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千里の話1

 その日の食卓に鮎は一匹も出ないのに、食卓に来ていない祖母と伯母と大場さんを除くみんなは、別にいつもと変わらず咀嚼していた。勿論大場さんはガレージになっている別宅の二階に住んでる。炊事場もあるからそこで食事もしているが時々招かれている。今日招かなかったのは正解だと、食事の支度をする典子さんと千里さんは笑いを浮かべた。鮎の釣り道具一式を貸した大場さん以外に知っているのは、釣りに行った当人を除けば典子さんと千里さんだけだ。みんなはいつものようにサッサと食事をして部屋へ引き上げた。見れば残った中に、今日一緒に行った美紗和さんはいない。それが何ともやるせない。あれは偶然で、彼女にそんな意図は全くなかったと無言で言っているように感じられた。今は周囲には後片付けをする千里さんと典子さんがいるだけで、坂部は一人食堂で浮いていた。そのうちに典子さんも引き上げると千里さんが「坂部さんの部屋は何もないから退屈でしょう」と隣に座ってくれた。

「典子さんは今日は早いんですね」

「彼女は子供達の食事をあたしと交代で見てるのよ」

「じゃあそのうちに、どっちがお母さんが判らなくなりますね」

「それは無いけど、もうあの二人は姉弟のように一緒に遊んでいるわよ」

 それは無くなった祖父、利恒のたくらみなのか?

「おじいさんは、利貞ちゃんが生まれてからいつ亡くなったんですか」

「一歳になる頃かしら。おじいさんは去年の暮れに亡くなったのですが、その前に利貞ちゃんの一歳の誕生日をおじいちゃんは盛大に祝ったの」

「それは四代目として期待してるんだ」

 その辺の事情は亡くなった祖父しか解らない。

 脳溢血か、と独り言を呟く坂部に千里も想い出した。

「あたしもそこが引っかかるんですけれど……」

 まったく知らない坂部には、今更どう引っかかると云うのか訊きたくなる。



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