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異世界[恋愛]短編集

婚約破棄令嬢を実家に招いた結果

作者: 蒼田
掲載日:2026/06/21

 ――ワタクシの友人が婚約破棄された。


 まるで最近流行りの小説のワンシーンを見ているようですね。


 セミロングの金髪碧眼(へきがん)の美青年ロイ王子が(つや)のある青く短い髪の女性レナの肩に手をかけている。

 その正面には黒髪ロングの少女が膝をつき泣き崩れている。


 突然の出来事で周囲は騒然(そうぜん)としていた。



 今日は由緒(ゆいしょ)正しき学園六年生の卒業式。

 十八のワタクシ達は今日を最後に各家・各国へと帰ることになります。


 ――もう会うことがないかもしれない。


 本来ならば、そんな友人達と別れを()しむ最後の機会であるはずなのですが、


「エリカ! 真面目過ぎる君にはもううんざりだ!!! 婚約は破棄させてもらう! この国に君の居場所はない! 」


 という不愉快(ふゆかい)(きわ)まりない言葉で台無しになってしまいました。


 この国の王子はなんと馬鹿な事でしょう。

 学園には各国の貴族だけでなく王族も(かよ)っています。

 その軽薄(けいはく)さは学園の者なら知らぬ者がいない程でしたが、これほどまでとは。


 視線を若干下に向けるとそこには泣き崩れている友人の姿が。


 ――エリカ令嬢。


 (つね)に明るい学園の(はな)的存在。(きさき)教育のおかげか成績は優秀で教養は最高水準。

 そしてワタクシにとって、――。


「ロイ殿下。少しよろしくて? 」


 泣き声が反響する大広場。

 (えつ)(ひた)っていた碧眼(へきがん)がワタクシを見下ろした。

 不機嫌そうに「……なんだ? 」とワタクシに問いかける。


 特に威圧感を感じない姿。

 これがこの王国なのでしょう。


「殿下は先ほどエリカに「この国に居場所はない」とおっしゃいましたが……」

「それがどうした? 」


 一歩前へ出て問うと、ロイが半歩下がる。


「ならばその者を……我が国が頂いても? 」



 カタコトカタコト……。


「――この(たび)はありがとうございました。おかげで路頭(ろとう)に迷うことにならずにすみました」


 エリカは目を()らせてワタクシに言う。


 あれからエリカがロイ王子に婚約破棄をされたことが家に伝わり彼女の父は大激怒。

 実家と(えん)を切られ、待ち()せていたワタクシの馬車に乗った。


 あのような事があったのに、なんと気丈(きじょう)なこと。

 ワタクシならきっと、このような笑顔を作ることはできなかったでしょう。

 むしろあの場面で王子に切りかかっていたかも……。


「気にする事はありませんわ」


 変わりゆく景色に目を()らしながら彼女にいう。

 

 カタコトと車輪の音が部屋に響く。


 き、気まずいですわ。


 学園では(へだ)たりなくお話をしていましたが、実家を追放された彼女とワタクシは平民と王族。

 真面目な彼女のことを思うと、いつも通り話すわけにはいいけないと思っているのかもしれませんわ


「この後のことなのですが……私はなにをすればいいのでしょうか?」


 エリカは少し聞きづらそうにワタクシにきいた。


 そう言えばこの後のことはエリカに伝えていませんでしたわ。

 軽く咳払いしながら――。


「貴方にはあっていただきたい人物がいるのです」


 そう言いワタクシ達は馬車に揺られた。



「おおぉ! リーシャ! 会いたかったぞ! 」

「ワタクシもですわ! お父さま」


 王城の謁見(えっけん)の間で、全身に筋肉を感じていると奥から透き通った声が聞こえて来る。


「リーシャ! また一段と綺麗になったね」

「お兄さまもまた一段と精悍(せいかん)になられたようで」

「……僕としては「父上に似てきた」といってくれた方がうれしいのだけど」


 筋肉から顔を(のぞ)かせると、しょんぼりしながら自分の腕を確認していた。

 王族の(あかし)である赤く短い髪に漆黒(しっこく)の瞳。

 兄、リリオですわ。


 細身な兄からすればお父さまの筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)とした姿は理想的な男性像、のようです。


