千里の話2
「当時は急に冷え込んで本格的な冬になり、今年はホワイトクリスマスねって期待していたぐらいだから」
と言いかけて珈琲でも飲む? と聞かれて、それよりその先を聞きたいが、その前に立ちはだかった彼女の勧める関所を通らないとダメかと思い、飲みますと云ってみた。インスタントと思いきや、焙煎された豆を紙カップに入れてゆっくりと注ぎ出した。
「お部屋にはインスタントしかないでしょう。これはおじいちゃんが喫茶店から直接分けてもらっていた物ですから」
と千里さんは滴り落ちる珈琲が下の瓶に溜まるのを待っていた。
「いつもそうしておじいさんに淹れてるんですか」
「そうよ、そしてあなたの隣の図書室へ持って行くんです」
「そうか、あの部屋はおじいさんの書斎だったんだ。今は周囲を本棚に囲まれて大きな書斎机がでんと構えているからまだ威厳が残っているんですね、あの部屋は」
「そうよ、だから夜な夜なおじいちゃんの『俺を落とし入れたのは誰だ〜』と云う声が隣から聞こえて来るかも知れませんよう〜」
「脅かさないで下さいよ、それよりもう十分出ているようですから」
「アラッそうね。同じ出るのならこっちの方が良いわね」
と急いで二つの珈琲カップに注いで差し出してくれた。一口飲むと続きを催促した。
「十二月も迫ってくると忙しくなるわね。特に会社経営をしている人には、此の家に嫁いで初めて師走って言う意味を実感したぐらいだから」
彼女の家は盆も正月もない平凡な家庭らしい。それに引き替えて此処は、季節ごとに趣を変えたお茶会の準備で、一年がこうも目まぐるしく変わって来るかと実感したようだ。
「おじいさんとは十二月になると忙しくて、余り顔を合わせる機会が少なくなってきたのよ」
それでも利貞ちゃんの一歳の誕生日はまるであたしたちの子のように祖父はやってのけた。生まれた時はあの離れを増築させ、そこで大切に育てられた。夫の克之が父から聞かされた幼児期とは、似ても似つかぬ派手な育て方だそうだ。




