高村の屋敷3
この人が典子さんかと訊ねるとやはりそうだった。彼女も坂部を確認すると奥へ案内した。振り向くと高村の姿はなかった。
「高村は ?」
「裕介さんは此処から自分の部屋へ行かれました」
「勝手にか」
「だって自分の家ですもの」
と吹き出すのを躊躇うように典子に言われた。それもそうだが、今は彼奴しか俺を知るものはいないのに、置いてけぼりされて心細くなった。しゃあないこの女の後をついて行くしかなかった。左側が台所と食堂になっていた。彼女は右側へ行くと広い庭が見えて、明るい日差しが差し込んできた。池のある庭に沿って長い廊下が奥まで続いていた。突き当たりで庭を囲むように右側の階段を上がると奥の部屋へ案内された。そこは八畳ほどの和室だ。
「この下は茶室で普段は使いませんので勝手に入らないように。さっきの階段を上がらずに反対方向に行くと、離れになっていて用のない時はあたしはそこに居ますからごゆっくり」
と部屋を出ようとするのを呼び止めた。
「高村、いや、裕介は何処に居るんだ」
典子は廊下に出て手すり越しにL字型に囲まれた庭の右側、さきほどまで庭に面して歩いた廊下の二階を指差して、手前の部屋で、その隣がお姉さんの美紗和さんの部屋だと説明した。
「その隣にも部屋がありますね」
「あれは結婚される前まで克之さんが使っていた部屋で今は何もない物置です」
「良かったらそっちの方が賑やかそうだなあ」
「でも向こうの部屋は、夏になれば結構遊びに来られますから此処は静かでいいですよ、それにこの奥の部屋は洋室で書庫になってます。何か調べ物をするには持って来いの部屋で、先代のおじいさまが此処を書斎に使ってました。その書斎から庭に出られますから」
なるほど此処でのんびりしろと云う高村の配慮か。
「それでは夕食時には、皆さんに裕介さんから紹介されます。それまではごゆっくり」
と典子さんはサッサと出て行った。