 ワタクシもそう思いますわ。


 しかしお兄さまにはお兄さまの良い所があるとおもいます。

 特に街に出ると、姿を誤魔化(ごまか)してもすぐにばれるような、顔立ちのよさ、とか。


「そろそろ、後ろのお嬢さんを紹介してもらってもいいかな? 」


 お父さまがワタクシを引き離し、聞いてきます。

 そうでしたわ。

 久しぶりの再開でエリカを紹介するのを忘れていましたわ。

 

 彼女は「もう平民だから」といい、王城に入ろうとしませんでした。

 しかしそこを強引に入れ、ここ謁見の間まで引き()って来たのです。


 彼女の方へ振り向くと、少しおどおどとした様子のエリカが。

 今まで母国で立ち入る機会などいくらでもあったでしょうに。

 順応(じゅんおう)が早いのは良い事かもしれませんが、いくら何でも早すぎます。

 それだと、ワタクシの計画に支障が出てしまいますわ……。


「ご紹介します。彼女は学園で苦楽(くらく)を共にした学友のエリカで――」

「おお。リーシャの学友か! 学園ではリーシャが世話になったようだ」

「リーシャに友達が……。時々話には聞いていたけど、てっきり見栄(みえ)だと……」


 お父さまがエリカに近付きながら「是非(ぜひ)学園でのリーシャの様子を聞かせてくれ」と言っていますわ。

 ワタクシのことを思ってくれているのはとても嬉しいのですが、エリカ相手に、は、恥ずかしいですわ。


 というかお兄さま。

 とても失礼なことを言っていませんこと?


 失礼なお兄さまに(あき)れながら、ワタクシは今日の本題(ほんだい)を切り出した。


「――そしてワタクシのお姉さまになるお方ですわ」



「……なるほど。そのようなことが」


 王族しか入れない談話(だんわ)室。

 ワタクシの正面に座るお父さまが、(あご)(さす)りながら考えていますわ。

 あれは(ひげ)があった頃の(くせ)

 ワタクシ的には顎鬚(あごひげ)があった方が(この)みだったのですけれど。


「し、しかしリーシャ。婚約(こんやく)とは性急(せいきゅう)すぎるのではないかい? 」

「……お兄さま。すでに()き遅れの(いき)に入っていることにご自覚は? 」

「う……ぐっ」


 全くお兄さまは……。

 せっかく正面に好みの女性(エリカ)を座らせているのに、ずっと目を()らしている。


 ワタクシの隣のエリカを()ると正面のお兄さまを見ている。しかし落ち着かないのかスカートを握ったり離している。

 そうでしょうとも。

 お兄さまは学園では見かけないレベルの美青年。

 例えつい先ほどまでロイの婚約者であったとしても、緊張するのも無理はありません。


「彼女の能力はもとより、お兄さまの(この)みと合わせてもこれ以上ない人材だとおもいますが? 」


 近隣諸国の王国の王族としては珍しく、代々恋愛結婚。

 その走りが初代さまが町娘(まちむすめ)と結婚したことが由来(ゆらい)とされていますわ。


 お兄さまは非常に異常にモテます。

 しかしながら引き寄せるのは気の強い、活発と言う言葉では言い(あらわ)せないような方たちで、これまでそのような貴族令嬢を何人も振ってきています。


 気の強い女性に言い()られ()ぎた結果、落ち着きのある女性が好みになってしまいましたわ。


 無論、エリカがお兄さまと結婚した場合、振られた女性達から反感を買うのは予想できますわ。

 しかし、エリカならばうまくまとめるでしょう。

 何故なら――。


「エリカはあの混沌(こんとん)とした学園の生徒会長で、見事(みごと)にワタクシ達をまとめあげていたのですから」


 全学年を(とお)(つね)主席(しゅせき)を守り続けた秀才(しゅうさい)

