大野市内1
よく見ればがっしりした体格でない坂部は、十八になる前から車の運転を習って、十八になった頃に免許を手にした。もし大学に落ちたら直ぐに働くつもりで、非力な体力を必死でカバーできるようにした。なるほど理由が分かりそうな体力だ。この説明に二人はちょっと反省した。
「ごめんなさいね」
「いや別に良いんですよ。土方が無理なら車の運転を遣れば良いと高校生になってバイトを始めて達した境地ですから」
「へえ〜高校生でねえ〜、そんな境地に到達できるなんて」
裕介も案外見る目があると認識を改めた二人は、坂部を見直した。
大野市内が一望できて北の外れにある山の麓が我が家で、此処から逆に南西のあの辺りが真名峡だ。あそこならイワナが釣れると美紗和さんが指し示すとそう遠くないようだ。八キロほど有って自転車で行けば三十分ぐらいだと千里さんにも勧められた。そう大きな町ではないと車で何カ所か案内してくれた。
先ずは城を中心にして四方を囲む山々の麓まで行き、そこから数百メートル沢登りをする。これには千里さんが、こんな近くに渓流が結構あるのかと驚いていた。これらの川の大半はあの九頭竜川に流れる込む。その支流のひとつひとつを見て回った。おじいちゃんが居た頃は大場さんと二人で鮎の友釣りに明け暮れていた。あれから又今年も鮎釣りの季節になった。今年はまだ一度も大場さんは九頭竜川には行ってない。そう言えば夏になると食卓に釣りたての鮎を千里さんは良く焼いて、小さいのは天ぷらにする。二人が釣ってくるのは大きくて串に刺して塩を振りかけ、そのまま炭火で七輪に掛けて焼いていた。それが今年はさっぱりで千里さんも手持ち無沙汰だ。大場さんも坂部だといちいちおとりの鮎の調子ばかり気になり却って足手まといだ。渓流のイワナは体力が持ちそうも無いわねと、それでも楽な場所を探して結構走り回ってくれた。
最後におじいちゃんがよく行った九頭竜川の釣りをした近くの喫茶店に車を止めた。此の店は坂部も此の前にブレンド珈琲が旨いからと入った店だ。丁度九頭竜川が大きく蛇行する転換点に有る店で、そこからは良く川が見渡せた。




