祖母の話4
茶室は両側に板敷きの廊下があり四畳半ほどの部屋が三つ並んだ細長い部屋だ。人数に応じて襖で仕切られて全部外すと三十人でも楽に座れた。今は庭に面した部屋で二人は祖母からお茶を点ててもらっている。部屋の隅には四十センチほどの炉が切ってあり、その中央の五徳の上に置かれた茶釜から蒸気が上っていた。
「どうして典子さんは何も言わないですか」
茶碗に茶筅で茶を点てているおばあちゃんに頃合いを見て坂部は訊ねた。
「多分に姪の美津枝がそうしているんでしょう」
一連の動作に何の乱れもなく、点てた茶を坂部の前に差し出した。
「でも伯母さんはおじいちゃんからの再婚話には耳を貸さずに娘の典子さんには口止めしてるんですか」
静かに茶碗を持ったまま、そこにおじいさんとの間にどんな確執があったのか考えた。矢張り此の五年ほど色々と訊けば、千里も義祖父をどうしても贔屓に見てしまう。それに引き換え何も知らない坂部は突っ込んだ質問を次々と出した。
どうしても知りたいのは伯母さんが家出をした原因だ。坂部はそこを追求した。
おばあちゃんは坂部が飲み干した茶器を布巾で吹き終わると、今度は千里さんにあたしに一杯点ててもらいましょうと頼み込んだ。千里さんは祖母と場所を入れ替わってお茶を点てておばあちゃんの前に出した。
三代目で義兄の利寛は、本人も病弱だけれど、奥さんもこれに輪を掛けたように優れなかった。それで身の回りの世話をしてもらう人を雇えばと言ったが、奥さんは一人で家の切り盛りをして倒れてしまった。奥さんは何事も人任せが嫌な人だ。それなら当家の遺訓なんて無視すればいいのに、と美津枝は散々に父に食って掛かった。その勝ち気な娘の間に入って止めたのが奥さんでした。此の板挟みで美津枝はとうとう家を飛び出した。あたしは福井の新居から時々は本家の様子を見聞きして、その程度の事しか知らない。




