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名付け親論争1

 大場さんの車で坂部を観光に連れ出し、大場さんから祖父の考えを聞き出す裕介の計画は不発に終わり屋敷に戻った。大場さんは二人を下ろすとそのまま父と兄を迎えに会社にいった。

 計画は進展しないまま、朝食を終えて高村から割り当てられた自室に戻った。此の部屋は玄関横の応接間から奥の離れに至るまで長く伸びた百坪近い庭に突き出すようにある。庭の奥行きはあっても広がりがなく、余り鑑賞には向かない部屋だ。おそらくこの真下にある二十畳の茶室を池に向かって張り出させて、平安貴族の寝殿造りに無理矢理模倣させているのだろう。三方が庭に囲まれた茶室で開かれる月例の茶会はさぞかしおごそかな気分に浸れるだろう、と奥の図書室を兼ねる書斎へ入った。大場さんから伺った越前大野藩土井家の記録を調べるためだ。地元の高村より都会から来た坂部の方が此処の郷土史に熱心に取り組んでいる。

 高村家があれほど拘る越前大野藩主は、家康の家臣土井利勝の四男で幕府老中を勤め上げて越前大野藩主に就いた徳川幕府の譜代大名だ。

 坂部は隣の書斎にこもり越前大野藩の土井家について調べ始めると、お勉強ですかと美紗和さんがやって来た。今日は所用で出掛ける前に、裕介から坂部が書斎で調べものをしているから手伝ってやれと頼まれた。

「此処の郷土史に関しては一番熱心なのが坂部さんで、他の人は矢張り身近すぎて新鮮味が欠けて面白くないのかしら」

「そう言う美紗和さんはどうなんですか。此処には余り来ないのでしょう」

「だって此の部屋はおじいちゃんが亡くなるまではおじいちゃん専用で誰も入れなかったのよ。こんなに沢山の本を揃えているとは知らなかった」

 と坂部同様に感心した。

「それでどうして急に地元の大野藩ばかり調べるの」

「まあ、大場さんからある事実が分かって、当家が拘る以上は居候の身としはほっとけないだろう。ところで美紗和さんは典子さんの子供の名前って知ってたー?」

 典子さんの子供の名前はおじいさんが、あの子がハイハイから立って歩けるようになってみんなを驚かそうとサプライズで用意していた。丁度その時期で祖父は亡くなって、名前の告知はうやむやになった。



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