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11.ベルタ・ボヴァリー

 ティムたち傭兵団の面々は、ボヴァリー男爵の屋敷に留まって債権回収を続けていた。

 側近にまで裏切られていた事実を知ったボヴァリー男爵は心が折れ、弟のオメーを男爵家に呼び戻し、ドワーフたちを領都のワイナリーで再雇用することも渋々了承していた。


 ワイナリー事業の再生計画を担当しているエリカが報告する。

「工房ギルドの職員による事業評価は無事終了したわ。ワイナリー事業への4千万ドルトの出資と、今後の事業再生に伴う設備投資に関しても追加出資に応じてくれるそうよ」

 セバスチャンの処置を任されていたティムが続いて報告する。

「横領の罪を犯したセバスチャンは、ボヴァリー男爵の領主裁判権によって犯罪奴隷に落とされ、ベネッチェの奴隷商へ1千万ドルトで売却されました。売却収益はすべて借金の返済に充てられます」

 続いてボブも報告した。

「詐欺と横領の共犯、商人ルウルーに関しては、フラン王国とベネッチェ共和国に手配書が回っています。これで、ルウルーは日の当たる場所を歩けなくなるでしょう。ですが、ルウルーを逮捕して、犯罪で得た収益をルウルーから回収出来る可能性は低いでしょうね」

 

「屋敷の財物の差押えで2千万ドルト、ワイナリー事業の70%の権益差押えで7千万ドルト、犯罪奴隷の収益で1千万ドルト、合計で1億ドルトか、、、メジッチ家からは1億1千万ドルトで債権を買っているので、このままでは赤字だな」

 ウィルがこれまでの債権回収の状況を纏めた。

「でもウィル、ワイナリー事業の事業価値はこれから2億にも3億にもなるわ。私たちは30%の権益を保持しているのだから、将来、それを転売すれば黒字になるじゃない」

 エリカはウィルに楽観的な見通しを話した。

「いえ、エリカさん。ワイナリー事業に関して、現時点で現金化出来るのはギルドに売却する4千万ドルトのみです。つまり、我々が現時点で現金として回収出来るのは2千万+4千万+1千万の7千万ドルトのみです。うちのような零細傭兵団の資金繰りから見ると、この状況は結構危険なのですよ。既に債権の買い取りにあたって、メジッチ家に1億1千万ドルトを支払ってしまっている訳ですからね」

 傭兵団の経理を任されているボブは、資金繰りの観点からエリカに反論した。


「あのー、、、ボヴァリー男爵家に残してあるワイナリー事業の権益30%についても、このタイミングで、3千万ドルトで第三者に売却してしまってはいけないのでしょうか? そうすれば、傭兵団の資金繰りも楽になりますし、我々と工房ギルドでワイナリー事業の主導権も維持出来ると思うのですが、、、」

 ティムは自分が思いついた案について、古参の団員たちに恐る恐る尋ねてみた。

 エリカがティムに答える。

「ティム、、、あなたはベネッチェの法律以外に、他国の法律についてもっと学ばなければいけないわね。フラン王国の法律によれば、貴族の出資が30%未満の事業については貴族の事業と認められないの。事業に与えられる免税措置などの貴族特権も認められなくなるわ。そうなると、ワイナリー事業の競争力は失われてしまう。でも、ティムの言うことにも一理あるわね。現時点で、我々の持ち分を高値で買い取ってくれる友好的な出資先を探してみるわ。ボブの言う通り、傭兵団の資金繰りが厳しいのは事実だしね」

 現時点で出来ることは、あまり残されていないようだ。


「エリザベス、ベルタ嬢の婚姻についてはどうなっている?」

 ウィルがエリザベスに尋ねた。

「はい。ベルタ嬢とブーランジェ子爵の婚姻にあたっては、1千万ドルトの結納金が、ブーランジェ子爵家からボヴァリー男爵家に支払われることになっているようです。ベルタ嬢はこの婚姻について無関心なようで、、、というか、すべて諦めてしまっているようなのです。子供のころから冷め切った両親の関係を見て育ってきているため、男女の恋愛については興味が無いようです。『父が命じるなら構わない』と言っています」

 ウィルに厳しく叱責されてから、エリザベスは仕事と割り切ってベルタに張り付いていたが、心情的にはまだ納得出来ていないことが言葉の端々から伺われた。

 ティムは、ベルタに関して気の毒には思っていたものの、学院アカデミーを卒業してから嫁に行くでもなく、仕事を手伝うでもなく、4年間も引き籠って怠惰な生活を続けていることについては、ベルタに同情出来なかった。  


「ベルタ嬢が『構わない』と言っているなら、我々がとやかく言うことでは無いんじゃないですか? 追加で1千万ドルトを回収出来るなら、資金繰りは兎も角として、少なくとも損益計算上は赤字を免れます」

 そう言ったティムの言葉に、エリザベスは激高した。

「頭でっかちのティムは黙っていろ! 女心の分からない童貞の癖に!」

 童貞という尊い真実を指摘されたティムも頭に血が上った。

 ティムが純潔を捧げる女性は、ただ一人に想い定まっているのである。

「なにおっ! この脳筋女! お前だって処女のくせに!」

 突然喧嘩をおっぱじめた二人を、他の団員たちは生暖かく見守っていた。


 傭兵団の中では、ティムとエリザベスの喧嘩は犬も食わないので放っておけということになっていた。

 それゆえ、エリカとジェシカが何か小声で相談している様子を、ティムは見逃してしまっていた。

「エリカさん、これを見てください。ベルタ嬢の書いた小説らしいんですけど」

「、、、これは、腐っているわね」

「ええ、完全に腐りきっています、、、」

「ジェシカ、これはイケるかも知れないわ!」

「エリカさん、私もそう思います」

 こうして、ティムの与り知らないところで、状況は終幕に向かっていったのである。


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