第14話 それぞれのキモチ
「それは一緒だったよ? だって同窓会なんだから」
ぽかん――としてしまったの。
カンナがあまりにも怖い顔で、あまりにも普通の事を聞いてくるから、私はなんでそんなことを聞かれたのか分からなくて首をかしげる。
「だけどメールで……っ」
その続きを言おうとして開いた口に手を当て、カンナは私から視線をそらして俯く。その直前、一瞬御堂君を見たことに気づいて、私はカンナから御堂君に視線を移す。
御堂君はカンナをまっすぐ見つめ、それからゆっくりとフェンスからつけていた背中を離し、歩きながら言う。
「俺がいない方がいいなら。先に部屋に戻ってる、ちゃんと戻ってこいよ」
前半はカンナに、後半は私に向かって御堂君が言い、中野の家に歩いて行ってしまった。
しばらくの沈黙の後。
「あぁ――っ」
急に大きな声をだしたカンナがその場にしゃがみこむみ、頭をわしゃわしゃっと掻きむしって、大きなため息をつく。
私は訳が分からなくておろおろとすることしかできない。
カンナになんて声をかけたらいいのかも分からなくて、でも、落ち込んでいる様子のカンナを放っておけなくて、タイヤ止めから腰を浮かせてカンナのすぐ側にしゃがみ顔を覗き込む。
「……なんで、あんなメール送ったんだよ」
ぽつんとカンナが掠れた声で言う。顔を隠したまま、右手だけを動かして私の服の裾をちょんっと引っ張りながら。
「えっ、メール……?」
首をかしげて手に持っていた携帯に視線を向け、あっと思い出す。カンナに書きかけのメールを間違えて送っちゃっていたことを――
私はあわてて携帯を開いて送信ボックスの一番上にあるカンナへ送ったメールを確認すると。
『To:菊池 カンナ
subject:了解!
本文:10時ね。
そう、同窓会。いま御堂君に会って』
会って――の書きかけでメールが送られていた。
カンナはこのメールを見て、私と御堂君が同窓会以外でも会っている――って勘違いしたの?
ぷっ――
「あははっ」
私は思わず声を上げて笑っちゃった。
だって、みんなみんな、勘違いだらけなんだもん。世の中、勘違いで成り立っているのかしら。
笑いすぎで涙目になっている私を、今度はカンナがぽかんと見つめている。
一通り笑いが収まってから手の甲で涙をぬぐい、苦笑する。
「ごめん……なんかおかしくなっちゃって」
申し訳なさそうに眉根を下げた私を、カンナがじーっと見ている。
「えっとね、メールは書きかけで間違えて送っちゃってて。同窓会の前に買い物でもしようと思って少し早く行ったら偶然御堂君に会ってね、同窓会の準備の手伝いに行くっていうから一緒にお店に行っただけなの」
言いながら首を傾げて、カンナの表情を伺う。
「今も、同窓会の後に中野――っていうのも中学の同級生なんだけど、中野の家でゲームするって来てて、家に連絡するために外に出てただけで」
カンナは私が話すのを静かに聞いている。
それから――はぁーっとため息をついて、膝の前で抱えていた両腕を前に垂らして。
「そっか」
って素っ気ない声でそれだけ言うの。
「心配した?」
私が笑って聞くと、カンナが苦笑して首を触る。
「うん……譲子さんとあいつが付き合っちゃうかと思った」
澄んだ瞳の中に甘いきらめきがあって、うっとりするような艶っぽい顔で見つめられて――
きゅんっ、と胸が痛む。
私はその時感じた胸の痛みに、カンナに気付かれないようにははっと乾いた笑いを出す。
それからカンナと少しだけ話す。カンナも今日は昼過ぎから友達と会っていて、そのまま友達の家――高校の友達の家がこの近くらしい――に行くことになって、その途中に私を見かけて思わず声をかけたということ。
「そろそろ行かないと、友達、待たせてるから」
そう言ってカンナが立ち、私も立ちあがる。
「明日、どうしよっか?」
「えっ、明日……?」
私がきょとんとして聞き返すと。
「デート!」
頬を膨らませているカンナを私が目を丸くして見つめると、ニヤッと悪戯っ子のような笑みを浮かべ。
「約束したでしょ?」
そう言って小首を傾げて、私の顔を覗きこんでくる。
あっ、そっか。カンナと明日一緒に出かける約束していたんだった。
「俺も譲子さんも友達の家に泊まるなら、明日のデートは来週に延期しようか? 俺はそのまま朝合流しても平気だけど、譲子さんは疲れちゃわないかな?」
そう言って私の事を心配してくれるカンナの優しさが伝わって、胸がほかほかとする。
「うーんっと……朝には家に一度帰ってくるようにお母さんに言われてるから、朝そのまま合流は無理かな」
「じゃ、やっぱ来週にしようか? 俺は予定大丈夫だけど、譲子さんはどう?」
「平気だよ」
その時、カンナの携帯が鳴る。カンナは携帯を鞄から出して、画面を眉根を寄せて見る。
「じゃ、詳しいことはメールで。そろそろ行かないと。またメールするから」
そう言って手を振ったカンナは、携帯を耳にあて。
「今から行く」
友達からの電話に答えて、もう一度振り返って私に手を振ると駆けて行ってしまった。
私は手を振り返して、カンナの後ろ姿が見えなくなってから中野の家へと戻る。
部屋に戻ると、男子達はゲームに白熱していて、その様子を見て夕貴はお腹を抱えて笑っている。私が戻ってきた事に気づいた夕貴が隣に座り、耳打ちで。
「御堂も外に行ってたみたいだけど、なに話したの?」
そう言って興味津々に瞳を輝かせてきたけど、同じ部屋の中に御堂君がいることに気を使ってくれたのか、曖昧に答えた私に対してしつこく追及してくることはなかった。
夕貴にはいっぱい心配かけて相談にも乗ってもらったけど、御堂君本人に返事をしていないのに他の人にべらべら話すのはどうかと思って今度ちゃんと話と言ったら、夕貴がめずらしく真面目な顔をして頷くから驚いてしまった。
そう――ちゃんと御堂君に返事をしないと。