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1.プロローグ

 ジリリ、、、ジリリ、、、

「はい、スクルージ&マーレイ傭兵団でございます」

 傭兵団に見習いとして入ったばかりのティムは、3コール以内に魔導通話を取るように言われていた。

「あら? 新人さんかしら? 私、カトリーヌ・メジッチと申します。団長さんはいらっしゃる?」

「いつもお世話になっております。スクルージでございますね。少々お待ち下さい」

 メジッチ家はベネッチェ共和国の政財界を牛耳る大富豪であり、傭兵団にとっての上得意先でもある。

「団長、起きてください。カトリーヌ・メジッチ様からの魔通話です」

 スクルージ&マーレイ傭兵団の団長、ウィル・スクルージは、読みかけの雑誌を顔に掛けて、ソファーの上で眠りこけていた。そのだらしない姿は、精霊を操る凄腕の傭兵団長には見えなかった。


「魔通話代わりました、スクルージです。カトリーヌ様、いつもお世話になっております」

「団長さん、御無沙汰しております。また、団長さんのところで買って頂きたい債権がございますの」

「ありがとうございます。では、エリカをそちらに向かわせますので、その時に債権の内容等について、詳しくお聞かせ頂けますでしょうか?」

「ああ、エリカちゃんね。分かりました。では、お待ちしております」

 スクルージ&マーレイ傭兵団は、メジッチ家のような大富豪や大貴族から不良債権を買い取り、債務者から金銭を回収することを生業としている。

 簡単に言ってしまえば、借金の取り立て屋である。

 焦げ付いた借金を取り立てる訳だから、状況によっては荒事になることも多く、そのため、武力を持つ傭兵団がそういった業務にあたっているのだ。


「エリカ、メジッチ家から債権の買い取り依頼だ。すまんが、ティムを連れて話を聞きに行ってくれ。債権の買い取り額は、その場で決めて貰って構わない」

「カトリーヌ様か、、、なかなか手強い交渉相手なのよね。ティム、手土産を用意するのでラデュレでマカロンを買ってきてくれるかしら? 領収書を忘れないようにね」

 エリカ・マーレイは傭兵団の共同経営者兼副団長であり、債権の査定や買取交渉を一手に引き受けている。

 団長のウィルが荒事担当だとすると、副団長のエリカは和事担当であり、ふたりのバランスが取れていることで、スクルージ&マーレイ傭兵団は成り立っていると言えるだろう。


 傭兵団の箱馬車でメジッチ家へ向かう途中、ティムはエリカに尋ねてみた。

「団長は、債権の買い取り額もその場で決めて来て良いと仰ってましたけど、話を聞いただけで債権の査定なんて出来るものなのでしょうか?」

「正確に査定するのは無理ね。学院アカデミーでも学んだと思うけど、債権の買い取りにあたっては回収可能額の厳密な査定(デューディリジェンス)が必要になるわ。けど、今日の打ち合わせは目的が違うの」

「目的が違う?」

「ええ、不良債権を売り出すということは、回収可能額についても既にメジッチ家の優秀な銀行員たちがきっちり査定しているわ。その査定額をベースに帳簿上損切りする準備も出来ているはずよ。今日の打ち合わせの目的は、その金額を探って落としどころを見つけることなの」

「ですが、相手は出来るだけ高値で債権を売りたいはずでしょう。簡単に金額を聞き出せると思えません」

「もちろんそうよ。でも、債権の回収には時間もコストも掛かるし、借主からいらぬ恨みも買うものなの。僅かな借金回収のために時間もコストも掛けたくないというのが売主の本音ね」

「なるほど、、、」

「それに、不良債権の売却価格を少しでも上げたいのなら入札という手段を取っているはずだわ。私たちを指名してきたということは、回収可能額に少し色を付けた程度の金額で不良債権をさっさと売却したいということよ。売却価格の交渉にも時間はかけたくないはずだから、落としどころは探りやすいわ。メジッチ家とは長年の付き合いだから、その辺は阿吽の呼吸で交渉出来るのよ」

 学院アカデミーで学んできたことと現場の実務とでは、いろいろと勝手が違うことがあるのだなと、ティムは改めて気を引き締めた。

 そんな話をしているうちに、箱馬車は市の中心部にあるメジッチ家に到着した。


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