また描かれてる!?
「……おい、見ろよ。あれ、またじゃね?」
昼下がりの校舎裏。
窓から見えたのは、無言で立ち尽くす例の男子。手にはノートを持ち、身体は少し斜め。視線は遠く。
その目の前には、全力でスケッチする男――例の美術バカ。
「うっそでしょ……またあいつ、モデルやってんの?」
「え、頼まれたの?てか断らないの?いや、ふつう断るよね?」
三人の女子が影からこそこそ覗いている。
そのうちのひとり、好奇心に勝てず、スマホのカメラを構えかけたがすぐにやめた。何かが――神聖すぎた。
「……ていうかさ、あいつって、ほんとに生きてる?」
「いや、動いてないだけで生きてるんだよ。あれが普通なんだって」
「人間やめてるじゃん」
ざわ…と風が吹き抜ける。
「ていうか、美術部のあいつ、目つきヤバくない?」
「描いてる時の集中力、アレ絶対何か召喚してる」
「わかる。でもさ……正直、あいつら並んでるとさ、なんか、カッコよくない?」
「わかる……絵になるっていうか、もはや美術館じゃん……」
その時、主人公がゆっくりと首をかしげた。
ただそれだけで、クラスの女子たちは心臓を打たれたように胸を押さえた。
「いま……動いた……!?」
「えっ、ちょっとまって、ちょっとまって、いまの首の角度、超よくない!?イケメンすぎない!?無表情なのに殺しにきてる!!」
「わたし……あの姿、スケッチしたい……」
「それ、相原のセリフじゃん」
チャイムが鳴るまで、彼女たちは影からその場面を見続けた。
いつも通りの、止まってるだけの彼と、それを必死で描く男。
でも、その絵面があまりにも完成されすぎてて、
つい息をのんでしまう。
――あれ、もしかして世界、違う時間流れてない?
誰かがそんなことを呟いた。
誰も否定しなかった。