高村の屋敷1
高村や小石川から立派な家だと聞かされたが、到着した最寄りの無人駅には驚いた。そしてそこに停まっているのは場違いなバブル期の高級車のシーマだ。この座り心地の良い車でこれからこの町とは掛け離れた世界へいく。此の車に不釣り合いな田舎道を、シーマが導く高村の告げる混沌とした世界とはどんなもんなんだ。
ハンドルを持つ大場が、裕介坊ちゃんと言いかけてさん付けに切り替えた。
「どうした」
と高村が窓から開花したばかりの稲穂を眺めたまま面倒くさそうに答えた。
「この車の車検がもう直ぐですがどうしますか、結構費用が掛かりますが」
「どうしてそんなことを俺に訊くんだ」
向き直った高村は大場に言った。
「今の大旦那さまも何も返事されないし、聞いたまでですが」
「別に乗り心地は悪くないし、しかも此の風景に良く溶け込んでいる、第一ばあちゃんも何も言わないのならそれで良いんじゃないか」
聞かれたついでに他に何か変わったことはないかと訊ねた。
「特にありませんが大旦那さまも」
と言いかけて、高村はその言い方はおじいさんが死んでからはおやじは禁句にしたと咎めた。
「そうですね。昨年からは社長と呼んでますが、こうして裕介さんとは暫くご無沙汰されてツイうっかりしました」
「俺が家を空けたからって、そう気分が変わるもんじゃないだろう、まさか家の中もまた昔のままじゃないだろうなあ」
「それはもう社長は先代が亡くなられてからは、家の中で余り敬語を使うな普段通りにしろと言われてますから」
それでも時々ごちゃ混ぜになる大場を注意して、これを何とかしたいらしい。
「だから坂部、お前を我が家に招いたのは、そんな形だけの古い家の習慣の是正にあるんだ」
と高村は強調して坂部に、此の古い金食い虫の車といい、着いてすぐに感じた世間離れした家風を何とかしたいようだ。




