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4.ボヴァリー男爵家

 ボヴァリー男爵の屋敷は小高い山の上に建っていた。

 山の麓には大きなワイナリーがあり、その手前に領都の街が拡がっている。

 山の上の屋敷は生活に不便だとは思うが、領主の最大の責務は領地防衛であるので、山の上に城を築いているのだ。

 屋敷に向かう途中で領都の街を抜けて行ったが、街には活気が無い様子だった。

 ワイナリーの横から山道に入り、屋敷に到着すると、執事のセバスチャンが傭兵団一行を待ち構えていた。

 特に抵抗なく傭兵団は屋敷に招き入れられ、早速、関係者一同がダイニングルームに集められた。

 傭兵団はウィル・スクルージ団長以下6名、ボヴァリー男爵家はシャルル・ボヴァリー男爵、妻のエマ、娘のベルタ、執事のセバスチャンの4名である。


「ボヴァリー男爵、すでにメジッチ家からお聞き及びのことと思いますが、今回、我々傭兵団が御家に対する債権を取得いたしました。つきましては、すみやかに債務を返済して頂きたいと思います」

 ウィルはそう言いながら、ボヴァリー男爵のサインが入った借用書をテーブルの上に広げて見せた。

 ろくな挨拶も無く、いきなり借金の取り立ては始まったのである。


「カトリーヌが当家への債権を手放したと言うの? どうしてそんな酷いことを、、、」

 エマ・ボヴァリー夫人が声を震わせる。

 債権を第三者に売却するということは、以降の取引も含めて債務者との関係を一切断つと言う宣言に他ならない。

 エマはベネッチェの出身で、カトリーヌとは学院アカデミーの同窓生らしいが、メジッチ商会の会頭がビジネスに私情を差し挟むようなことは無いのだ。

 ボヴァリー男爵家とメジッチ商会との間では、昔から高級ブランデーの取引が行われていたのだが、近年、ボヴァリー産のブランデーの味が落ちたことから、市場マーケットでは、コニャック伯爵領産のブランデーが、高級ブランデーの代名詞となりつつあった。

 メジッチ商会としては、ボヴァリー男爵家とのブランデーの取引についても、打ち切りにするつもりのようだ。


「好きにすれば良いさ。屋敷にある物は何でも持っていけばよい。だが、我々も無い袖は振れないのだ」

 ボヴァリー男爵は、すでにすべてを諦めているようだ。

 メジッチ家が借金の借り換えに応じてくれないのであれば、ボヴァリー男爵家に打てる手は無い。

 それは、ティムが事前に読み込んでいたボヴァリー男爵家の財務資料からも明らかだった。

 

「ご理解いただきありがとうございます。では、早速明朝より領内の資産の査定を始めさせていただきます」

 ウィルが淡々とボヴァリー男爵に告げる。

 時刻はすでに夕方近くになっていた。

 今晩、ティムたちは麓の街で宿を取るつもりだった。

「街の宿屋は潰れてしまっているよ。最近では商人たちも領内に寄り付かんからな。屋敷に財宝は残っておらんが空き部屋なら有る。借金取りをもてなすつもりは無いが部屋ぐらいは貸してやろう。セバスチャン、案内してあげなさい」

 ボヴァリー男爵は根がお人好しなのかもしれない。

 しかし、その甘さが今日の状況を招いてしまったとも言えるだろう。

 ティムたちがダイニングルームから出ていくと、閉じられた扉の向こう側から、借金の原因を作ったボヴァリー夫人の泣き喚く声が聞こえてきた。


 セバスチャンが用意してくれた部屋は、団長用の個室と、女性3名の部屋、男性2名の部屋の3部屋だった。

「後ほど、軽いお食事を用意いたします。ゆっくりとお休みください」

 セバスチャンはそう言って去って行った。

 ティムたちは各自の部屋に荷物を置くと、とりあえずウィルの部屋に集まった。


「ジェシカ、どうだった?」

 エリカがジェシカに尋ねる。

 ジェシカは屋敷内に通されてから、周囲に目線を彷徨わせ、さも珍しそうに屋敷内の調度品などを見ていた。

 その様子は、貴族の邸宅に初めて入った田舎娘にしか見えなかった。

「あまり期待できませんね。古い物には価値のある物も有りましたが、最近買ったと思われる物に関しては、ほとんどが偽物ですね」

 ジェシカは鑑定の魔眼を働かせ、屋敷内の資産査定を抜き打ちで始めていたのである。


「やはり、商人のルウルーから偽物を掴まされていたのね。ルウルーもボヴァリー夫人の情夫の一人らしいのだけど、男爵家が借金で首が回らなくなって以降は姿を現していないらしいわ。金の切れ目が縁の切れ目だったのね」

 ティムはエリカの話に驚いた。

 どこからそんな情報を仕入れてきたのかは不明だが、ボヴァリー夫人は浪費癖だけでなく浮気癖もあったらしい。

 エリカは名家の出身だけあって、ベネッチェの社交界にも顔が効く。

 その伝手を使って仕事を取ってきたり、情報を取ってきたりしているのだが、エリカが仕入れてきた情報なら、ゴシップであっても信用出来るだろう。


「屋敷内の資産に期待できないとなると、他の方法で借金を回収することを考えなければなりませんね」

 ボブが冷静に反応する。

 あらかじめ、こういう状況も予想していたのである。

「そうだな。明朝からの段取りだが、ボブはセバスチャンに付いて帳簿の再確認、領内の金の流れに不正がないかチェックしてくれ。エリカ、ジェシカ、エリザベスの3名は、夫人と娘のベルタに付いて装飾品などの査定を行ってくれ。隠匿物を見逃さないようにしっかり頼む。ティムは俺と一緒にワイナリーの視察だ。ボヴァリー男爵に案内してもらおう」

「了解しました」

 既に陽は落ちていた。

 貴族宅であっても夜になれば眠るものである。

 セバスチャンが用意してくれたパンとチーズをワインで流し込むと、団員たちは各自の部屋へ戻って行った。

 さすがに特産品なだけあって、セバスチャンが用意してくれたワインは美味だった。

 ワイナリーには高級ブランデーも残っているだろうが、荷馬車2台で運べる量などたかが知れている。

 これからどうやって借金を回収すれば良いのだろうか?

 そんなことを考えながら、ティムはいつの間にか眠ってしまった。


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