裕介の事情2
「典子とは、はとこか。じゃあお母さんの美津枝さんはいとこ叔母さんに当たるのか」
「まあそうだけれど、訊く処を見ると今日の話題に上ったようね」
親父にしてみれば引き取った経緯が解らないまま祖父が亡くなった。知っている祖母は離れに引き籠もったきり茶会以外は顔を滅多に見せない。同じ離れに居る典子さん親子だけが唯一の窓口になって、両親は弱り切っている。別に離れに住んで貰って邪魔にならないと云われても、今は長男も結婚して孫が出来ている。一旦結婚して出て行った典子さんが離婚すれば、おじいちゃんは又呼び戻している。その当人が亡くなった以上は、その権限は親父に移った。それでどうするかで集まった。この際は、おばあちゃんにハッキリ訊くべきだと言う事になって、誰が聞きに行くかで話は行き詰まった。
「そう云う話なら同じ離れに居る典子さんから聞いて貰えばいいんじゃないですか」
彼女なら気さくそうだし、なんせ高村がいとこと勘違いするほど眼中になかった人でもあると坂部が軽いのりで言った。これには二人とも急に振り向き、眉を寄せで難しい顔をされた。裕介はともかく、ハンドルを持った美紗和さんまで振り向かれると危なかった。案の定、車は急ハンドルを切られて、上半身がドアに引きつけられたのもつかの間に、車は一軒の喫茶店で停った。
此処にしましょう、と云う言葉に裕介も頷くと二人は車から降りた。
高村家は町の外れの山裾だが、十分ほど長閑な田園風景を走ったかと思うと、もう市内に入っていた。雰囲気をもう少し眺めたいと思うまもなく、お目当ての店に着いた。
此処は珈琲にかけては老練のマスターが一人でやっていて、都会には負けない味を出している。それだけに若い女の子向きじゃないのよね、と美紗和さんはそれでも軽い足取りで高村に続いて店に入った。五人掛けのカウンターとボックス席が三つの小さな店だ。カウンターの向こうで新聞を読んでいたマスターは「珍しいお客さんですね」と新聞を畳むとカウンターの下にしまい込んだ。三人は空いたボックス席には目もくれずにカウンター席に座った。




