千里1
家の人と高村との話はいつ終わるのだ、とまた同じ質問をしてしまった。
「それより、ひとくちだけで、せっかくあなたのために差し入れてくれたのだからもっと食べないと」
話に夢中になって、親が典子さんに持たせた桃を、美紗和さんに勧められて食べ出すと、隅にある冷蔵庫から麦茶を用意してくれた。裕介はこの部屋をあなたにあてがったけど最初は何もなかったのだ。それを今では物置になった二階の兄の部屋から、和室のこの部屋には不釣り合いの冷蔵庫を、あたしと千里さんとで運び込んだ。裕介は云うだけで何もしない男だとこき下ろしている。こうして冷たい物が飲めて重宝しているでしょうとも言われた。
「ありがたいですが、その、千里さんって誰?」
「兄の克之の奥さんだけど、兄や裕介は時々冗談交じりにせんりって呼んでるわよ」
どうもこの千里さんも亡くなった祖父のお気に入りだ。彼女は福井市内のデパートに居たところを祖父に見初められ、兄と交際して三年ほど前に結婚した。つまり亡くなった祖父は、自分の意にそぐわない息子の利忠の長男に千里を推薦した。
「その〜、どうも克之も裕介も名前が古風だけど、お父さんの利忠はもっと古風な名前で、何だか昔の大名みたいな名前ですね」
「そうなのよ。それは越前大野藩土井家の七代目藩主の名前なのよ」
と田舎では良いけれど、見知らぬ人ばかりの都会では、余り語りたくない名前だ。どうやらこの家では、昨年なくなった祖父の影響が、今も尾を引いている。裕介はそれをどうするか、家族を交えて下で大学生活の報告とともに議論しているようだ。




