいたのもその時』
私は、奈緒が話すのを静かに聞き。
『中学3年の時、譲子とも晃紘とも初めて同じクラスになって。席が近かった譲子とはすぐに仲良くなったよね。初めて晃紘を見た時、かっこいいなって思った。一目ぼれだったのよ。
よく、譲子と晃紘が一緒に話してて、それで私も晃紘と話すようになって話しても楽しい人なんだなって思ったから、告白して付き合い始めたんだけど――晃紘は、私と2人の時はぜんぜん話さないしほとんど笑ったりしないの』
奈緒が自虐的な苦笑を漏らす。
『あれっ? って思った。譲子といる時と違うな、もしかして……って。今考えたらばかみたいよね。譲子も晃紘もお互い好きだったからあんなに仲良かったのに、気付かないなんて。晃紘は譲子の前でだけ、たくさん話すしよく笑ってた。
それで私――譲子に晃紘を取られたくなくて、晃紘に譲子と話さないでってお願いしたの。晃紘は優しいから分かったって言ってくれたけど、それからずっと寂しそうにしてた……あんなこと言って、本当に後悔してる。
もっと早く別れてれば、譲子と晃紘がこんなにすれ違うこともなかったのに。私のせいで2人の仲が壊れたんだって、ずっと責任感じてた。でも、なかなか言い出せなくて……』
そこで言葉を切った奈緒の声が震えて嗚咽が電話越しに聞こえる。
『ごめんね』
奈緒が震える声で最後にそう言った。
だから――
「ううん。私もあの時ちゃんと自分の気持ちを言えなかったから。ちゃんと伝えていたら違ったかもしれない……けど」
奈緒がすべて悪いとは思っていなかったから。
「もういいの。だって2年も前の事だしね」
私は笑って、そう言うことが出来た。
閑話を3つ挟んで第3章です。