坂部の話3
もとの原価はただでも、金持ちの息子には十万で売り付けているから「あなたは良い買い物をしたと思わないとバチが当たる」と言われてしまった。しかしそんな細面の能面のような古風な顔立ちをした佳乃子ちゃんは、普通の女の子より活発で誰にも愛想良く振る舞うから、その手のかわい子ちゃんの部類に入るのだろう。
「だからそんな彼女が急に雨宿りに来たんだよ」
「ただの壺を五千円も吹っかけられてよく部屋に入れてやるよなあ」
「余り降ってなくてもお前の事で雨宿りを口実に、若い女が相談に来れば断り切れないだろう」
これには高村も悪い気がしなくて苦笑いしている。
「何故、俺のことを知ってるんだ」
だから最初に言ったように俺も彼女に問い質した。
「どうやらその陶芸教室に福井から来てる小石川希実と云う女の子が高村を見知っていて、それを佳乃子が聞きつけて俺のアパートへ押し掛けて来たんだ。それで高村、お前は地元では有力者の息子として知られているそうだなあ」
「おやじは派手に事業をしてるから山あいの田舎では目立つんだ。でもそんな田舎から京都の大学へ来ている女学生が居るとは知らなかったなあ」
そんな地元の名士なら佳乃子ちゃんは直ぐに嗅ぎつけるだろう。それを云うとあたしは犬じゃないわよと一蹴された。
「いつも愛想の良い八方美人の佳乃子ちゃんに初めてそんな風に言われりゃこっちは八方塞がりになっちゃって、そんなに邪険にされればいつもの美人が台無しだよ」
と言うと彼女は急にお淑やかになって「そう言われたのはあなたが初めてね」と言うから「裕介にもあの壺を売るつもりか」と言ってやると彼女は「そんなええとこの子のボンボンなら壺よりあたし自身を売り付けてやる」
と息巻いているから気をつけろ。