 学業に並行して(きさき)教育が行われていたため教養も十分。

 (あか)い瞳に黒髪ロングの(ととの)った顔立ちに、太すぎずまた()せすぎずな姿は、誰もが認めていますわ。


「しかし学園と我が国の貴族社会は異なる。婚約には賛成だが……」

「ち、父上?! 」


 お兄さまが顔を赤くしお父さまを見ましたわ。

 これだけで脈ありというのがわかるのに、まったくお兄さまは……。


「むぅ……よし。三年」

「「「三年? 」」」

「三年で二人の婚約を他の貴族に認めさせることができたら、正式な婚約者として発表しよう」


 こうして二人の試練が(まく)を開けましたわ。



「お久しぶりですわ」


 晴れやかな日。からっとした温かさを含む風が、身体をゆっくりと()でるその日の王城の広場。そこには正装(せいそう)に身を包んだ友人達が。


 この三年間。

 学園でつないだせっかくの縁をきらさまいと、可能な限り連絡をとりあっていましたわ。

 しかし今や彼女達もそれぞれ国を(にな)う存在。

 今日参加してくれて本当によかったですわ。

 

「しかし、あそこまでおちぶれるとは思いませんでしたわ」


 月の国の同級生が苦笑いをする。


 話によるとエリカが婚約破棄されたその日、ロイ王子は国王に問い詰められた様子ですわ。

 まぁそれもそのはず。

 エリカにかけた資金が泡のように消え、国王からすれば娘が入れ替わるようなもの。

 

 エリカは王族のみならず、その世渡りの上手さのおかげか、さまざまな人に気に入られていた。

 (きさき)教育は厳しかったようですが、王城で不当に扱われていたようなことはないみたいでしたわ。


 それらもあってか、一時の劣情(れつじょう)で台無しにした王子は、一瞬にして周りを敵にしてしまったみたいですわ。


「確かその後は……」

「そうそう結局レナが妃教育から逃げて……」


 仮にも王子と婚姻関係を結ぶことが出来たレナの実家は大喜び。

 レナを王城へ送ったのですが、妃教育についていけず、結局王城から逃げ出したと聞いております。


 恐らく妃教育だけではないでしょう。

 エリカをロイと共に追いやった女。

 王城の方々がどういう態度をとったかは想像に(かた)くないですわ。


「色々と悪いことをしていたみたいですね! 」

「確かそれもあっておとり潰し、になったのでしたっけ? 」


 野心が悪いとは言いませんが、身の(たけ)(はるか)に超えた野心は身を(ほろ)ぼすとよくわかりましたわ。


 この後にも同級生と話し、一時(いっとき)の別れを告げ、王城の準備室へ。


「……お兄さま。今までこれ以上に緊張する場面は幾らでもあったでしょうに」

「そ、そんなこと言われても緊張するものは緊張するんだよ」


 緊張で震えているお兄さまに(あき)れながら声をかける。

 お兄さまは白字に緑の(おび)が入ったタキシードに身を(つつ)んでいる。

 

 ワタクシがお兄さまにしっかりするよう激をいれていると、奥から涙と鼻水が顔をグシャグシャにしたお父さまが、お兄さまと同じ服を着て、出てきた。


「リーファ! みているか! あのリリオがついに結婚するんだぁ! 」

「きっとお母さまも空の向こうからみていますわ」


 お母さま。

 お兄さまはこれから国の(おさ)になるために、そして愛する人のための儀式を行います。

 これから困難が二人を襲うでしょう。

 しかし二人ならきっと大丈夫ですわ。


「さぁ……。行こう」


 お兄さまが前へ進むと、甘く温かい風がワタクシ達を()でると、会場の音が消えた。


 お兄さまの演説が終わると司会がエリカ入場の声を上げる。

 扉からは赤を基調(きちょう)に黒い帯の入ったドレスを着たエリカが姿を現す。


「――ズルズル……殿下ぁ。誓いをっ……」


 エリカ、今までありがとう。学園でワタクシを一人にしないでくれて。

 おかげでワタクシは多くの友に巡り合うことができました。


 名残(なごり)()しいですが……、さようならワタクシの一番のお友達。


 そしてこれからよろしくですわ。


 ――お姉様。


 白・赤・黒・緑、と非現実的な色の(はと)が空を()う。


 ここは様々な民族が()りなす大陸最大の多民族国家。


 永遠(とわ)を誓う二人がここで、結ばれた。


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