新学期1
そんな風にして二人の新学期が始まり、いつも学食で顔を合わせていた。大学内の情報に関しては坂部の方が学業を二の次にして集めていた。一方の高村は全くの正反対で講義を聴く以外は洒落たワンルームマンションに籠もって勉強していた。授業のないときはお互い見知った住まいを往復しているが、そんな訳で行動力の違う二人が大学での唯一の接点が昼食に立ち寄る学食だった。最初の頃の話題は合格発表の日に決めた住まいだ。
あの日は大学を出て直ぐ近くの不動産屋へ立ち寄った。先ず坂部が四十がらみの中年の男にこの近くで一番安い物件を探してもらった。
坂部は築四十年はする木造二階建て一階と二階を合わせて四部屋でどの部屋も必ず角部屋になるが、通りに面しておらず細い路地を通り抜けた奥にあった。そのため重機が入らず立て替えも出来ずに、今日までそのままの状態であるのが坂部のアパートだ。
高村は広い道路から大型車は通れないが、普通車なら十分離合できる道路に面して近くに公園もあり長閑な住宅街にあった。ワンルームマンションだけに結構学生以外に若い女性にも人気のある総合住宅だ。そこからかなり奥まった路地を幾つか通り抜けたところに坂部のアパートがある。二人の住まいは紹介した不動産屋から歩いて十分以内で、高村も坂部も此の時にはお互いの物件紹介に一緒に立ち会って部屋を見て、その違いに何も口を挟まなかった。紛れもなくそこには同情心でなく、お互い干渉されたくない、と云う共通の概念が働いている。