高村の噂6
壺を置いて行った和久井との接点を求めていたが、もう何処にも見つからなかった。そこでこの日から坂部は正反対の行動、避けるようにした。
和久井は坂部のアパートを知っているが、高村のワンルームマンションは知らない。それを幸いに坂部は、学食でなく高村の部屋を訪ねる機会を増やした。夏休みが来ると高村はこの町の夏は堪えられんと、田舎へ秋まで籠もると言って坂部を誘ってきた。坂部にすればそんな敷居の高いお屋敷は肩が凝るから最初は気乗りしなかった。そこで家の姉はお前の付き合ってる和久井佳乃子なんか目じゃないぞ、と言われて俄然気分が急展開して同行することにした。
「お前を誘うにはこれが一番効き目がある」
「そう言う訳じゃないが……」
「郷里に居る姉の風貌を聞いて誘ったら二もなく乗ってきたのがその証拠だろう」
と高村は笑っていた。
「一つ返事で決める処をみると、あの和久井佳乃子と謂う女とはあれから上手くいってないようだなあ」
厄介払いのように言う処をみると、高村もあの女は気に入らないようだ。
「第一にお前も俺も、ひと夏を福井で過ごす事は和久井には知られたくない」
どうやら向こうは勧誘した頃の意気込みは何処へ行ったのか。あれから一向にサークル活動には熱が入らず、完全に冷め切っている所で、高村に更に冷やかされた。
「熱が冷めたのはどっちだ。向こうかお前か」
「自然消滅だ」
「嘘をつけ! 休戦中なんだろう」
「休戦中、なら三十八度線は何処に有るんだ」
「男女の関係にそんなハッキリした境目がないからひと悶着が起こるのだ」
と云って高村は更に高笑いした。




