越前大野城2
思案しているともう時間ですからと下の茶室へ案内された。そこには千里さんが気軽なワンピース姿で、広い茶室の端にある茶釜の傍で畏まっていた。そこへお待たせと美紗和さんが対座した。ぶっきら棒に立っている坂部に、もう気後れしないでと、端に積んである座布団をひとつ持って来て千里さんの隣に正座させた。
今日は新弟子が一人増えましたのでよろしくと挨拶する。何でこの珍客が茶道の仕来りを習うのかと、千里さんに不思議がられた。私語は慎んで茶釜を前にして座ったときから、どうやら始まっている。さっそく美紗和さんが一服点てて千里さんの前に出した。彼女がこれを飲み干すと坂部にもお茶が点てられた。
「今のを一通りご覧になって続けられないと、祖母にも美津枝さんにも凝った話は出来ませんよ」
と美紗和さんに言われ、鮎の友釣り以外で大場さんと二人になる機会はないか訊ねた。
「そうね、何とか真似だけなら渓流のイワナ釣りならどうかしら」
「それなら様になりますか」
「勿論ッ」
「じゃあそれにするか」
「ところで沢登りは行ったことはありますか?」
無いですと言った瞬間に、ふたりの女性から軽蔑のまなこで見られた。事情を知った千里さんが、正座もきつそうだし沢登りも体力が持ちそうもないし困った人ね、と言われてしまった。
「どうしてこんな人を裕介は連れて来たんでしょうね」
「大場さんとは、何とか話が合いそうだと彼が言ってました」
これには千里さんも「あの人は部外者には割と適当に気配りをする人」と言われて坂部もじっとしている茶道よりは釣りの方が取り組みやすいと頷いた。
「そうか、じゃあちょっとドライブしましょう」
エッと坂部は心ときめいたが、行き先が越前大野城と知ってがっかりした。しかも美紗和さんは千里さんも一緒に誘ったから此の時は更に落ち込んだ。




