特別な食事1
屋敷に戻るともう夕暮れだった。玄関から食堂を窺うと千里さんと典子さんが忙しなく食事の準備をしていた。典子さんはともかく、なんで若奥さんの千里さんまで手伝っているのだろう。この疑問に美紗和さんが「今日はみんな一堂に会して食べるからよ」と説明を受けた。暫く覗いていると、食事はあと三十分したら来て下さいと典子さんに言われてしまった。来たばかりで物珍しいのよと美紗和さんがホローしてくれた。
部屋へ戻るかと庭に面した廊下へ行きかけると、裕介が急に消えた。引き返すと食堂奥にある階段を姉弟は上がって行く。到着した時はここから上がったのかと慌てて後を追った。階段は途中の踊り場で折れ曲がって、二階へ上がった踊り場で廊下が左右に分かれていた。二人は右に行ったので付いて行くことにした。ついでに左の行き先を聞くと長男夫婦の部屋だ。両親はその下の部屋に居ると美紗和さんに言われた。少し歩くと池のある庭に出た。今朝見た庭でも二階の此処から眺めると庭の配置が良く解った。この廊下の奥を右に曲がると坂部の部屋だ。手前が長男の部屋だが結婚して今は物置に変わっている。その隣が美紗和さんだが、サッサと部屋に入ってしまった。裕介は自分の部屋に立ち止まるとお前の部屋は何もないから来いと誘われた。屋敷に着いて高村が消えて心細かっただけにひと息つけた。
板張りの廊下に取り付けた木組みの手すりは引き戸の入り口まで続き引き戸の中は洋室になって驚いた。床は厚めの絨毯が敷かれて、八畳の部屋にベッドと大きめの机に書棚と家具で大半を占めていた。二人はベッドを背もたれにして床に直接座り込んだ。坂部にすれば今朝玄関で別れてから、やっと高村とゆっくり落ち着けた。
「今日の夕食は全員集まるのか」
「嗚呼、俺が久し振りに帰ってきたからなあ」
いつもは祖母とおばの美津枝さんだけは、奥の離れで食事するらしい。




