九頭竜川の鮎釣り3
川の中を勝手に動き回る鮎を上手く手繰り寄せると感心した。
「これは元気がなくてとても相手の縄張りに行く前に引き返すわ」
と坂部に身体を接しながらダメな鮎と新しい元気な鮎と取り替えてくれた。此の時ほど彼女に触れ合えて、呼んでくれた高村に感謝した。
どうやら美紗和さんは二匹で、坂部には四匹仕入れた。彼女の鮎は釣れなくても元気にしているが、坂部のはもう二匹目だ。その鮎が疲れて二人は休憩した。川に浸けてるおとり缶に鮎を戻して、河原の適当な石に座り込んで、千里さんが詰め込んだおかずとお握りを食べ出した。
陽は中点より少し西に傾き始めた。少し遅い昼食だか、それでもコツを掴めればいいと余り焦りはなかった。それでもおとりは変えた方が良いと忠告された。
おじいさんや大場さんは、一匹のおとりで次々と釣って、常に元気なのと取り替える。益々元気に動き回って相手も敵意を丸出しにして、追い出すから次々と取れた。友が友を呼ぶまさに友釣りだ。
「場所はこの辺なんですか?」
話を聞いて勝手に場所が悪いと思った。
「でもその日に依って場所は変えるみたい。けれど結構当たるのよねぇ。行った日はいつも家族には一人に二三匹は付くわよ」
まあその日の勘だけで釣れるわけでもないようだ。要するに今後の見通しを釣り竿に委ねて頭の中で練っているのだ。眼前の九頭竜川は、途轍もないアイデアや先行きを展開するのに適した条件を、視覚を通じて頭に刺激を与えてくれる。竿を持つ手にもそれほどの手加減はしなくても鮎はおとりに絡んでくれた。
これが祖父に謂わすと無我の境地だそうだ。
「裕介の用事も良いけれど、あなたも無我の境地になって、あることだけを思い詰めれば、自然と縄張り意識の強い鮎が、追い返そうと身を挺して当たって来るわよ」
鮎ならいいが彼女に追い返されれば堪らない。




