乗り切れない話2
裕介が坂部を連れ出したのは観光が目的ではない。大場さんから祖父の事を聞き出すことだ。そのせいか仏頂面でどうするのか、と訊かれてしまった。
「高村家のように事業で忙しい家は余り観光には行かないから、この際話の種に行ってみれば千里さんもそうですが、美紗和さんとも話が弾みますよ」
やはり向こうが上手だ。坂部にすれば願ってもない。そうかもしれないと裕介はこれには同意した。
「亡くなったおじいさんは、また典子さんをどうして呼び寄せたのですか」
それでも坂部は果敢に聞き出そうとした。
「典子さんは家の事はよく知ってましたからね。特に離れに引きこもってしまったおばあちゃんの食事の好みを一番知っていたのは彼女です。千里さんはどうも味付けが適当なんですよ。先代とはそれでも話術で上手に接していても、おばあさんには通じない。代々馴染んだ我が家の好みの胃袋が掴めないんですから、それで行くところがなかったら家へ来いと呼び戻したんですよ」
「まあ、そんなところか」
裕介は何となく坂部に了解させた。
「だから食事の準備に千里さんは、典子さんに付きっきりなんですよ。まあそう言う家族ですから東尋坊なんて行きませんよ。裕介さんがいい例ですよ」
「だから何が凄いんだッ」
地元に居ながら知らない裕介にすれば面白くない。
見れば分かります、と大場さんは説明しなかった。裕介も深入りはしなかった。この辺の遣り取りが坂部には長年の年季を感じさせる。そこへどうやって割り込むか。
「高村から聞きましたが、飛騨の出身何ですね」
「そうですがこの歳ですから帰っても誰もいませんよ」
還暦を前にして流石にそれはないだろう。おそらく兄弟達はみんな独立して家庭を持っているんだろう。そんな所へどの面下げて帰れと云うのかと、ハンドルを持つ大場さんの後ろ姿からそんな哀愁が漂ってきた。




