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第11話  ついにはじまった同窓会



 ざわざわ――

 たぬき亭の店内は、大勢の人でにぎわっている。

 同窓会はなんと全員集まることができて久しぶりに会う友達同士、あちこちで話が盛り上がっている。



「譲子!」


 飲み物のお代わりをしようと思って厨房に近づいた私に、夕貴と中野が近寄り声をかけてきた。


「準備、手伝ってくれてサンキューな」


 中野が隣の夕貴の肩を組んで言う。


「もう、大輝が手伝いに声かけたヤツらぜんぜんつかまんなくってさー、準備間に合わなかったらどうしようかと思ったよー」


 夕貴が苦笑して中野のお腹をボカッとグーでなぐり、中野がうぐっと苦しそうにお腹を押さえる。


「ううん、中野はお店貸してくれたり色々準備してくれたんだもん。私で役に立ってよかったよ」


 そう言った私に、夕貴と中野がニヤニヤと顔を見合わせぐっと詰め寄る。


「でもまっさか――御堂と一緒にくるとはねぇ~」


 夕貴の頬は完全に緩んでいてからかう気満々なのが分かって、私は一歩後ずさる。


「それは、偶然会っただけで……」


 なんか、ヤな感じだな……

 また一歩後ずさり、逃げ道を確保しようと後ろを振り返った時、夕貴が私の腕を掴んで厨房の中に引っ張って行き、その後を中野が続く。


「ちょっ……夕貴っ?」


 厨房の奥の壁に追い詰められ、その前に夕貴と中野が立つ。夕貴がドアップで顔を近づけてきて。


「で、聞いたの? 言ったの?」


 わっ。

 顔に唾がかかってるんだけどっ。

 私は夕貴の口元に両手をあてて少し距離を取るように押す。


「な、なんの事?」


 目をあわせず横を向いてとぼけてみる。


「だーかーら、須藤さんとの事! 御堂に聞いたの?」


 わわっ。

 夕貴があまりに大きな声を出すものだから、私は慌てて夕貴の口をふさぐ。中野も慌てた様子で、夕貴の肩を揺さぶり。


「夕貴、声デケーよっ」


 口に人差し指をあてて、しぃーって言ったら……

 ボカッ。

 今度は中野の頭を夕貴が殴った。


「いってーなぁ……」


 中野は頭を押さえながら、涙目になって抗議する。


「声がでかいのは、アンタよ!」


 負けずに、夕貴が眉を吊り上げて言い返す。

 この2人、似ているなー。ってか、2人とも声大きいよ。

 他人事のようにそんなことを考えて、ため息をついていると。

 ギョロッ――4つの目が同時にこっちを向く。

 わわっ。

 迫力っ――!


「で、聞いたの? 言ったの?」


 夕貴がさっきとまったく同じことを言ったけど、もう突っ込む気力も失せて肩を落として言う。


「何も。聞いてないし、言ってない」


 言ってない(・・・・・)はたぶん――“好き”ってことをだと判断して、とりあえず答えておく。


「なんでー、2人っきりだったんでしょー? チャンスだったんじゃないのー?」

「そーだって。晃紘は、譲ちゃんのこと好きだと思うよー」


 中野が顔を2本の指で掻いて、うーんと視線を天井に巡らせる。

 夕貴と中野と私と御堂君は3年間ずっと同じクラス。夕貴と中野は幼馴染で、中野と御堂君は同じ野球部だったから仲がいい。

 私が御堂君を好きだということは誰にも言ったことがないけれど――この二人には、ずっと前からばれていたのかもしれない。


「それは、違うと思うけどなぁ……」


 私は小さな声で、中野の言葉を否定する。

 だって、もしもよ――


「もしも、御堂君が私の事を好きだったなら、奈緒と付き合ったりしないんじゃないかな」


 そう言うと。


「んー、そうかな? そうとは限んないんじゃない?」


 って、夕貴がめずらしく真面目な顔つきで言う。

 私にはよく理解できないけど――好きな人がいても、他の人と付き合えるのかな?

