千里の話3
「そうか、でも俺の食事会の時は向こうの幼児椅子に畏まって座っていたが……」
普通それだけ甘やかされれば、我が儘に騒ぐだろうに。それが行儀作法は幼児でもキチッと祖父はしていた。実際には飴と鞭でなく、表情に依って正しい事をすれば笑って、悪いことをすれば鬼のように眼を光らせた。祖父はそれを伯母さんや典子さんにも徹底させた。
「それであの離れからは出させないようにしているのか、亡くなった今でも」
「そこなのよ。此の半年はどう育てて良いものか思案するうちに、あたしの子はすくすくと育って、今は離れで一緒に遊ばせて育ててるのよ」
「一番戸惑ってるのはその利貞ちゃんか、それでおじいさんはどうして脳溢血で倒れたんだ」
「その日は急に寒くなり、お風呂は早めに切り上げた方が良いと云ったが長かったのよ」
「それで風呂場で倒れたのか。別に不自然でも自然でもないよなあ」
「そうね、どっちでもないってことはミステリー何でしょう」
ウン? その何か事件性を想わす象徴的な言葉に坂部は微妙に反応した。
「でもどっちか云うと矢張り歳なんでしょうか。急激な気温の変化に、身体が不調をきたしたのが本当のところじゃあないのかなあ」
利貞が生まれて家族内の込み入った時期だけに、そう簡単には片付けられないが。
「食事はみんな一斉に食べたのですか」
「そこがちょっと引っかかるけれど、おじいさんは遅れて、みんなが食べ終わった頃にやって来て、一人で食べ始めたのよね」
「その時に用意したのは千里さん?」
「いえ典子さんでした」
「あの頃は利貞ちゃんがやっと離乳食になりかけていたのを離れにあるキッチンで食べさせていたのよ。勿論うちの子と一緒に、その時に離れへ行く途中で食堂に来る利恒おじいさんとあたしはすれ違ったのよ」
それが生前の義祖父を見た最後だった。




