観光に出る1
食事会が終わって玄関から駐車場に帰る大場さんを石畳の途中で呼び止めた。屋敷内とはいえ暗がりの中でいきなり呼ばれて驚いていた。
「裕介さんですか、坂部さんもご一緒に、どうしたんですか。部屋へ戻らなくていいんですか」
「夜空が綺麗だから酔い冷ましに散歩に出たんだ」
そこで明日は坂部を福井へ案内したいので、シーマを出してもらえないか頼んだ。大場さんの日課は、朝夕は社長と克之さんを会社まで送り迎えして、昼間は家の人に頼まれれば車を走らせていた。昼間にシーマを使うのは祖母と伯母ぐらいだ。千里さんは買い物は自転車でそれ以外はバスだ。祖母の了解を取り付けたのならと引き受けてくれた。
翌朝は食堂と廊下を挟んで、庭に突き出るように有る居間で大場さんを待った。高村と坂部は典子さんの淹れてくれた珈琲を飲みながら、居間から奥に広がる庭に眼を投じている。
「この家では亡くなった祖父の次に古いのが大場さんって云っていたけれど。じゃあ昨夜見たおばあちゃんは大場さんより若いはずだが、どう見てもおばあちゃんの方が上だなあ」
長男は病弱で、祖父は次男でこの家を継いだ。その母も美津枝伯母さんを産んで直ぐに亡くなった。病弱な長男は美津枝さんが家出すると、家督を祖父に譲ってそのまま他界したんだ。
「それで祖父がこの家に戻ったときにはもう既に大場さんが居た。おばあちゃんは年上だけれど今は大場さんの次に古いんだ」
「待てよ、美津枝さんが家出したってどういうことだ」
「そんなの解るわけないだろう。俺の生まれる前の事は知るかよ。だけど大場さんなら現場に居たから事情は知ってるが、今まで家の者には話してないから言うかどうかは解らんが、無理だろう。それにもう時効だ」
「そうか、当事者がまだ居るから大場さんも話しにくいんだ」
身内には、と高村は意味ありげに付け加えた。つまりいっときだけ逗留する坂部は例外かも知れないが、それでも彼は口は堅いとも云った。




