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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

不合格です

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/02/07

手慰み、第数弾でございます。

お楽しみいただければ、幸いでございます。

 王子は、前世の記憶があった。

 遥か昔、勇者として世界を救ったのに、一人孤独に老後を迎えて世を去った、悲しい記憶が。

 今世では、生まれてから今まで、かなり恵まれていた。

 早くに亡くなった側室の忘れ形見だからか、国王陛下からもかなり目をかけられて、ここまで育った。

 が、自分としては、物足りなかった。

 前世のように、世界中を旅してまわり、もっと強くなりたい。

 そう願っていた矢先、父親である国王陛下から、隣国に留学するよう王命が下った。

 隣国は冒険者が多く、その基礎を学べる学園も存在しているのだが、そこの試験を受けるよう、命令されたのだ。

 国での学業は既に終業していた王子は、前世で携わっていた冒険者業を、学べる場所に行く喜びと、最新の情報も手に入るだろうという期待を胸に隣国に渡り、学園の入学試験に臨んだのだった。

 帰国してひと月で、試験結果が封書で届いた。

 結果は……不合格、だった。

 

 その結果に驚き憤ったのは、王子だけではなかった。

 国王陛下も目を疑い、隣国に問い合わせた。

 すると、王子が通っていた学園に、当の冒険者育成の学園から、返答が届いた。

「……受験の成績表が、送られてまいりました」

 国王に謁見を申し込んだ学園長が、緊張したまま言った。

 そして、傍に控えていた宰相に、その封書を差し出す。

 宰相から受け取った国王は、それを開いて中の通知を見た。

 内容を見て、思わず唸る。

「百人中、九十位?」

「生徒応募数は、三十人でございますので、不合格は致し方がないかと」

「そ、そんなはずはないっ。この子はっ、様々な分野で高ランクなはずだっ」

 秘かに修行して、勇者だった頃の力を殆ど取り戻しているはずの自分が、まだ冒険者の卵にすらなっていない、同年の者たちよりも、劣っているという事実に、父親の傍に控えていた王子自身も、衝撃を受けていた。

 だが、学園長は静かに頷いただけだった。

「あちらは、昔から幾度となく国が傾き、その度に冒険者の中から勇者が現れることで、事なきを得ているお国柄でございます。年々、そのランクの数も増えていると聞いておりますし、この国での冒険者の標準を、大きく上回ってしまっているのかもしれません」

 まさか、そこまで……。

 衝撃を受ける王子の傍で、国王の顔からは、血の気が引いていた。


 冒険者育成に特化した学園の、新学期が始まった頃になっても、隣国の王からの嘆願は止まらなかった。

「……国を守れるようになるなら、王位の継承権も与えるつもりだと。そこが問題じゃ、ないんだがな」

 そもそも、王室がない我が国で、それを餌にされても、どう反応すればいいのか。

 冒険者ギルトを中心に、町が発展しただけの、国とも呼べないはずなのに、前の人生では国と認識され始めてしまった場所が、ここだった。

 ギルトにほど近い場所で、後の学園の創立者となる冒険者が、無償で子供たちを集めて、冒険者のノウハウを教え始めたのが学園の走りだったが、今では小難しい試験を受けさせて、ふるいにかけなければならないほど、有名になっていた。

 今回は、少し張り切りすぎたかなと思いはするが、こうでもしないとあの王子を、この土地に居座らせることになりかねなかった。

 それだけは、了承できなかった。

 何故ならこの王子、前の人生で、この土地の者を手玉に取り、完全に壊滅させてしまったのだ。

 この時期に単身でやってきた王子は、今回と違って一見すると王子とは思えない格好をしていた。

 だが、実力はあった。

 国に内密でやってきたらしい王子は、目立たないように受験を受けた、つもりだったようだが、受験の監視官を驚かせるほどの実力を見せ、見事合格した。

 入学してからも、同級生どころか上級生にも驚かれるほど優秀だった王子は……すぐに慢心した。

 初めのように、本気で謙遜することはなくなってしまった上に、無垢そうな顔を駆使して、次々と生徒の心をつかみ、卒業するまでには一つの国家を作る気概まで持ち始めていた。

