第10話 トラブルメーカー
『From:須藤 奈緒
subject:無題
本文:今日の同窓会が終わった後に話したいことがあるんだけど聞いてくれる?』
カンナのメールと一緒に届いていたもう1通のメールは――奈緒からだった。
なんだろう、聞いてほしいことって……
すっごく嫌な予感がするのは、私の気のせいかしら。
私は奈緒とは今でも友達だと思ってる。でも、奈緒の方はどうなんだろうか――
奈緒は御堂君と付き合い始めてから、私とはめったに遊ばなくなったし、卒業以来メールは時々しても会ったことは一度もない。
そもそも、御堂君に私と話さないで――って言ったのも、奈緒なんだよね。
奈緒はもしかしたら私の気持ちに気づいてて、だから私と御堂君を話させないようにさせたのかしら――
だとしたら、その奈緒が今さら私に何の話があるというのだろうか。
そんなことを悶々と考えながら歩いていたら、横断歩道の前で信号が変わるのを待っている人とぶつかってしまった。
ドンッ!
「あっ、ごめんなさい……」
相手の顔を見ずにペコペコ頭を下げて謝る私。そしたら。
「桜庭?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、御堂君が目の前に立っていた。
「えっ、あれ、御堂君?」
まさか、ぶつかったのが御堂君だったなんて思いもよらなくて、びっくりしてしばらく見つめていると。
「もしかして、桜庭も中野に呼び出されたのか?」
「えっ、中野?」
突然、中野の名前が出てきてびっくり。
なんで、中野……?
私がぽかんとして首をかしげていると。
「あれ、違った? 俺は、中野に同窓会の準備手伝えって呼び出されたんだけど……」
そう言って御堂君は眉間をもむように手で触る。
そーいえば、夕貴も同窓会の準備で午前中からたぬき亭に呼び出されたって、電話で言ってたな。
「あー、夕貴も呼び出されたって言ってたけど、もしかして、手伝い足りないのかな? 私も行った方がいいかな?」
特に目的があって早く来たわけでもないから、手伝いに行こうかな。
「あー、まあ、人手は多いに越したことはないと思うけど。大丈夫?」
何に対して大丈夫と聞かれているのか分からなくて首を傾げた私に、用事があって早く来たんじゃないのか、って御堂君が聞く。
「違うの、ぶらぶらしようと思って早く来ただけだから手伝うよ」
そう言って、青に変わった信号を二人で渡り、たぬき亭に向かって歩き出す。
しばらく歩いて、手に持ったままだった携帯に気づく。
あっ、カンナと奈緒に返信しないと――
「ちょっとメールしてもいい?」
いちお、一緒に歩いている御堂君に聞いてみる。
「ああ」
御堂君が無表情で頷く。
さて、なんと返信しよう……
携帯画面を顔の前に掲げて、うーん、うーんと悩む。
とりあえず、カンナから返信しよう。
そう思って、受信ボックスからカンナのメールを選んで“返信”を押す。
『To:菊池 カンナ
subject:了解!
本文:10時ね。
そう、同窓会。いま御堂君に会って一緒に向かってるとこだよ』
そこまで打って――
こんなこと書いちゃいけないなっと思い直して、二行目を消しにかかる。
ピッ、ピッ、ピッ……
考えながら両手で携帯を操作していたから歩くのが遅くなっちゃって、いつの間にか御堂君との差が開いている。数メートル先で立ち止まった御堂君が振り向いて私が来るのを待っている。
小走りで御堂君に追いつくと、御堂君が私の手元を見て。
「メールって、こないだ一緒だった里見高のやつ……?」
不意にそんなことを聞くから、私は声が裏返ってしまう。
「えっ……」
動揺して携帯のボタンを触っている手がぶれる。
ピッ。
「あっ!」
慌ててボタンを押したものだから、間違えて書きかけのメールを送信してしまった……
「大丈夫?」
顔を真っ青にして携帯を見つめる私に、御堂君が眉根をよせて聞いてくる。
「だい、じょうぶ……」
なのかな――っ!?
「里見高のやつにメール? もしかして――桜庭はそいつと付き合ってるの?」
まさか、御堂君にそんなこと聞かれると思ってなくて――びっくり。
「メールは……そうだけど、付き合ってはいないよ」
電車でカンナと御堂君が会った時、付き合っているって誤解されてたらどうしようって思ったけど、御堂君からこの話題に触れてくるなんて思いもしなかった。
もし誤解しているのなら、誤解を解きたい――そう思ったの。だからちゃんと言わなきゃ。
「里見高校の彼は、あっ、菊池君って言うんだけど。たまたま電車で話して友達になったんだよ」
ドキン、ドキンっ。
これでちゃんと、伝わってるかな――
「……そう、なんだ」
そう言った御堂君を見上げると、涼やかな眼差しで前を見ていて、感情が読みとれなかった。
それから御堂君はずっと無言で歩いてて、あっという間にたぬき亭に着いてしまう。
だから私も、すっかり忘れていたの――
カンナに間違って書きかけのメールを送ったことも。
奈緒から来たメールのことも。
すっかり――