坂部の事情3
「坂部、お前とはいつも学食で会って、俺が洋食でナイフとフォークを持つのは最初の切り分けでその方が食べやすいからだ。同じように飾り立てる男より、素朴な坂部の人柄が気に入って此の夏の帰郷に誘ったのだ」
くだらん女からの噂話は聞いたと思うが、高村家はあのちっぽけな町では数百年も代々続く名門の旧家だが、戦後はなりを潜めてスッカリ変わった。それでも昔からの言い伝えは廃れることなく続いているが仕来りなんかどうでも良い。俺の家で好きに振る舞ってくれと頼まれた。高村は今までの慣習を打破したいようだ。
「それで俺に白羽の矢を立てた処で、見ての通り俺はそんなもんには無関心だが最低限の秩序は守らんと村八分にされてしまうからなあ」
坂部の本音は、合格発表の日に乗り合わせたバスの中で十分に判った。あの時、高村が居なければ、そのまま乗り過ごすところだった。
「あれは普段の地がそのまま出てしまって、今振り返れば恥ずかしい次第だ」
と云うが、高村のあの満員の人を掻き分ける強烈な活力には恐れ入った。
「それでどうしても此の夏は田舎へ帰るのか、まだ来たばかりなのに」
「ああ、どうしてもこまめに帰らないとうるさいんだ」
「何だ、お前でも気になるとはどんな田舎なんだ」
「だからそれは来れば解る」
その前に、なんせ昔は小作人だった名残で、何百年と続いた地主のお前に比べれば、俺の素行は驚くぐらい悪いぞ。なんせ曾祖父の代に小さいながらも田畑だけは自分の物になったばかりだ。お前ところの様に何百年続いた名門の家柄でなく、七十年前の農地改革で狭いながらもやっと地主になった家だ。
「俺は、親の代までに都会生活はテレビで知ったにわか仕込みだから苦労するぞ」
「大丈夫だ、そんな事で咎めるものは誰もいない。ちょっと目を細める程度だ。今時そんなもんで目くじら立てる方がおかしい」
よし解ったじゃあ行くよ。




