坂部の話2
少し気を抜くとあれほどの説教にも堪えてない。いったい何しに大学へ来ているんだと呆れていた。まあ町中で知らん女に声を掛けるより、じっくりとサークル内で選り好みして付き合うのも、それも大学生活かもしれんと暫く様子を見た。そんなこんなでいつも落ち着いている高村が、数日後には珍しく講義室の前で待ち受けて、近くの喫茶店に無理矢理誘われた。
「あれほど真面目に講義を受けるように言うお前が今日はどうした」
と席に着くなり珍しく血相を変えて慌てる高村を見て驚いた。高村は珈琲を注文する前に坂部に「あの女が急にサークルの勧誘にやって来たのはお前が紹介したのか」と問われた。どうやら今朝校門の前でサークルの勧誘を受け、そいつが和久井佳乃子と知って振り切って飛んで来た。
「いや俺はひと言もお前の事を言ってない。あの女が勝手に自分で勧誘に行って偶然会ったのだろう」
「お前から話を聴いた後ではどうも腑に落ちない」と聞き入れない。
急に降り出した雨で雨宿りを口実にやって来た佳乃子ちゃんが、どうもそれは高村の事を訊きに来たから俺は断ったよ。
その日は来るなり佳乃子ちゃんが以前に五千円も吹っ掛けて、結局タダで置いていった壺が、入り口の傘入れ代わりに置いて有るのを見て驚いていた。バカね、あの壺をこんな傘立にして、でもこんな傘立てなら百均で売っているわよ、と知らされても憎めない女だ。確かに顔立ちは良いが、取って付けたような器量が気になった。
よくよく聞くと此の壺は彼女の伯父がやっている陶芸教室で、毎回出来る焼き具合の悪い不良品らしい。それをたたき割らずに引き取っただけに、日用品以外の骨董品的な価値を付けて売るようだ。
「それを買わされたのか、お前はいいカモだろうなあ」
「そうでもないらしい。金が無いと言ったら置いて行った」