第15話 のびのびになった・・・デート
「今日、いいお天気になってよかったね!」
遊園地について、私はにこりと笑って言う。
私の今日の格好は、淡い緑系のチェックや花柄の生地が縫い合わされた胸元がゴムの切り返しになっている膝より少し短め丈で肩ひもタイプのチェニックに、7分丈の黒のレギンスを合わせ、上にレース編みのボレロを羽織っている。手に持っているのは大きめの籠バックで、周りはレースで縁取りされピンクの大きな花のコサージュが1つ付いている。
髪の毛もいつもは下ろしているだけだけど、今日は編み込んでサイドで結んでいる。
いつもより、念入りに支度してきたつもりだ。
「うん、まぁ、そうなんだけ……」
それなのにカンナは不機嫌そうな声で言いそこで言葉を切って、眉間をぎゅっと寄せ後ろを振り向く。
「なんで、こいつがいるんだ?」
私とカンナが並んで歩く後ろ――そこには御堂君、それから中野と夕貴が立っていた。
今日、7月31日は私とカンナののびのびになっていたデートの日。先週の日曜日に出かける約束だったけど、前の日に2人とも友達の家に泊ったからをデートの日を1週間延期した。
少し遠出して電車で1時間半、県外の遊園地に来ているのだけど――なぜか御堂君と中野と夕貴が一緒なんだよね。
※
あの日――
中野の家でゲームして皆で騒いで徹夜して。
夕貴と中野は最後までゲームして起きてて私もそれを見ていたからずっと起きていたんだけど、他の男子は部屋でごろごろと寝ちゃって御堂君も壁に寄りかかって俯いていたから寝てるんだと思っていた。
話したいことはあったけど寝てるならまた今度でいいかな、そう思って静かに夕貴と中野に帰ることを告げて部屋を出たら、御堂君が追いかけてきて。
「俺も帰るから、途中まで一緒に行こう」
そう言ったのは、私に気を使わせない為だったのかもしれない。
私と御堂君は朝の静かな道をしばらく黙って歩き、私は覚悟を決めて気持ちを伝えることにした。
「あのね……私も中学の時ずっと御堂君のことが好きだったよ。でも、今は――って聞かれると、正直わからないの」
私は自分の曖昧さが恥ずかしくて、無意識に口を触る。
「だから、また友達から仲良くしてもらえると嬉しいな」
そんなことはずうずうしいお願いだとは分かっている。だけどそれが私の気持ちだったから。
横に並んで歩いている私と御堂君はお互いまっすぐと前に視線向けていたから、私の我が儘に御堂君がどんな表情をしていたのかは分からなかったけど。
「桜庭がそう言うなら、それでいいよ」
そう言った御堂君の声は優しくて、胸に沁み入る。
それから――
「友達からよろしく」
くるっと私の方を見て御堂君が手を差し出してきたから――私は躊躇わずにその手を握る。すると。
ぐい――っと、急に御堂君の側に引き寄せられてバランスを崩した私を御堂君の胸が受け止めて、背中に腕が回される。
あまりの近さに、ドキンっドキンって心臓が飛び出しそうな程、鼓動が速くなる。
「また俺の事を好きだって思わせてみせるよ」
ふわりと首を折って、私の耳元で囁いた御堂君の声は魅惑的で私が突然の出来事にまごついて見上げると、うっとりするような甘い顔で笑う。
そんな顔でそんなことを言うんだもの。私は自分でも分かるくらいかぁーっと顔が赤くなるのを感じて、どうしていいか分からなくなってしまった。
※
「俺は、桜庭が遊園地に行くっていうから、一緒に来ただけだけど?」
しれっと悪びれずに御堂君がカンナに言う。
「なっ……今日は俺と譲子さんのデートなんだけど! ついてくるな!」
カンナが眉を吊り上げて御堂君に食ってかかる。そんな2人を中野がまあまあと言って宥めている。
私といる時のカンナは大人っぽく感じるけど、御堂君といるとカンナが1つ年下って実感するっていうか、御堂君が大人っぽいっていうか――そんなことを考えて、私は苦笑する。
「ね、御堂君はいいとして、なんで夕貴たちが来てるの?」
カンナ達が歩く後ろで、私の横をゆったりとした歩調で歩く夕貴に聞く。
遊園地に行くことを御堂君が知っているのはこの間会った時に、流れでその話題になったからなんだけど、なんで夕貴と中野が知っているの?
――っていうか、なんで付いてきたの?
私が不思議そうに首をかしげていると。
「おもしろそうだったから!」
夕貴がにやっと笑って言う。
「えっ、そんな理由……?」
呆気にとられている私を置いて、夕貴は前にいる中野達のところまで駆けていく。
「最初は絶叫系でしょ~」
そう言って中野の腕を掴みアトラクションに向かってずんずん歩き出すから、私は慌ててみんなの後を追いかけた。
なんだかんだで、5人仲良く遊園地を満喫して、やっぱりカンナはすぐに誰とでも仲良くなれちゃうんだなってしみじみ思った。
一通りアトラクションに乗ってから、夕貴と中野はお土産を見ると言って売店に行ってしまい、私はベンチに座って待っていると。
はぁーっと大きなため息をついて、カンナが右隣に腰掛ける。
「疲れた? ごめんね。カンナは2人で出かけたいって言ってたのに、なんかみんなついてきちゃって……」
膝の上に乗せた籠バックに視線を落としながら、もごもごと言い訳する。
「御堂さんのこと――譲子さんが誘ったわけじゃ、ないよね?」
カンナがこっちをじぃーっと見つめるから、その視線に見入ってしまう。
「違うよ……」
息が止まりそうなほど綺麗なカンナの瞳にまっすぐ見つめられて、目がそらせなかった。
カンナが体を私の方に向ける。
ぎゅっ――
大きな右手がバックを掴む私の手を上から包みこむように掴み、左手で額に落ちた髪を耳に駆けてくれる。
それからゆっくりと唇を開き、何か言おうとしたの。
でも、その瞬間。
今度は左側からぐいっと腕を引かれてびっくりして仰ぎ見ると、目の前に端正で彫の深い御堂君の顔。
きゃっ、美形のドアップは迫力だわ。
「桜庭、はい」
ピンク色のソフトクリームを私の左手に持たせる御堂君。
「ストロベリー、好きだったろ」
そう言った声はなんとも艶っぽくてドギマギしてしまう。
「あっ、ありがと」
お礼を言って受け取ると。
「どういたしまして」
御堂君はうっとりするような甘い顔で笑う。吹いた風にさらさらの黒髪が揺れ、太陽の光をきらきらと反射して眩しい。
うぅ……
御堂君ってこんなによく笑う人だったかしら……
ステキすぎて、胸がドキドキしてくるよぉ。
私は自分の心臓の音が聞こえてしまわないか心配しながら、誤魔化すようにソフトクリームにかじりついた。