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第9話 姉弟の絆

私は呆然と佇み、なす術もなくただ去り行く馬車を見送っていた。


「姉上!」


メイヤーくんの声が、私を現実に引き戻した。


「あ…姉上…、ぼく…」


声のする方へ振り向くと、メイヤーくんが今にも溢れだしそうな涙を必死に堪えながら、私を見つめていた。


…ああ、もう、『キル恋』のエレステを意識するのやめよう…


大事なのは一番怖い想いをしたメイヤーくんを抱きしめることだよ。


私は覚悟を決めて、メイヤーくんに駆け寄り彼の肩を抱き寄せた。


彼は一瞬とても驚いた表情をみせたが、次第に私に身を委ねる。


「うわあああん、姉上、ごめんなさいいい…」


メイヤーくんが、膝をつき号泣する。

私はその動きに合わせて彼の肩を抱いたまま同じように膝をつき、彼の頭を優しく撫でる。


「怖い思いをしたよね…よく頑張って耐えて偉かったよ」


私がそう声を掛けると、彼は首を大きく横に振った。


「違うんだ!本当は父上が王国の議会を欠席して残ると言ってくれたんだ!

だけど、僕が父上に認められたいと欲張ったんだ…ううう…」


涙を流しながらメイヤーくんが続ける…


「姉上は、王国に嫁ぐから…

養子の僕は…人の三倍頑張らないと…周囲からアレキサンダード家の次期領主として認めて貰えない…」


「メイヤー…くん」


私は彼の言葉に胸が締め付けられる思いだった。

彼がそんな重圧を抱えていたなんて。

涙を流し続ける彼の背中を、私はそっと撫でながら言葉を選ぶ。


「そんなこと、ないよ。今日だって恐怖に負けず、最後まで涙を溢さなかったじゃない。」


彼は首を横に振る。


「でも、姉上はすごいんだ。アレキサンダード領のため、国のために、王国に嫁ぐんだ…

皆が姉上を尊敬してる。

僕も…僕も、そんな風に認めてもらいたくて…」


その気持ちが彼をどれほど苦しめていたのか、私はようやく理解した。

けれど、彼に一番伝えたいことがあった。


「あのね、私が王国に嫁ぐかはまだわからないけど、たとえそうなったとしてもね、君は私の大事な弟で、アレキサンダード家の一員だよ。

それに…君が養子だからなんて、そんなことは全く関係ないよ、私たちは家族なんだから!」


いつの間にか私は自分の思いも重ねて話していた。


『キル恋』の世界に転生してから、ルプ、父親であるロベルトさん、弟のメイヤーくん、婚約者のブライト王子…

自分がエレステとして認められるように振る舞わないといけないと自分を苦しめていた。


メイヤーくんも、きっと同じように『メイヤー・アレキサンダード』として生きていく事に苦しんでいたのだと気付く。


私は彼の顔を真っ直ぐ見つめながら続けた。


「だから、自分を責めないで。血縁なんて関係ない、私は君を弟として認めてるから!」


彼は涙を拭いながら、私をじっと見つめた。


「…いつもの、姉上じゃない…」


私は慌てるように取り繕う。


「これまでの私の振る舞いで不安にさせてたならごめんない!私、良いお姉ちゃんに生まれ変わったから!」


「ぷっ、ははははは」


メイヤーくんは、先程の涙を忘れたかのように笑い出したあと、安心した表情を浮かべた。


「そうか…よかった。

2年前、姉上が王子との婚約が決まり、僕が養子に迎えられてから、姉上の様子が変わったと父上から聞いていたから、僕、てっきり姉上から嫌われているかと…」


私は彼の言葉を遮るように声を上げた。


「そんなことあるわけない!こんな健気で可愛い弟が出来て、嫌うはずないよ!

きっと、私、王子との婚約が決まって調子にのってたんだと思う!!!」


私の勢いに圧倒されながらも、メイヤーくんはまた大笑いし始める。


「調子にのるって…あはは!姉上…面白すぎますよ!」


活気の戻ったその笑顔はキラキラと輝いていて、等身大の彼の姿がそこにあった。


「姉上、ありがとう!」


メイヤーくんの言葉に、私も自然と微笑みがこぼれた。

私は転生者だし血は繋がってないけれど、目の前の彼に家族と同じ愛情を感じ始めている事に気付いた。


「ありがとう。メイヤー。」


私は自然と彼の名前を呼んでいた。


「僕、ずっと姉上のように認められたいと思っていたけど、やめることにするよ。

姉上には一生敵わないです。」


彼はニッコリと笑顔を見せる。


「ありのままのメイヤーが一番だよ!もう十分に自慢の弟だから!」


私はもう一度彼を抱きしめる。

使用人たちも、その光景に微笑み、ほっとした表情を浮かべて涙を拭っている。


「わわ、姉上、恥ずかしいですよ!」


彼は顔を赤らめ私の腕を振りほどこうとジタバタと動く。


パカパカパカパカ――


何頭もの蹄の音が近づくと、私たちは思わずそちらに目を向けた。


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