 御堂君はそんないい加減な人じゃないと思うけど――


「じゃあさ、晃宏に聞けないなら須藤に聞いてみれば?」


 そう言った中野の言葉で、奈緒からメールが着てて返信をするのをすっかり忘れていたことに気づく。


「あっ、奈緒……」


 奈緒に返信してないこと謝らないと――そう思って厨房を出て、店内に視線を巡らせて奈緒を探した。



 店の隅の方で奈緒の後ろ姿を見つけて、声をかけようと傍まで近づいた時。

 奈緒の近くを御堂君が通りかかって、奈緒が呼びとめた――


「晃紘!」


 御堂君が奈緒の方を振り向き、奈緒は可愛らしい笑みを浮かべた。

 そんな2人の姿を見た瞬間。

 ツキンっ――胸が張り裂けそうに痛んで、思わず胸に手を当てて、細く深呼吸をする。

 声をかけるタイミングを失って2人のすぐ側に呆然と立ち尽くした私と奈緒の視線がぶつかる。


「譲子?」


 奈緒はぱっと顔をほころばせ、私の側に駆けよる。

 私は金縛りにあったように身動きが取れなくて、奈緒が目の前に来た時、ぴくりと肩を震わせた。


「あっ、奈緒……ひさしぶり」

「久しぶり! 譲子、元気だった?」


 そう言って奈緒が私の両手を掴んで握りしめる。


「うん。あの……メールの返信できなくてごめんね。同窓会の準備手伝ってて、返信するの忘れてて――」


 握られた手の感覚がない――

 視界がぐにゃりと歪んで頭痛がする――

 私は、奈緒の瞳を見れなくて、視線を斜め下に落とす。


「ううん、いいのよ、気にしないで。高校はどう? あっ、晃紘と同じ高校だったよね?」


 言って奈緒は御堂君を振り返る。

 ちらっと視線を上げると、奈緒の後ろに立っている御堂君は眉間に皺を寄せて。


「ああ、今は同じクラスだよ」


 って。


「そうなんだ。じゃあ――もう言った?」


 奈緒が少し笑って御堂君を見つめ、御堂君はただ黙ったまま首を横に振る。

 2人が私には分からないことを話していて、また胸が苦しくなってきて、目をぎゅっと瞑る。

 できれば奈緒に握られている手も振りほどきたかったけど、それはさすがに出来なくて――

 じりじりと痛む胸に眉根を寄せて、背筋がさぁーっと冷たくなる。

 それでも、そんな様子を悟られてはいけないと思って、精一杯虚勢を張って、笑顔で顔を上げる。


「なに、なんの話?」


 頑張って、そう聞いたのに――


「あのね、私たち――別れたのよ」


 奈緒の切り出した言葉に、私は言葉に詰まり息をのみ込む。

 奈緒を見つめると握った私の手に視線を落としていて、その向こうに立っていた御堂君と目があったのだけど、御堂君は――私から目をそらしたのっ。


「それは……聞いたけど……」


 やっとの思いで私がそう言うと、ぱっと掴んでいた手を奈緒が離して、振り向いて御堂君の前に近づき、顔を覗き込むように見上げる。


「そうなんだ。言ったのね?」

「ああ」


 御堂君は、私の時とは違ってまっすぐに奈緒の目を見て頷く。

 そのことに胸がツキンと痛む。

 それから奈緒はこう言ったの――


「譲子――晃紘が本当に好きなのは、譲子なのよ」


 囁くような奈緒の声は、がやがやと楽しそうに騒いでいる周りの声にかき消されそうだったけど、私の耳にはハッキリと聞こえたの。



 御堂君が好きなのは――私?



 その瞬間。

 ダッと私は駆けだした。

 店の入り口で夕貴にぶつかって、どうしたのって聞かれたけど、何も言えずにそのまま外に飛び出した。




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