坂部の話1
高村にすれば坂部が俺に言いたいのは、サークルの話か彼女の話なのか混ぜて話されると判らなくなる。だが突き詰めて整理するとサークルはどうでも良くて、その和久井と云う女の話に尽きるようだ。そこから想像すると、坂部は実家の田舎では邪険にされてるようだ。もちろん虐待でなく、子供ながらに甘えたいときに構ってもらえなかった。要するに家族の愛情を知らずに育ち、ここに来てから急に彼女に優しくされたその反動が出たのだ。女にすればそれほどの気持ちは持ち合わせていない。それどころか適当に相手にしていた。それでも子供の頃から母親の愛情に飢えてる坂部にはかなりの刺激のようだ。
これが高村が受けた坂部の語る和久井佳乃子の印象だ。家族から受けた愛情が気薄なのを、坂部はあの女で紛らわしていた。
親は坂部一人をほったらかした過去に報いるために大学に行かせた。少しはそれに応えろ。具体的には学費を払っている以上はもっと貪欲に勉強しろ、無理ならせめて授業には集中しろと言った。これは正論だけに生活費を切り詰めながら払った学費を無駄にしている矛盾点を突かれると、反論は何も出来なかった。そこから少しは引け目に感じているのだろう、余り女の話はしなくなった。そうなると入学と謂うひとつの目的に、今までの人生の大半をすり減らして凋落した、坂部が気の毒にも見える。それでも坂部が和久井佳乃子を嬉しそうに語る姿に彼奴の飢えた愛情が否応なく伝わった。
「夏休みにはみんな相手を見付けたいと女の子が多いサークルのはしごをしていやがるんだ。お前のような堅物でもひとりでも多く入れるために、相性を無視して寄ってくるように研究会も可愛い女を置いて居るんだ。じゃあ、今度俺の身内に居るいい女を紹介してやるよ」