九頭竜川の鮎釣り1
おとりの鮎は何処に行ったのかさっぱり解らないままこれで良いのか気になり、後は暢気に構えて何もしないのか訊ねた。そう待つだけと美紗和さんは簡単に言って退けた。あとは縄張りを持ってる鮎がちょっかいを出すのを待つだけだ。
遠くを見れば腰まで川に浸かって、しきりに上流に何度も投げ返している。それを見てこっちは殆ど川岸で、足のくるぶしまでしか浸かってない。これで良いのか聞いて見ても、何を遣っても釣れないときは釣れないし、釣れるときは黙っていても釣れるそうだ。これがおじいちゃんの流儀だと教えてくれた。大場さんもその流儀を律儀に守って、話を聞くには持って来いの人だと言われ、それが本来の目的だから理にかなってる。
「美紗和さんはどうしておじいさんから教えてもらった釣りを止めたんですか」
「子供の頃は面白くてそれで色々お菓子も買ってくれたから」
「お菓子に釣られたんですか」
「そうあたしは、けれど裕介は毅然として断ったけれど、あとからおじいちゃんに買ってもらったお菓子をねだりに来るのよ。その遣り方が汚いと思わない?」
「確かに人前では撥ね付けておきながら後でこっそりやって来るなんて、今の高村からは想像できないなあ」
どうやらおじいさんは美紗和さんよりも、高村を仕込みたかったが、一向に見向きもしない孫を逆に頼もしく思った。それに嫌気をさして彼女は釣りを止めたようだ。
「じゃあ止めたのは、おじいさんへの反骨精神なんですか」
「そんな立派もんじゃあないけれど、弟は熱意がないのにあたしと同じようにしてもらえるのに腹が立った。依怙贔屓されてたまるかってね」
でもよくよく考えると、裕介もあたしもこう言う自然を相手に、長時間付き合っているより、スーパーに行けば鮎はパックに入って売ってる。ならば炎天下に晒されるより、部屋でパソコンを相手にするか、弟のように本を読んでいた方が教養と自律心が身に付くと思った。




