千里3
「それってどう言う意味ですか」
今までこの家で通用していたものが福井の大学へ通うようになると一事が万事、この家では当たり前でも、全く通用しないのに気が付いて唖然とした。
「裕介の話だと、あなたも似たような田舎暮らしから大学へ通うようになったのでしょう、それで都会との違いで驚かなかったの」
田舎と言っても家計に追われて毎日安売りを目当てに、方々に自転車で走り廻って交渉して、それほど世間には疎くない。逆に家の者は此処では周囲との事情の違いを余り知らない事が多いようだ。
「そうなれば、君だって大学に行きだして知れば、ぼくとそう変わらんだろう」
「まあいいわ、此処から隣の書斎を抜けて庭に出られる方法を教えときますから少し歩きましょう」
美紗和は廊下に出て、隣の書庫兼書斎の部屋に入った。でかい机が正面窓側に鎮座して、その周りは全て書棚になっていた。此処が我が家の図書館だと言って、草履を履いて片隅の小さなドアを開けた。家屋に沿って外側に張り出した階段が在り、そこから下の庭に出て驚いた。まだ奥にも庭が広がって、この建物だけが池に面した庭に突き出ていた。この庭の造りは平安時代の寝殿造りを真似て、流石にあんなに広い庭は無理なので、片方だけ真似た造りにしてある。来客が庭を観賞しながら茶を嗜むように、一階の茶室が庭に突き出て作られていた。その二階は付け足しだと言われて、じゃあ僕は付け足しの部屋にいるんですか、と居候の身分もわきまえずに言ってしまった。これには変な顔をされると思いきや、其れもそうねと同情されてしまった。
「でもあの部屋が一番見晴らしが良くて、台風が来れば真っ先に飛ばされそうになるところだから、反対側には廊下でなく板敷きの縁側になっているのよ」
「そう言われても障子しかなかった」
「あらっ、その障子を開ければ縁側でアルミサッシの窓がありそこから池と庭が続いているのが見えるのよ」
そうか、とまだ見ていない奥の庭から離れに繋がっている反対方向の庭を眺めていると、やっと探したぞと裕介がやって来てくれた。




