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10.執事セバスチャン

 グラッパ村から戻ると、エリカは魔導通話にかじりついてベネッチェの各所と連絡を取り始めた。

 どうやって説得したのかは不明だが、明後日には、ワイナリー事業の評価のために、工房ギルドの職員がボヴァリー男爵領へやって来ることが決まった。

 一方、ウィルとティムはボヴァリー男爵にワイナリー事業の再生計画を説明したのだが、ボヴァリー男爵の反応はかんばしいものでは無かった。

「ドワーフなんぞに頼らずとも、セバスチャンが居るし、我々だけでワイナリー事業は立て直せるだろう。オメーが男爵家に戻りたいのなら歓迎する。だが、ドワーフたちはいらない」

 これだけ追い詰められた状況であっても、一度身に付いた差別意識というものはなかなか払拭出来ないものらしい。

 種族、人種、民族、性別、職業、貧富、宗教など、この世界にはあらゆるところに差別が存在する。

 これは人間の宿痾というべきものなのだろうか?

「ボヴァリー男爵も頑なだな。外堀を埋めてからもう一押しする必要がありそうだ」

 ウィルとティムは一旦引き、作戦を練り直すことにした。


 ウィルとティムとボブの3人は、ウィルの部屋に集まっていた。

「ボブ、横領の証拠は掴めたか?」

「はい、裁判で勝てるだけの物証を集めました。どうやら、商人のルウルーはセバスチャンの従弟だったようですね。ボヴァリー男爵領での横領は、この二人が結託して行っていたようです。ボヴァリー夫人が騙された宝飾品に関してはセバスチャンが鑑定書を用意していました。また、ワイナリー事業の不正は、ドワーフたちが解雇された5年前から始まっています。おそらく、それ以前から、セバスチャンはドワーフに関する悪い噂をボヴァリー男爵に吹き込んでいて、邪魔なドワーフを排除したんだと思います。周到に計画された犯罪ですね」

「そうか、御苦労だった。では、シロアリ退治にかかろうか。頼りにしているセバスチャンの正体を知れば、ボヴァリー男爵も考え方を改めるだろう」


 準備を整え、関係者全員がボヴァリー男爵の執務室に集まった。

 ウィル、ティム、ボブ、ボヴァリー男爵、セバスチャンである。

「残念なことですが、ボヴァリー男爵家における横領の事実が発見されました」

 ボブがそう言いながら、短期間の間に集めた物証をボヴァリー男爵の目の前に提示していく。

 明白な証拠を見せられれば、ボヴァリー男爵も信じたくない真実を認めざるを得なかった。

「セバスチャン、お前もか、、、」

 血の気の失せた表情で、ボヴァリー男爵は背後に立つセバスチャンを振り返った。

 貧血を起こしたのか、ボヴァリー男爵の身体がふらつく。

 その瞬間、セバスチャンがボヴァリー男爵を羽交い締めにし、持っていたナイフを男爵の喉元に当てた。


「全員動くな! おかしな真似をしたら、コイツの喉を掻き切るぞ!」

「悪あがきはよせ、罪が重くなるだけだぞ」

 ウィルはいつも通り淡々とした口調だ。

 ティムは一瞬の状況変化に身体が強張ったままだった。

「お前ら、そのまま動くなよ!」

 セバスチャンはボヴァリー男爵を羽交い締めにし、後ずさりしながら部屋を出ようとしていた。


「仕方がないな、、、ウンディーネ、阻止しろ」

 ウィルが独り言のようにそう呟いた瞬間、セバスチャンの身体が一瞬で凍りついた。

 水の精霊『ウンディーネ』を召喚し、一瞬でセバスチャンの身体を氷漬けにしたのだ。

「これが精霊魔法、、、」

 ティムは、その劇的な効果に声を失っていた。

 ウィルはセバスチャンに近付くと、ナイフを握った右手の指を、ポキリ、ポキリと凍ったまま1本ずつ折り始めた。

 セバスチャンからナイフを奪いとると、普段通りの口調でウィルはウンディーネに命じる。

「ウンディーネ、もういいぞ」

 次の瞬間、凍り付いていたセバスチャンの身体が一瞬で融けた。

「ぐっ、がはあ、、」

 指を折られた激痛に、セバスチャンはボヴァリー男爵を放り出し、床に転がってのたうち回った。

 その隙に、ウィルはボヴァリー男爵を救い出し、ボブはセバスチャンを後ろ手に縛りあげた。

 

「セバスチャン、仲間のルウルーはどこに居る? 左手の指も折られたくなかったら正直に話せ」

「知らねーよ」

 セバスチャンは一言だけウィルに答えると、奥歯を噛みしめて痛みに耐えている。

「ウンディーネ、、、」

「ま、待ってくれ。本当に知らないんだ。取り分を分けた後はお互いに関わりなしって話だったんだよ。俺の取り分は全て使っちまった。殺すならひと思いに殺してくれ!」

 ティムはセバスチャンが嘘を言っているようには見えなかった。

 ルウルーの居場所を知っているなら、その情報を取引の材料に使うはずだ。

 ウィルは冷たい声でセバスチャンに告げた。

「セバスチャン、盗んだ金は必ず返して貰う。このまま楽に死ねるなんて思うなよ。ティム、魔導通話でベネッチェから奴隷商を呼んでくれ」

 セバスチャンは忠誠心さえあれば有能な執事なのだ。

 犯罪奴隷として奴隷商に引き渡せば、高値で買って貰えるだろう。

 そして、その金は借金返済に充てられるのだ。


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