第9話 同窓会、直前
お昼ごはんを食べ終わって部屋に戻ってくると、机の上の携帯がメールの受信を知らせてピカピカと光っていた。
携帯を開いてみると、カンナからのメールだった。
『From:菊池 カンナ
subject:明日
本文:南船橋駅に集合でいいかな?
映画もあるし買い物もできるし、何するかは行ってから決めよう。
実は、いま起きた……』
※
7月に入ってから、カンナとは放課後はそれぞれの部活が忙しくて、朝も大会前のカンナは朝練がいつもより早くから始まったりして、ほとんどすれ違っていた。
だから、遊ぶ約束はしたものの、具体的にどうするかとか決められないまま、時間が経っていった。
7月20日の終業式、その日は久しぶりにカンナに会う。
「おはよ、譲子さん」
久しぶりに見たカンナは、日焼けしてすこし黒くなっていた。
「おはよう、カンナ」
私はカンナが朝練で一緒に登校できない間は、久しぶりに読書を楽しんでいて、カンナが電車に乗り込んできたのを確認して、読んでいた本を閉じて鞄にしまう。
「明日から、夏休みだね」
そう言うと、カンナはうんざりした感じで肩をすぼめ。
「あー、もう夏休みとか関係なく部活だからなぁ……、さすがに今日は部活ないけど」
部活をすごく頑張っているカンナだけど、7月に入ってからは朝も放課後も土日もずっと練習だったから、すごい疲れているみたい。
一昨日までの3連休は夏の大会があって、それで一段落なのかと思ったら、まだ8月にも大会が残っているらしく、夏休み中もハードに部活があるんだって。
「夏休みも忙しそうだね」
私が疲れた様子のカンナを見て苦笑すると、カンナも苦笑して。
「うん、でも好きでやってるから。それに、夏休みも譲子さんに会えるって思えば頑張れるよ」
にこっと白い歯を見せて、うっとりするような甘い顔で笑う。笑うと出来る、左頬のえくぼはなんとも色っぽい。
うっ、ずるい……
そんな素敵な笑顔を見せられたら、好きになっちゃいそうだよ。
私はぱっとカンナから視線をそらして俯く。
「うん、そうだね。一緒に出かけるの楽しみだね」
もう胸がドキバクして、自分でもなに言っているのか分からなくて、そんなことを言ったら。
「じゃあ、夏休みはいっぱい一緒に遊ぼうね」
思わず振り仰いだら目の前にきらきらの笑顔があって、ドキドキする胸を誤魔化すように慌てて頷いて相槌を打つ。
「うん」
えっ……?
「やったーっ! 8月の後半は部活も休みが多いから、たくさん譲子さんに会えるね」
え――っ!?
満面の笑みで私を見つめるカンナの勢いにつられて、23日以外にも夏休みに会う約束をさせられてしまったのだった。
※
私は携帯を両手で持って、カチカチとメールを打ち始める。
『To:菊池 カンナ
subject:OK
本文:それでいいよ。何時に集合する?
私はもうお昼ごはん食べたよ。もう少ししたら出かけるんだ』
ベッドに座って垂らした足をブラブラさせながら、時間を確かめる。
今は13時。同窓会は17時からだけど、少し早めに行って買い物でもしようかな。
実は同窓会をやるたぬき亭があるのも、明日カンナと会う約束をした南船橋駅なの。
メールを打ち終わって携帯を鞄にしまうと、部屋着から私服に着替え、机の上に置いた鞄を持って家を出た。
学校に行く時に乗るのと同じ電車に乗って1駅、そこで乗り換えて1駅で南船橋駅に着く。
南船橋駅の周りは住宅街と競馬場なんだけど、駅前に大きなショッピングモールがあって、映画もあるし、お店もいろんなお店が揃っている。1日がかりでも回りきれないほど広くて、ウィンドゥショッピングするだけでも退屈しない。
たぬき亭はそのショッピングモールから少し歩いた所にあるお店で、中3のクラスメイトだった中野 大輝の両親がやっている洋食屋さんでコロッケがとっても美味しいの。
中学の卒業式の打ち上げも、そのたぬき亭でやっている。
本当は自転車でも、通学に使っている電車で学校とは反対方向に一駅行った船橋競馬場からでも歩いて南船橋駅にはいけるんだけど、ショッピングモールに行くには乗り換えて行く方が楽なんだよね。
とりあえず、お店をぶらぶらしようかな。
そう思って、南船橋駅に着いてからショッピングモールに向かって歩いていると、携帯が鳴ったことに気づく。
『From:菊池 カンナ
subject:10時でいいかな?
本文:そういえば、今日同窓会だったっけ? 楽しんできてねー
俺も今から友達と出かけるよ』
受信箱を開くと、カンナからのメール。それともう1通――