 土地の環境によって、様々な特徴があるがこの土地は、魔獣などが生まれやすい土地柄だ。

 そんな場所で、隣国と同じような体制をとってしまっては、色々と後手に回ってしまい、長くここに住む者たちまで、危険が及ぶ。

 そして、ここが大事なのだが、王子はあくまでも、冒険者のノウハウを教える前の、年頃の少年少女にしては優秀だった、というだけだ。

 あの程度の冒険者は、山ほどいる。

 他の生徒たちが持ち上げたのも、純粋に驚愕したからだが、そこからの対応は、冒険者の卵らしからぬものだった。

 荒くれ者の家柄の生徒たちが、何故か貴族の上下関係を思わせる態度を取り始めた。

 そして、王子を引き立てるように、成績まで控えめにし始めたのだ。

 結果、それが国を作るどころか、世界中を脅威に立たせると、思いもよらなかっただろう。

 学園長は、王子が同級生たちを取り込み、上級生たちにまで幅を利かせ始めた頃既に高齢で、ほとんど寝たきりだった。

 学園を継いだ娘夫妻が嘆く声を、聞き流すしかないくらいには、もう頭も働かなくなっていたから、その後の事は知らない。

 往生してすぐに巻き戻った時、学園長室に血相を変えて飛び込んできた生徒が訴えた、自分が死んだ後の未来を聞いて、初めてそののっぴきならない状況を知った。

 自分が亡くなった後、この地は二つの派閥で争っていた。

 王を掲げて、国家を作ろうとする者たちと、現状維持を望む者たちの二つの派閥だ。

 学園長の娘夫婦は、次世代の冒険者を作るため、学園の教育を根本から変え、王子の実力のほどを分からせようと画策して、それを知られた王子側に処罰された。

「……あの王子、様々な分野の力を均等に持ってはいますが、それだけだったでしょう?」

「ああ。一昔前の勇者が、そんな男だったと聞いている。力はなかったが、その均等さを使い分けて魔獣を翻弄し、結果何とか、追い払ったと。ほんの、数か月ほど」

 そのせいで、非力と非難され、彼は孤独に寿命を終えたと聞いたことがある。

 その話を踏まえたわけではないが、この学園での教育は、発達途上の生徒たちの均等な力を、内面の鍛錬や座学で向上させるのが目的だったはずなのに、王子を崇拝する者たちは、それを疑問視し始め、真面目な生徒たちをも邪魔し始めてしまった。

 娘夫婦はその都度抗議し、反発していたのだが、国家を持たない土地柄が災いして、その声はかき消されてしまった。

「……お願いします、学園長。今のうちに、あの、隣国の王子を、遮断してください」

 生徒の切羽詰まった願いで、学園長が一番仰天したのは、あの問題の生徒が、隣国の王子だと知らされた事だった。

 それほどに、この土地に足を踏み入れた問題の少年は、ぼろぼろの容姿だった。

 よくよく聞けば、隣国の側室の子で、当の側室の死後は、離宮でひっそりと育てられていたらしい。

「虐待はなかったようですが、他の王子たちとは違い、小さくなって過ごしていたようです」

「……」

 思わず同情してしまった学園長に、生徒は険しい顔を向けた。

「お気持ちは分かりますが、聞いてください。この地は、次代学園長夫婦亡き後、直に魔獣たちに占拠されてしまいました」

「っ?」

「かの王子は祖国に逃げ、その足で己の家族を断罪して王位を奪い、土地を手に入れた魔獣たちを迎え撃ちましたが、相打ちで果てました」

 その後は辛うじて残っていた、この土地の冒険者たちが、手の届く範囲の守備を買って出て、生き残った民たちを魔獣から守っていたが、前ほどの安心感は皆無だった。

 そんな中、辛うじて体制を保っていた神殿が、次々と襲われ始めたことで、獣神が重い腰を上げた。

「……私は、ここを卒業した後、神殿の事務に就職しました」

 現に、つい先ほど、同じ職場への内定書を担任から渡されたと、生徒は言った。

 ギルトを通す求人に、神殿の求職が載るのは珍しかったが、比較的汚れ仕事を扱える人材が、欲しかったらしく、学園の方に時々、事務員としての求人が来る。

 優良だったこの生徒も、大勢の魔獣の襲撃には、太刀打ちできなかったのだと、悔しそうだった。

「あの生徒が受験のためにこの地に入るのは、今から五年後です。どうか、今のうちに、対処をお願いいたします」

 真剣な頼みに頷きつつ、学園長は不思議だった。

 この生徒、どうして自分が、前の人生での記憶を持ったままだと気づいたのか。

 だが、あの獣神が関わっているのなら、大体の想像はついた。

 何せ、学園長の今わの際に、当のあの獣神が、夢枕に立ったのだ。

「事情を話すのは、オレじゃない」

 と、白い兎に手を振って見送られた学園長は、事情を聞いた後も、果たしてどう対処すればいいか、迷っていた。

 迷いつつも、学園の受験の基準を、大幅に変えた。

 これは、王子対策ではなく、元々、やりたかったものの、在籍中にはやりきれなかっただけだ。

 巻き戻ったのなら、無理してでもやってしまっておこうと考えたことが、今回はいい方に出た。

 

 というか、隣国の王も、巻き戻ったのか?

 今回はあの王子、随分と寵愛されているようで、それを他の王位継承者たちも、容認しているようだ。

 ならば、この地に来てまで、何かをやり遂げる必要は、ないよな? 勇者擬き殿?

 


ネタが尽きかけております。

というか、話の流れを文にする作業に、手こずり始めております。

週二回の投稿を目標にしておりましたが、次回からは、週一回になる、かも知れません。


P.S この勇者は、無自覚のチートにするつもりでいたのに、散々なことになってしまいました。

  反省しております。

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